「女子野球を五輪種目に」 W杯2度優勝の小西美加が挑み続ける世界での競技普及

2024.6.3

野球日本代表「侍ジャパン」女子代表が目指す大会7連覇。7月28日から8月3日にカナダで開催される「カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ」(以下W杯)で、前人未到の記録達成に挑む。連覇の歩みを振り返ると、初優勝は2008年、愛媛・松山市で開催された第3回大会だった。

写真提供=Full-Count

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日本開催で成し得たW杯初優勝、その裏にあった2年前の悔しさ

 野球日本代表「侍ジャパン」女子代表が目指す大会7連覇。7月28日から8月3日にカナダで開催される「カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ」(以下W杯)で、前人未到の記録達成に挑む。連覇の歩みを振り返ると、初優勝は2008年、愛媛・松山市で開催された第3回大会だった。

 当時、日本の主力として活躍した1人が、現在は関メディベースボール学院中等部でコーチを務める小西美加さんだ。憧れの舞台だったW杯で、初めて世界の頂点に立った。「合宿の時から『絶対優勝しかない』という状況を作って臨んだ大会でした」。優勝という重圧を自らに課した思いの裏には、2006年に味わった悔しさがあったという。

 W杯に初出場した2006年(台湾開催)、日本は最終戦で米国に11-13で敗れ、2大会連続の準優勝に終わった。この試合で先発を任されたのが小西さんだった。男子代表と同じ縦縞のユニホームを初めて着て臨んだ大会で、米国打線につかまり大量失点。これまで以上に日の丸の重みがのしかかった。

「米国に負けてから悔しさが晴れることはありませんでした。また同じ場所に立たせてもらえるなら、必ず結果を出す。そう強い気持ちを持って2008年までの2年間を過ごしました」

 脳裏から消えることのなかった大量失点の米国戦。その残像が小西さんを突き動かす原動力となった。

飽くなき向上心がもたらしたW杯優勝とプロでの活躍

 2年後の2008年に悲願の初優勝を飾ったが、小西さんの向上心が途切れることはなかったという。

「優勝はしましたが、もっと完璧な投球を求めたいと思っていました。あの1球がいけなかったと思ったり、四球が多い自分に腹が立ったりなど、課題を見つけてそれを克服することしか考えていませんでした」

 野球が上手くなりたい、その熱い思いが3度目のW杯出場を手繰り寄せる。2010年の第4回大会(ベネズエラ開催)はプロ選手の参加が見送られたため小西さんの代表選出はなかったが、2012年にカナダで行われた第5回大会で代表入り。第4戦のチャイニーズ・タイペイ戦で先発を任されると、悪天候による2時間近い試合中断にも怯むことなく、5回コールド勝ちに貢献した。

 勢いを加速させたチームは3連覇を達成。自身にとって2度目の世界一を味わったが、それでも2006年の悔しさが消えることはなかった。

「優勝した時より(敗れた)米国戦の印象がどうしても強いですね。今回の代表チームは7連覇を目指しますが、あの試合に勝っていれば8連覇を目指す戦いになっていました。いまだに悔しさは晴れません」

 常に現状に満足しない飽くなき向上心は、小西さんをさらなる高みへと誘った。2010年から10年プレーした女子プロ野球では、投手として最多勝を4度獲得。打者としても本塁打王に2度輝き、年間MVPにも2度選ばれた。文字通り、日本女子野球界を牽引する存在となった。


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「女子野球を五輪種目に」 世界各地で野球普及活動に尽力

 2019年限りで現役引退した小西さんは「こにたんプロジェクト」と名付けた野球普及活動を始め、世界各地を飛び回っている。「プロで10年プレーし、日本代表としてもプレーさせてもらえた。私自身、野球界に恩返しをしたい気持ちが強く、日本だけではなく世界各国に野球を広めていきたいと思っています」と話す。

 その根底には「女子野球を五輪種目にしたい」という思いがある。「競技国が少ないことが課題と言われているので、まずは野球を知らない国に(競技を)広め、取り組んでいても発展途上の国はレベルを上げていきたいと考えています。日本人が指揮を執ってW杯に出場する国が増えれば、可能性は広がっていくのではないかと感じています」と未来を見据える。

 女子野球の裾野を広げるためには、セカンドキャリアの整備も課題だ。引退後も野球に携わりたいと思っても、その受け皿がなく野球から離れてしまう女子選手は少なくない。「プロ選手になり、仕事として野球をやらせてもらった立場としては、自己満足で終わってはダメだという気持ちがあります。(女子野球を)次世代につなげていきたいし、(引退後も野球に携われる)環境がないなら作ってあげたいと思っています」と思いを吐露する。

 野球人口の減少が取り沙汰される中、女子野球は着実に競技人口を増やしてきた。「(私の)原動力は、野球を頑張っている女の子たちがたくさんいることですね」と、小西さんも背中を押される。

7月の第9回大会で7連覇を目指す後輩たち「安心して任せられます」

 女子野球の魅力を広めるためにも、7月28日にカナダで開幕する第9回W杯は大事な大会になる。7連覇に挑む後輩たちに「元プロ選手もたくさん入っているので安心して任せられます。普段通りの野球をすれば、結果はついてくるはずです」とエールを送る。

「日本の野球が世界中から注目されているのは間違いありません。だからこそ、選手は1人1人の立ち居振る舞いまで見られている意識を持って戦ってほしいと思います。普通にプレーすれば、きっと世界中が認めてくれるはず。それくらい立派なことを普段からやっています。堂々と日本の野球を見せてほしいですね」

 W杯初優勝から16年の長きにわたり、世界の女子野球を先導してきた日本。7連覇に続く道のりには選手たちの野球愛、逆境を跳ね返す不屈の闘志が刻まれてきた。

「『女性だからできないだろう』という声を払拭できるスポーツだと思います。だからこそ、野球が大好きな気持ちを全身で表現している選手が多い。また、戦術を含め、細かいところまでしっかりと鍛え上げています。女子野球の最高峰(W杯)ではそういった点も、ぜひ見てもらいたいですね」

 現役時代はトッププレーヤーとして活躍し、引退後は野球の普及活動と同時にコーチ業もこなす小西さん。「野球への恩返し」を胸に秘め、後輩たちの活躍に刺激を受けながら女子野球の発展のために歩みを進めていく。

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