「コーチは助言できる人であれ」 前侍ジャパン投手コーチが語る理想の指導者像

2021.11.15

金メダル獲得という悲願を達成した野球日本代表「侍ジャパン」トップチーム。指揮を執った稲葉篤紀前監督の右腕として投手陣の整備を任されていたのが、投手コーチだった建山義紀氏だ。金メダルへの道のりを振り返ってもらった前回に続き、今回は未来の侍ジャパンに向けての想いや提言について語ってもらった。

写真提供=Getty Images

写真提供=Getty Images

稲葉ジャパンを支えた建山義紀氏が送る未来への提言

 金メダル獲得という悲願を達成した野球日本代表「侍ジャパン」トップチーム。指揮を執った稲葉篤紀前監督の右腕として投手陣の整備を任されていたのが、投手コーチだった建山義紀氏だ。金メダルへの道のりを振り返ってもらった前回に続き、今回は未来の侍ジャパンに向けての想いや提言について語ってもらった。

 2017年に発足した稲葉ジャパンは、2019年の「第2回WBSCプレミア12」、そして今夏と2度、世界の頂点に立った。また、そこに至るまでの過程では「2018日米野球」や各国代表チームと強化・壮行試合を戦いながら国際試合を経験。手応えと課題を感じながらチーム作りに励んだ。

「まず、米国や中南米チームと対戦する時はどうしてもパワーでは勝てないので、日本は投手も野手も精度の部分で攻めることになる。投手でいえば、コントロールと精度の高いウィニングショットが武器になってきます。こういった点は、世界を相手にしても十分に通用する部分だと改めて思いました」

精度に加え、求めていきたいパワー「世界で勝負する上では大事」

 メジャーリーグでも、日本人投手は巧みな投球術や高い制球力を持つと定評がある。一方、海外の選手と比べると体格やパワーに歴然とした差があるとされてきたが、近年ではその状況にも変化は生まれつつある。

「日本人も20年前と比べて体格が大きくなり、ポテンシャルの高い選手が増えてきました。ダルビッシュ(有、サンディエゴ・パドレス)や大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)のようにメジャーの舞台でパワーで戦える選手も出てきた。ということは、これからの日本は精度を念頭に置きながらも、パワーの面でもポテンシャルのある選手が活躍するようになることが大事。そういう選手が1人でも多く誕生してほしいですね」

 以前に比べ、現在では子どもたちが様々な種類のスポーツを手軽に楽しめる環境が整っている。少子化という社会問題も相まって、野球の競技人口が減少する中、子どもたちが野球をしたいと思える環境作りは急務と言えそうだ。

「私が子どもの頃はクラスで一番足の速い子や一番力の強い子は大体野球をやっていました。今はいろいろなスポーツに分散し、ポテンシャルの高い選手が他競技に流出してしまう危機感もあります。ただ、やはり体の大きさやパワーは世界で勝負する上では大事になってくると思います」

 子どもたちの関心を野球に惹きつけるという意味でも、金メダル獲得の快挙は力強いメッセージになったはずだ。「これをきっかけに侍ジャパンに入りたいと思ってくれた子どももきっといると思います」と建山氏も期待する。

大学代表経験者の森下、伊藤が活躍「国際経験の影響はある」

 もう1つ、大切だと実感したのが「国際舞台を踏んだ経験」だという。侍ジャパンでは2013年からトップチームを筆頭に、社会人、U-23、大学生、U-18、U-15、U-12、女子と各カテゴリーを常設化し、体系だった強化に励んできた。建山氏はその効果を実際に感じた人物でもある。

「森下暢仁(広島東洋)や伊藤大海(北海道日本ハム)が活躍できたのも、大学代表として積んだ国際経験の影響はあると思います。若い世代のカテゴリーで国際舞台を踏んでおくと、プロとなりトップチームに選ばれた時、その経験は必ず生きると思います。当たり前ですが、経験は練習では培えるものではありません。実際にその舞台に立ってみないと感じられないことはたくさんあるので、若いうちからいろいろな経験を積んで、対応力を身につけるといいと思いますね」

 未来の侍ジャパンを担う子どもたちが、世界を相手にしても動じないスケールの大きな選手に育つために、監督やコーチはどのようなサポートをすればいいのだろうか。建山氏は「僕自身がそうあろうと思ったのですが……」と言葉を続ける。

「コーチは教える人ではなく、助言できる人であってほしいと思います。一番の理想は、選手が自発的に『こういう選手になりたい』『こういうことをやりたい』と考えて野球に取り組むこと。これが一番身につきます。その取り組みがスムーズにいくように助言できる人が、僕の考える最高のコーチですね。押しつけたものは残らないけれど、自分で考えて取り組んだことは離れていきません。投手がマウンド上で頼りにできるのは自分自身ですから、自分で考える習慣をつけることは大事です」

的確な助言ができるように指導者は「学ぶ姿勢を忘れてはいけない」

 自分の野球論や指導論を子どもたちに押しつけるのではなく、1人1人にあったアドバイスを送れる指導者であるためには「勉強が大事」と断言する。

「体の動かし方であったり、人との接し方であったり、どんなことでも助言できる存在であるためには勉強が必要。監督やコーチは経験だけでは絶対にできません。経験プラス勉強。助言の引き出しを多く持てるように、常に学ぶ姿勢を忘れてはいけないと思います」

 今後は解説者としての活動する傍ら、野球教室などにも参加しながら、野球というスポーツが持つ魅力を未来に繋ぐ役目も果たしていきたいという。また、稲葉前監督とはこんなやりとりもあったそうだ。

「野球界が発展していけるような取り組みを金メダルメンバーで継続できたらいいね、という話を稲葉さんともしました。野球界に貢献できるのであれば、僕も努力は惜しみません」

 2021年、侍ジャパントップチームが築き上げた金メダルのレガシーは、必ずや後世に引き継がれていくはずだ。

記事提供=Full-Count
写真提供=Getty Images

NEWS新着記事