日の丸を背負う逸材を育てるために―遅咲きの強打者・和田一浩氏が語る育成論

2018.2.12

日本のトップレベルの選手が集う野球日本代表「侍ジャパン」。現在は女子を含め各世代に日本代表チームが編成されている。その中で、世界一を目標に掲げる侍ジャパンの出発点となるのは、やはりU-12(12歳以下)、U-15(15歳以下)などのアンダー世代と言えるだろう。世界で通用する選手を育てるためには何が必要か――。2004年のアテネオリンピックや2006年の「第1回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」などで日の丸を背負い、埼玉西武、中日で活躍した和田一浩氏に話を聞いた。

写真提供=Full-Count

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日の丸背負った名手・和田一浩氏が語る育成論

 日本のトップレベルの選手が集う野球日本代表「侍ジャパン」。現在は女子を含め各世代に日本代表チームが編成されている。その中で、世界一を目標に掲げる侍ジャパンの出発点となるのは、やはりU-12(12歳以下)、U-15(15歳以下)などのアンダー世代と言えるだろう。

 世界で通用する選手を育てるためには何が必要か――。2004年のアテネオリンピックや2006年の「第1回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」などで日の丸を背負い、埼玉西武、中日で活躍した和田一浩氏に話を聞いた。

 史上最年長の42歳11か月で2000安打を達成するなど遅咲きだった和田氏。19年もの間、プロでプレーし続けた大打者が指摘するのは「指導方針の確立」だ。たとえば、サッカーの世界では日本サッカー協会(JFA)が指導者ライセンス制度を整備し、年代別の指導におけるスペシャリストの育成も行っている。一方、日本の野球界にはこれといって公認された指導方針が存在していないのが現状だ。

「今はアンダー世代の流れができていますが、例えば、小学生の間はこれをやりなさいとか、最低限やることのマニュアルが全くない。そのあたりの部分はすごく曖昧です。その部分で、サッカーの優れているところは指導者のライセンス制だと思います。野球もそういった流れにしていこうという部分もあるのですが、底辺の部分でどういったものが基本になるのかが確立されてない」

 同氏は今後の課題についてそう語る。

 少年野球の指導は子供たちの親がボランティアで行っている場合が多く見受けられる。インターネットが普及する現在はプロの練習方法などの情報が容易に得られるなど“プロの知識”を知る環境が整いつつあるが、それらを子供たちに教える指導者のレベルは統一されてはいない。

「色々なルールを決めるのと一緒で、各世代の指導者が集まって、話し合って『これは絶対、この年代に必要』というものを、ある程度、発信していけるともっとレベルの高いものを目指せるチームが出来てくると思います。アンダー世代には『こういうことができてくると、ゆくゆく身体ができ上がってきた時に生かされるよね』というものができるといいですね。もう少し、野球の指導者もライセンス制ではないですが、講習などがあれば、すごく進歩するのではないかという感覚を持っています。ただ、アマチュアの指導者の方は土、日を削って指導をしている。一方、プロは給料をもらっているのでちょっと感覚は違います。葛藤ですよね、今の野球界の」

「走り込みは絶対に必要」も適量を見極めることが必要

 和田氏はそう語る一方、野球のレベル自体は着実に向上していると感じているようだ。10、20年前の練習方法とは全く異なったものが取り入れられ、中学生が140キロを投げることも珍しくなくなった。投打の二刀流でトップレベルの実力を持った選手が多く現れるようにもなった。また、根性論が全盛だった昔とは違い、現在は質の高い、合理的な練習が浸透しつつある。高校野球ではタイブレーク制の導入が決まるなど、子供たちの将来を見据えた取り組みも進んでいる。

「知り合いの先生には、小学生が肘の手術をするなんてことがあっていいのかと言う人もいます。昔に比べるとだいぶ改善されてきていると思いますね。根性で投げなさいという時代ではなくなってきている。子供たちの将来を考えたことにそういった考え方が全国的に確立され、もっと全体に広まればいいと思います」

 また、現在は日本とアメリカの練習方法の違いも議論になることが多いが、和田氏は骨格、食生活などが違うことなどを挙げつつ、日本人に合った練習法があると指摘する。

「例えば、走り込みなどは絶対に必要なことです。走ることによって股関節が強くなり、安定する。実際に僕自身、走ってきたことによって、よくなったと感じています。その適量というところが必要でしょう。関節がボロボロになるまで酷使するのかと言われればそうじゃないし、ただ、走らなかったら子供のころに必要な体力はついてこない。一概にやらなくていいということは絶対ないと思います。一つのことだけをとことん追い込みすぎてもダメ。その適量が小学生の時にどこまでいいのか。おそらく、どの指導者もそこは分かっていないと思うんです。そういった部分も課題の一つですね」

タイブレーク制も「いずれ当たり前になる」

 体の酷使を軽減するという意味では、タイブレーク制の導入も大きなポイントとなるだろう。延長18回の死闘、決勝戦の再試合、孤軍奮闘するエースの姿……。ドラマチックな展開や試合が感動を呼ぶことは確かだ。タイブレーク制などの導入でそのような試合が少なくなる可能性もあるが、和田氏は周囲の見方も一過性のものだと考えている。

「そのような試合は一時的には感動する。僕らだって見ていてすごいなって思いますから。実際、自分が高校球児だったら負けられない状況に立てば、肘や肩が壊れてもいいと思って投げてしまう。だから、ある程度、大人が子供の将来を長い目で見ていかないといけないんです。昔なんて『球数制限なんて馬鹿なこと言うな』という時代でしたが、今は中学のシニアでもイニング、球数が制限されている。少しずつは定着してきています。無理する、しないで肉体的なダメージは大きく違ってきます。いずれタイブレークだって10年過ぎれば、それが当たり前になると思いますよ。どんどんやっていくべきです」

 アンダー世代のレベルは近年、驚くほど上がっている。トレーニングや技術面でも進化を見せているが、子供たちをサポートする指導者のレベルアップも今後一層進歩することが必要になってくる。

 和田氏はこう力を込めて言う。

「我々は理不尽なことをやれと言われたらやるしかない時代だった。今の若い世代はある程度、道筋を説明して、こうなんだからやりなさいというのが必要だと思いますね。日本の体質はこうあるべきだと凝り固まっている部分があります。もう少し柔軟にやってもいい時代に来ていると思います」

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