苦しみを乗り越えたチームの成長 都市対抗優勝を狙う日本通運・澤村幸明監督の決意
8月28日から東京ドームを舞台に「第96回都市対抗野球大会」が開催される。全国の予選を勝ち抜いた32チームが社会人野球の頂点を懸けて戦う夏の風物詩。南関東第1代表の日本通運野球部(さいたま市)は、1964年以来2度目となる優勝を目指す。一発勝負のトーナメント方式。負けたら終わりというヒリヒリした戦いを前に、就任6年目の澤村幸明監督は穏やかな口調ながら「頂点を目指して頑張ります」と決意をみなぎらせる。

写真提供=Full-Count
11年連続50回目の出場を誇る常連チームが味わった春先の苦しみ
8月28日から東京ドームを舞台に「第96回都市対抗野球大会」が開催される。全国の予選を勝ち抜いた32チームが社会人野球の頂点を懸けて戦う夏の風物詩。南関東第1代表の日本通運野球部(さいたま市)は、1964年以来2度目となる優勝を目指す。一発勝負のトーナメント方式。負けたら終わりというヒリヒリした戦いを前に、就任6年目の澤村幸明監督は穏やかな口調ながら「頂点を目指して頑張ります」と決意をみなぎらせる。
11年連続50回目の出場を誇る常連チーム。2024年には強豪・HONDAが埼玉県から東京都へ本拠地を移したこともあり、「予選突破は当たり前」という期待を背負いながら、本戦出場の切符を掴んだ。「そんなに甘いものではない。予選の難しさは現役の時も、監督になってからも感じているところです」と澤村監督は話す。
長年、扇の要としてチームを牽引してきた木南了捕手らベテラン勢が引退。新チームで臨んだ4月のJABA四国大会、JABA日立市長杯では決勝トーナメントまで進めなかった。だが、この苦しみがチームの成長を後押しする。選手やスタッフらが会話を重ね、意見を出し合い、今やるべきことに取り組んだ。指揮官は「チームの状態が目に見えて良くなってきた。まず雰囲気が良くなり、1人1人が変わろうという意志が見えたので、良い方向に進んでいるなと感じました」と振り返る。
5月のJABA九州大会では、日本通運ならではの「バッテリーを中心とした守り勝つ野球」で決勝進出。惜しくも王子に1-2で敗れたが、チームは確かな手応えを掴んだ。「絶対に良い時ばかりではない。苦しい時を経験し、乗り越えようとしたことはチームとして大きかった。チームとして精神的にも成長できた中で、うまく(都市対抗)予選に入っていけたと思います」。
「個の成長」で手に入れた「チーム力の向上」
今年は「選手たちが常に頭に入れておけるように」と、初めてチームスローガンを選手に決めてもらった。話し合いの末に決まったのが「熱・厚・圧~日本一~」だ。野球に対する熱意、チームとしての厚み、相手を圧倒する空気。3つの「あつ」に込められた意味を聞いた時、澤村監督は「面白い。これだったら選手1人1人が意識しながら取り組めると思った」と話す。
スローガンを体現するため、「個の力の強化を意識した」と選手たちは口を揃える。これは「個が集結してチームになる。チーム力を上げるためには、まず個の力を上げよう」という澤村監督のメッセージでもある。「技術であったり、メンタルであったり、体力であったり、選手たちが意識しながら個を伸ばそうと日々取り組んでくれている。やはり個のレベルが上がらないと、チームにとっての“当たり前”のレベルは上がりませんから」。個を磨く意識は、チーム内の切磋琢磨も促した。
「選手たちが野球をよく考えて、話をしてくれていると思います。話をして、頭で考えて、動く。考えているだけ、反省しているだけでは上手くならない。行動まで移さないと成長はついてこない。そこはコーチもよく考えて、選手を促しながら、一緒になってやってくれていると思います」
結果として、澤村監督が目指す「バッテリーを中心とした守り勝つ野球」にも磨きがかかった。投手陣の柱でもある相馬和磨投手に加え、2年目の冨士隼斗投手が急成長。走攻守揃った山本空捕手がしっかりリードする。中堅には抜群の守備力と走力が光る手銭竜汰外野手を置き、二遊間には今季からポジションを入れ替えた添田真海内野手と木村翔大内野手。「このセンターラインがチームの要。野球部を支える核がしっかりしている」とブレない土台が出来上がった。
都市対抗を面白くする要素の1つが、補強選手の存在でもある。日本通運には今年、日本製鉄かずさマジックから山本晃希投手と内山翔太内野手が加わった。指揮官は「補強選手による刺激は1つのポイント。うちの選手たちが『補強選手には負けられない』と思うのか、『補強選手が来たから自分は出られない』と諦めるのか。南関東予選から3か月ほど空いてしまいましたが、ここでまたチーム力が上がることを期待しています」と、チームに加わる新たな刺激を歓迎する。
過去2年は準々決勝敗退「ベスト8をしっかり意識しながら、日本一を獲るところまで」
都市対抗で優勝するには5試合を勝ち抜かねばならないが、指揮官の頭の中にはその道筋がしっかりと描かれているようだ。最近2年は準々決勝で敗れ、いずれも対戦チームが優勝を掴んだ。「もちろん一戦一戦が大事。その中でもベスト8をしっかり意識しながらの5試合。日本一を獲るところまで、しっかり持っていきたいですね」と言葉に力を込める。
日本通運は29日の初戦、近畿第3代表の日本製鉄瀬戸内(姫路市)を迎え撃つ。都市対抗の名物でもある、企業一丸となった応援は、何よりも力強いパワーを与えてくれる。家族連れで応援に訪れる社員も多いが、今回は初戦が平日午前10時の開催。さらには開催時期が例年より1か月ほど遅いため、初戦の29日には「さいたま市の小中学生は夏休みが終わっているんですよ」と澤村監督。未来の野球界のためにも多くの子どもたちに来場してほしいと願う指揮官は「ここは1つ勝って、9月3日18時からの2回戦には、授業の後にたくさん応援に来てもらえるように頑張らないと」と笑顔を見せる。
必勝の決意で臨む初戦だが、実は個人的な思い入れもある。日本製鉄瀬戸内を率いる米田真樹監督は熊本工業高時代の同級生。甲子園出場を目指し、3年間ともに戦った仲間だ。「いつかは対戦したいねと話していたのが、このタイミングになりました」と嬉しそうに目尻を下げる。だが、試合となれば真剣勝負。相手にとって不足はない。
「まだ見たことがないので、その景色を見てみたい。選手にも味わわせたい」と話す“社会人野球の頂点”。イメージ通りの戦い方で5試合を勝ち抜き、その頂に立ってみせる。
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