歓喜の金メダル→WBCで無念の離脱 栗林良吏を突き動かす“悔しさ”という原動力
2020年ドラフト1位で広島東洋に入団し、1年目からクローザーとして活躍している栗林良吏投手。野球日本代表「侍ジャパン」トップチームにも1年目から選出され、2021年の東京では、野球が正式競技となってから初の金メダル獲得に守護神として貢献した。栗林投手は「常に選んでもらいたいという気持ちを持ってプレーしています」と語る。
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プロ1年目ながら“守護神”として金メダル獲得に貢献
2020年ドラフト1位で広島東洋に入団し、1年目からクローザーとして活躍している栗林良吏投手。野球日本代表「侍ジャパン」トップチームにも1年目から選出され、2021年の東京では、野球が正式競技となってから初の金メダル獲得に守護神として貢献した。栗林投手は「常に選んでもらいたいという気持ちを持ってプレーしています」と語る。
開催が1年延期になったため選出された2021年の東京。入団1年目からクローザーに抜擢され、着実に結果を積み重ねていたものの、「まさか選ばれるとは思っていませんでした」と驚きの初選出となった。「代表のユニホームを着られる喜びより、このユニホームを着ていいのかという不安の方が大きかったです」と振り返るも、5試合に登板して2勝3セーブの活躍。日本の守護神として野球界の歴史にその名を刻んだ。
世界の舞台で結果を出しただけに「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™(WBC)」の代表選出は順当と思えた。3大会ぶりの優勝を目指すチームには大谷翔平投手(ロサンゼルス・ドジャース)やダルビッシュ有投手(サンディエゴ・パドレス)などメジャー選手も招集され、そこで栗林投手はリリーフとして活躍を期待されていた。
だが、予期せぬ結末が待っていた。日本が準々決勝進出を決めた直後、栗山英樹監督は栗林投手の離脱を決めた。腰の違和感により本来の投球が影を潜めていたこともあり、指揮官から「(栗林の)将来を考えると怖くて起用できない」と告げられたという。初のWBCは登板することなく無念の途中離脱となった。
まさかの離脱…右腕の心の支えとなったダルビッシュの言葉
栗林投手はこの離脱を「悔しい気持ちしかありませんでした」と振り返る。新人王を獲得した2021年から2年間、体に違和感を抱えながらもマウンドに立ち結果を残してきた。もちろん自らの投球が敗戦を招き、悔しさを背負ったこともある。ただ、結果が出る以前の離脱は、プロに入ってから初めての経験だった。
「登板機会がないまま代表を離脱することになりましたが、そこまで調子は悪くありませんでした。それまで打たれる挫折はありましたが、(WBCの離脱は)打たれる打たれないに関わらないものだったので、気持ちの整理が難しい部分もありました」
栗山監督からメンバーを外れることを告げられた直後、栗林投手の胸をよぎったのは「広島に帰りたい」という気持ちだった。「悔しさとも違う、初めて味わった気持ちでした。悔しさと申し訳なさで、みんなの前に行きたくなかったのを覚えています」と複雑な心境を忘れることはない。
落ち込む栗林投手を救ったのはダルビッシュ投手だった。チームを離れる前に全員で写真を撮ろうと提案。去り際には「もう1度一緒に戦えるように頑張ろう」とエールを送られた。数々の経験を積み重ねてきたダルビッシュ投手の存在が落ち込む右腕の心を支えた。
再び袖を通した代表ユニホーム「意味合いが違いました」
WBC途中離脱の経験があるからこそ、侍ジャパンへの思いはより一層強くなっている。
「もう一度、代表に選んでもらえるように頑張りたいという気持ちが湧いてきました。あの悔しさがあったからこそ、取り返したい気持ちを持ってシーズンを戦うことができました」
2023年、前半戦こそ結果が出ない苦しい投球が続いたものの、後半戦は安定感抜群の投球を披露。1年目、2年目より多い55試合に登板し、チームの上位進出に貢献した。その結果が認められ、今年3月6、7日に行われた「カーネクスト 侍ジャパンシリーズ2024 日本vs欧州代表」でメンバー選出。再び、侍ジャパンのユニホームに袖を通した。
「絶対に出たいと思っていましたし、呼んでもらえてうれしかったです。他の選手にとっては練習試合という位置づけだったかもしれませんが、僕にとっては意味合いが違いました。いいところを見せたい、その思いが強かったです」
欧州代表戦の第1戦に登板し、1回を無失点。栗山監督の後を受け継いだ井端弘和新監督に健在ぶりをしっかりと印象づけた。
場面を問わず投げる覚悟「もう一度優勝を味わいたい」
シーズン終了後の11月には連覇の期待がかかる「ラグザス presents 第3回WBSCプレミア12」が東京ドームで開催される。世界ランキング上位12チームが参加。2026年の第6回WBC、そして2028年のロサンゼルスを見据えた戦いが始まる。
「大会に出場したいと思って今季も投げていますし、シーズンを通して井端監督に選んでもらえるような結果を出さないといけないと思っています」と意気込む。広島東洋ではクローザーの役割を担っているが、代表ではポジションにこだわらない。日本の勝利のために、場面を問わず腕を振る覚悟だ。
「代表には良い投手がたくさんいるので9回でなければという思いはありません。どの場面でもいいのでマウンドに上がってチームの輪に入りたいですし、もう一度、(2021年の)東京のような優勝の喜びを味わいたいと思っています」
今季は日本人トップの37セーブ(9月18日時点)を挙げ、日本を代表するクローザーに成長した栗林投手。“広島の絶対的守護神”は、もう一度世界一に輝く日を目指し、鍛錬を重ねていく。
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