侍ジャパンに置きたい「代打の切り札」 “天才”代打師が明かす1打席の「心得」とは(後編)
世界一奪還へ向けて、今春の第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)に挑む野球日本代表「侍ジャパン」。2013年10月から指揮を執る小久保裕紀監督は、28人のメンバーのうち19人を昨年末に発表。残る9人も近日中に発表となる見込みで、注目が集まっている。
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「切り札」として活躍した石井氏が明かす、代打として重要なこと
世界一奪還へ向けて、今春の第4回ワールド・ベースボール・クラシック™ (WBC)に挑む野球日本代表「侍ジャパン」。2013年10月から指揮を執る小久保裕紀監督は、28人のメンバーのうち19人を昨年末に発表。残る9人も近日中に発表となる見込みで、注目が集まっている。
国際大会、短期決戦で勝利への鍵となるのは、勝負どころでの「切り札」の起用。埼玉西武、読売で「天才打者」として活躍したスポーツコメンテーターの石井義人氏は、キャリア終盤には主に代打で好成績を収めた。読売では加入1年目の2012年に代打打率.405(37打数15安打)、得点圏打率.444を記録し、ペナントレース制覇に大きく貢献。中日とのクライマックスシリーズでもサヨナラ打を放つなど大活躍し、代打ながらシリーズMVPに選出された。
そんな石井氏は「代打の心得」として「結果を考えたらダメですね。なぜなら、4打席ある選手が打てなくて、そこに代打で行ったりするわけですから。1打席で結果を出せというのは正直、無理だと思った方がいい。結果を気にしてもしょうがない」とインタビュー前編で明かしてくれた。では、難しい状況の中で石井氏はなぜ「代打の切り札」として結果を残すことが出来たのか。その理由を明かしてくれた。
――石井さんは「代打の心得」として、「結果を考えたらダメ」と話してくださいました。代打で打席に立つ場合は、試合の流れなども気にしないほうがいいのでしょうか? 自分で大事な場面だと考えれば、それだけ重圧がかかると思います。
「結果を気にしたら終わりだと思います。これまで色々見て、やってきましたけど、結果を求めたら、やはりプレッシャーになって体が動かなくなります。日本代表の試合であろうが(結果を気にしても)しょうがない。それだけの期待をかけられるかもしれません。期待に応えられるのはプロの仕事かもしれません。でも、1打席で結果を出せというのは難しい。
ましてや、WBCのように投手の球数制限がある大会では、後からどんどんピッチャーが出てきます。しかも、いいピッチャーばかりが出てくるわけですから。逆に、試合を見ている人は、そういうところもしっかり見てほしいですよね」
なぜ石井氏は代打で結果を残せるようになったのか?
――仮にいい打球であっても、野手の正面などに飛べば、結果に結びつかない場合が野球にはあります。そう考えると、確かに結果を気にしすぎればプレッシャーがかかります。
「いくら打球をしっかり捉えていい当たりであっても『H』(ヒットのランプ)がつかなければダメなんですから。ライナーを打とうが、ファインプレーされようが、『H』がつかなかったら、結局は結果につながらない。ただ、打球が詰まっていようと、どんな形でもヒットになれば流れが変わりますからね」
――石井さんは代打の経験を重ねていく中で、そのように考えられるようになったのでしょうか。それとも、最初からそのように考えていたから、結果を残せたのでしょうか?
「もちろん、最初に巨人(読売)に行った時(2012年)はレギュラーを獲りたいと思っていました。でも、メンバーを見た時に『自分の仕事は何なのかな』と考えて切り替えて、自分は打つことで獲得してもらったのだから、『そういうところで結果を出せば』と思って、気持ちを切り替えられました。
自分も最初は結果が出ませんでした。『なぜか』と考えた時に、考えすぎていた。結果を欲しすぎていた。それが、ヒットが1本出たことで『これで次は打たなくてもいい』と考えられるようになってきた。それは悪い意味ではなくて、前の試合で打ってるんだから次は打てなくてもしょうがない、ということです。そこでまた気持ちが切り替えられる。それを積み重ねていきました」
――そう考えることで、逆に結果が出るようになったと。
「そうですね。気持ちを切り替えた、ということです」
「打って当たり前は絶対にない。相手がいることですから」
――石井さんの話を聞いていると簡単なようにも聞こえますが、開き直るというのは大変な勇気がいることだと思います。
「もちろん、なかなかできないとは思います。あとは、初球を振れるか振れないか。ファーストストライクを振れるか振れないか。打席に行くまではやはり不安です。『打たなきゃな』と。でも、1球振ってしまえば、体がリラックスできます。ファーストストライクをいかに振れるかは代打として大事だと思います。
いきなり代打で出て行ったら、空気に馴染めません。しかも、相手投手がクローザーやセットアッパーで、1点差で満塁というような状況であれば、結果を出すことは無理だと思ったほうがいい。それを考えたら、そこでいかに切り替えられるか。日本のためとかではなく、自分の仕事と思えばいいと思います。結果は後からついてくる、と」
――腹をくくって打席に入るということも大切ですね。打率3割で優秀な打者と言われるわけですから、1打席で必ず打たなくてはいけないと考えれば当然、重圧がかかる。
「そうですね。打てなくて当たり前だと。そのくらいの猶予がないと、『全部打て』というのは無理ですね。神様じゃないので。10打数10安打という人はいない。野球の世界で、抑えて当たり前は絶対にないですし、打って当たり前も絶対にない。相手がいることですから」
――今回のメンバーには、若くて生きのいい選手が多く入っています。ただ、日本代表での経験が多くない分、重圧もかかる。チャンスに代打で出ていくとなれば、なおさらです。だからこそ、あえて「自分の仕事」と考えることは重要かもしれません。
「初めて代表に入って、代打で『打ってこい』というのは無理ですよ。プレッシャーがかかります。結果を求められる世界かもしれませんが、ファンの方もそれを理解して観戦してみると、また違った角度から面白さを感じられると思いますよ」
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