「必死になる環境与えられ感謝」 栗山英樹監督がWBC王座奪還の使命果たし勇退

2023.6.5

6月2日、野球日本代表「侍ジャパン」トップチームを率いた栗山英樹監督が退任会見を行った。2021年12月2日に就任してから、ちょうど1年半。今年3月の「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™(WBC)」では日本を3大会ぶりの優勝へ導いた指揮官の足跡をたどる。

写真提供=Getty Images

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「頭の中真っ白」だったという驚きの就任要請「日本の野球のために」

 6月2日、野球日本代表「侍ジャパン」トップチームを率いた栗山英樹監督が退任会見を行った。2021年12月2日に就任してから、ちょうど1年半。今年3月の「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™(WBC)」では日本を3大会ぶりの優勝へ導いた指揮官の足跡をたどる。

 2021年夏、東京で悲願の金メダル獲得に成功した稲葉篤紀前監督が退任。後任人事に注目が集まる中、新監督に就任したのが北海道日本ハム監督を卒業したばかりの栗山氏だった。10シーズン指揮を執った北海道日本ハムでは、クライマックスシリーズに5度出場し、2016年には日本シリーズで優勝。選手の育成に定評があり、高い求心力でも知られる栗山氏の就任に頷く人は多かった。

 与えられた使命は、WBCでの王座奪還だ。就任会見では「頭の中真っ白になるというか、想像もしてなかったので、びっくりしたというか、思考が1回止まるというかそんな感じでした」と驚きの要請だったとしたが、「日本野球のために結束して、2023年WBC優勝できるように全力を尽くしていきます。誰よりも野球を愛して精一杯尽くさせていただきます」と強い覚悟を示してみせた。

初陣が中止となるも、国内外の野球を精力的に視察

 WBC本番まで約1年4か月という短い準備期間。侍ジャパン監督として実戦経験を積む機会は限られている。そんな中、初陣となるはずだった2022年3月の「ENEOS侍ジャパンシリーズ2022 日本vsチャイニーズ・タイペイ」がコロナ禍の影響により中止。戦力を見極める貴重な機会を失ったが、栗山監督の歩みが止まることはなかった。

 NPB12球団をはじめ、社会人や大学生などアマチュア野球の現場にも熱心に足を運んで視察。自身の目に、できる限り多くの選手を焼き付けた。さらには、太平洋を越えてメジャーリーグでプレーする日本人選手たちを訪問。教え子でもある大谷翔平投手(ロサンゼルス・エンゼルス)、ダルビッシュ有投手(サンディエゴ・パドレス)ら一人ひとりと直接言葉を交わし、王座奪還に向けての協力を呼びかけた。

 2022年シーズン終了後の11月に開催された「ENEOS侍ジャパンシリーズ2022」では、北海道日本ハム、読売、オーストラリア代表と計4戦を戦い、佐々木朗希投手(千葉ロッテ)や村上宗隆内野手(東京ヤクルト)ら若手選手が躍動。4戦全勝を飾り、4か月後に迫るWBCに期待を抱かせた。

 その直後から、大谷投手やダルビッシュ投手ら日本人メジャー選手たちが次々とWBC参加を表明。栗山監督の“メジャー行脚”がいかに大きな効果を発揮したかを伺わせた。さらに、今年1月26日に発表された30人の侍ジャパンメンバーの中には、ボストン・レッドソックスに移籍したばかりの吉田正尚外野手や日系2世のラーズ・ヌートバー外野手(セントルイス・カージナルス)の名前も。指揮官の熱い想いに動かされたメンバーが揃った。

采配が光ったWBC、初日系人選手ヌートバーの起用がピタリ

 WBCでは栗山監督の采配が光った。ヌートバー選手を1番打者で起用すると、初戦の中国戦では初球を中前へ運ぶヒットに。守備でもガッツ溢れるプレーを見せ、ムードメーカーとしてチームを牽引。本来の打撃ができずに苦しんだ村上選手を信頼して起用し続けると、準決勝のサヨナラヒット、決勝の本塁打という最高の結果が生まれた。

 大谷投手は先発投手としてはもちろん、指名打者としても活躍。さらに決勝ではブルペンとベンチを行き来しながら準備を整え、最後はクローザーとして登場すると盟友マイク・トラウト選手を空振り三振に斬って試合終了。その瞬間、日本中が歓喜に沸いた光景は記憶に新しい。


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選手たちに伝えた最後の言葉「野球の伝道師たれ」

 就任時に課された使命を成し遂げ、監督から退いた栗山氏。退任会見では「結果的に勝ち切ることができて、先輩方が作って下さった日本野球の素晴らしさを少しだけ伝えることができたのかなと。そして、今見てくれている子どもたちに『野球って楽しいな』って思ってもらいたいとやってきた。それを少しでも感じていただけるなら、本当に良かったと思います」と充実の表情を浮かべた。

 さらに、監督として過ごした日々について「あれだけ必死になる環境を与えてもらってすごく感謝していますし、なかなかあれだけ充実した時間はこれからもないのかな、というくらい充実していました」と笑顔。さらに、WBC7試合全てが印象に残っているとし、「1試合1試合が生涯忘れられない」と大きく頷いた。

 ともに優勝を掴んだ選手たちに対しては「自分のことを捨てて、日本のためにと集まってくれたことに感謝しています」と労いの言葉を送り、同時に「野球の伝道師たれ、と最後に伝えさせてもらいました」と、WBCで味わった経験と野球の魅力を次の世代に伝えていくことを期待した。

 侍ジャパンの歴史に刻まれた栗山監督の功績は、これからも長く語り継がれていくだろう。


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写真提供=Full-Count,Getty Images

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