甲子園中止の影響は…? 元U-18代表コーチが語る“冬の国際大会”の戦い方

2020.7.14

今年9月に台湾・高雄で開催が予定されていた「第13回 BFA U18アジア野球選手権大会」(以下、アジア選手権)は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、12月20日開幕に延期された。2大会ぶりの優勝を狙う野球日本代表「侍ジャパン」U-18代表にとって、この変更はどのような影響をもたらすのか。2014年、2016年、2017年と3度にわたり、コーチとしてU-18代表を支えた享栄高等学校硬式野球部・大藤敏行監督が、その経験を踏まえながら前例のない大会への挑み方を指南した。

写真提供=Full-Count

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代表コーチを3度務めた享栄高等学校・大藤敏行監督が考える“好条件”とは

 今年9月に台湾・高雄で開催が予定されていた「第13回 BFA U18アジア野球選手権大会」(以下、アジア選手権)は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、12月20日開幕に延期された。2大会ぶりの優勝を狙う野球日本代表「侍ジャパン」U-18代表にとって、この変更はどのような影響をもたらすのか。2014年、2016年、2017年と3度にわたり、コーチとしてU-18代表を支えた享栄高等学校硬式野球部・大藤敏行監督が、その経験を踏まえながら前例のない大会への挑み方を指南した。

「今年の状況は、日本代表にとって間違いなくチャンス。例年、日本は甲子園が終わってから急ピッチでチームを編成して、直後に始まるU-18(代表の国際大会)に臨むわけですが、とにかく準備の時間がない。そういう意味では、甲子園が開催されない分、今から木製バットに慣れる時間がありますし、これまで以上に万全の状態で臨めるでしょう」

 毎年課題に挙がる木製バットへの対応の他にも、今年は選手のメンタル面で状況は例年と大きく異なる。夏の甲子園中止という高校球児にとって何よりも大きな失望も、ことU-18代表に限って言えば「プラスに働くのでは……」というのが大藤監督の見立てだ。

「甲子園が終わって、いつもと違う代表メンバーで海外での大会を戦うともなれば、燃え尽き症候群も手伝って修学旅行気分になるのも18歳には無理からぬこと。その点、今年は甲子園がなく、燃え尽き症候群どころか不完全燃焼の想いで臨む子も多い。『甲子園の分、代表では暴れてやる』と、例年よりも戦う姿勢で入れると思います」

準備期間の長さを利用し、見直すべき面を提言「多角的な選考を行ってもいい」

 例年より長い準備期間、不完全燃焼から沸くモチベーションと、日本にとっては好条件が揃うが、これを機に見直すべき面もあるようだ。大藤監督がU-18代表を離れた2018年はアジア選手権で3位、2019年も「第29回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」で5位に沈んだ。特に、2019年は本職が遊撃手の左打ち内野手を6人招集。慣れない守備位置にコンバートしての起用に、8試合で9失策と持ち前の守備が影を潜めた。

「選手選考委員の先生方にとっても、すごく難しい判断だったと思います。短期決戦で複数ポジションを守れるようにと、スペシャリストよりもユーティリティを多く選出した。確かに、本職がショートの選手はセカンドもサードもある程度は守れます。ただ、例えばショートとセカンドであれば、同じプレーでも真逆の動きが要求される。頭では分かっていても、とっさのプレーでは体が先に反応してしまう。単純に打った守ったより、そういうちょっとした連携のミスが勝敗に繋がるのはよくあることです」

 過去の苦い経験を踏まえながら「トライアウトのようなことをやってみるなど、これまで以上に多角的な選考を行ってもいいかもしれません」と、選手選考の大切さも口にする。

理想的なチーム編成は? 唯一の懸念はチームをまとめるリーダーの不在

 では、日本がとるべきチーム編成とはどのようなものなのか。大藤監督は今井達也投手(埼玉西武)、藤平尚真投手(東北楽天)、堀瑞輝投手(北海道日本ハム)ら屈指の好投手を擁した2016年を引き合いに語った。

「何といってもピッチャー陣が良かった。打者は正直そこまで揃っていませんでしたが、日本(が目指す形)はああいうチームしかないのかなと。2017年は清宮(幸太郎内野手・北海道日本ハム)や中村(奨成捕手・広島東洋)、安田(尚憲内野手・千葉ロッテ)といった大きい打球を打てる選手が複数いましたが、結局、本大会になると打てなくなってしまう。世界大会になればアメリカや韓国以外でも、チームに1人は150キロを投げる投手がいる。それをいきなり木製バットで打つのですから、やっぱり打線は計算できないと考えた方がいいでしょう」

 また、選手選考にはもう1点、単純な戦力以上に重要視される要素がある。それは、チームをまとめるリーダーの存在だ。そしてそれこそが、甲子園中止の影響が最も懸念される点でもあるという。

 全国から選ばれた選手たちは、ほぼ初対面。さらに、それぞれ地元では注目を浴びるスターたちなのだから、これをまとめるのは至難の業だ。例年であれば、甲子園で活躍した選手、マスコミ報道の多い選手を中心に自然とチームが形成されるというが、今年はそんな“圧倒的な個性”を持つ存在が生まれにくい状況にある。

「メディアで取り上げられている子は周囲からも一目置かれていますし、本人も注目されることに慣れています。短期決戦であればあるほど、指導者でなく、選手の中でリーダーシップを取れる子の存在が重要になってくる。品行方正で人間的にも成熟した理想のリーダーでも、ヤンチャ集団の中では浮いたり委縮してしまうこともある。一方で、自分のチームではイケイケでも、代表では急に借りてきた猫みたいになってしまう子もいます。どんな化学反応が起きるかは、その年のメンバーを集めて混ぜてみるまで分かりません」

 いわゆる“甲子園のスター”が不在の中で、強烈なリーダーシップを放つ選手をどう確保するか。その難題をクリアした時、2大会ぶりのアジア王者への道が拓けるのかもしれない。

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