不安を乗り越え、つないだW杯7連覇 女子代表・英菜々子に芽生えたリーダーの自覚

2024.10.14

プレッシャーに打ち勝ち、連覇の襷(たすき)をつないだ。7月28日から8月3日にカナダで開催された「カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ」(以下W杯)。野球日本代表「侍ジャパン」女子代表の一員としてW杯に初出場した埼玉西武ライオンズ・レディースの英(はなぶさ)菜々子捕手は、大会通じて10打数5安打2打点をマークし、捕手部門でベストナインに輝く活躍でチームの7連覇に貢献した。

写真提供=Getty Images

写真提供=Getty Images

打率.500&2打点…捕手部門でベストナインを受賞

 プレッシャーに打ち勝ち、連覇の襷(たすき)をつないだ。7月28日から8月3日にカナダで開催された「カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ」(以下W杯)。野球日本代表「侍ジャパン」女子代表の一員としてW杯に初出場した埼玉西武ライオンズ・レディースの英(はなぶさ)菜々子捕手は、大会通じて10打数5安打2打点をマークし、捕手部門でベストナインに輝く活躍でチームの7連覇に貢献した。

 自らのミットで最終アウトを掴み、世界一を決めた。米国との決勝戦、5点リードで迎えた7回2死一、二塁。三塁側のバックネット付近に打ち上がった飛球をキャッチして最後のアウトを奪うと、両手を上げながらマウンドへ駆け寄った。大会7連覇を決める21個目のアウトを、文字通り、自身の手で掴むとは思っていなかった。

「打球が上がった瞬間とマウンドに行くところは覚えているんですけど、どのように捕ったかは何も記憶がありません。普段は結構、打球の回転や体の入れ方を考えますが、(あの打球は)何も考えなかった。とりあえず捕りにいくぞ、というくらいでした」

 11-6というスコアを見ると快勝のように思えるが、ヒヤヒヤの勝利だった。11-1の5回に3ランを浴び、6回にも2点を献上した。同大会最多となる4本塁打を放った米国打線を相手に感じたのは、日本では経験したことのない恐怖だった。

「ホームランを警戒して配球するしかない。『ここで打たれたら何点差……』という考えが頭によぎるんです。それまでは『ヒットを打たれないように』と配球していましたが、決勝では『単打ならオッケー』という感じでした。日本では経験しなかったこと。グループリーグでもそのような配球はしたことなかったですね」

米国に敗れてW杯連勝はストップ…転機になった決勝前日「とても長く感じた」

“大会7連覇”と聞くと、日本が他を寄せ付けない圧倒的な存在のようにも思えるが、決して簡単な道のりではなかった。決勝戦の2日前、最終戦で米国と対戦した日本は、延長タイブレークの末に敗れた。この黒星でW杯の連勝記録は39でストップ。ファイナルステージを2位で終え、決勝に進んだ。

「 “打倒日本”の雰囲気は常に感じていました。(負けた時に)悔しくて泣いている選手もいたり、(自分自身も)『どうしよう』と思ったり。ただ、出口(彩香)選手や川端(友紀)選手は『明後日決めるよ! (敗戦が)今日で良かった!』と前向きな言葉を掛けてくれたので、私も流れに乗ってポジティブな声掛けをしようと意識しました」

 敗戦から一夜明け、決勝戦前日の空き日を休養にあてていたが、それでも居ても立ってもいられず宿舎外の野原に向かうと、不安な思いに駆られながら負けた試合の動画を見直し、必死で米国打線を研究した。

「不安でした。気持ち的には早く勝って終わりたかったので(決勝まで)とても長く感じたんですが、結果的には休みが1日あって良かったです」

 1日中動画を見直していると、米国打線は縦の変化球には弱いことがわかってきた。決勝では、その気付きを生かして投手陣をリード。5回から猛追されながらも清水美佑投手、久保夏葵投手、田中露朝投手の継投で逃げ切り、勝利をもぎ取った。


写真提供=Full-Count

7連覇で感じた安堵も…先輩からの一言で奮起

 昨年9月の「カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ・グループB」に出場したが、W杯本大会の出場は初めてだった。2018年には最終候補となり合宿にも参加したが、残念ながら選外に。ようやくたどり着いた夢舞台は喜び以上にプレッシャーの方が大きかった。

「やはりファイナルステージはプレッシャーが段違いでした。何度も挫けそうになりましたが、結果的にはチームメートに助けられて……。7連覇は日本にとっても良かったですし、自分にとっても自信になりました」

 連覇をつなぎ、W杯出場という個人の目標も成し遂げた。達成感に似た、どこかホッとした気持ちが沸いてきたという。「モチベーションや次の目標がないわけではなかったのですが、正直なところW杯まで全速力出かけ抜けすぎて、一旦休憩したいと思っていました」。そんな英選手の目を覚まさせたのは、埼玉西武ライオンズ・レディースの初代キャプテン、出口選手だった。

「『まだ続けなさい』と言われました。ただ、そう言われたことで、私も先輩方のように後輩を引っ張っていく存在になりたい、と強く思うようになったんです」

 W杯ではプレーでチームを盛り立てるだけでなく、率先して声掛けや雰囲気作りに努めた。埼玉西武ライオンズ・レディースでは2023年に出口選手から引き継ぎ、2代目主将を任されている。自らも後輩たちに憧れられる、そんな存在になっていきたいと願う。

「8連覇に向けて、自分が代表チームで今後大きな役割を果たせるよう、今の自分に満足せず、野球人としてレベルを上げていきたいです」

 大きく背伸びはし過ぎない。ただ、接戦を強いられた米国だけでなく、開催地のカナダなど世界の女子野球のレベルの高さを痛感した。その経験を無駄にすることなく、連覇の襷をつなぐために頼られる存在になりたい。そう心に誓った。

記事提供=Full-Count
写真提供=Getty Images, Full-Count

NEWS新着記事