開催未定でも「やることは変わらない」 W杯3大会連続MVP、里綾実の唯一無二の挑戦

2022.12.5

2008年に愛媛・松山市で行われた前身大会「第3回 IBAF女子野球ワールドカップ」(以下W杯)から6連覇を成し遂げている野球日本代表「侍ジャパン」女子代表。しかし、2020年に予定されていた第9回大会は新型コロナウイルスの影響で2度の延期の末、まだ正式な開催時期は発表されていない。2010年の第4回大会から5大会連続出場、3大会連続MVPという成績を収めた埼玉西武ライオンズ・レディースの里綾実投手は、先が見えない今をチャンスだと捉え、練習に精を出す。

写真提供=Full-Count

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「女子野球W杯」で日本は6連覇中も、第9回大会の開催は未定

 2008年に愛媛・松山市で行われた前身大会「第3回 IBAF女子野球ワールドカップ」(以下W杯)から6連覇を成し遂げている野球日本代表「侍ジャパン」女子代表。しかし、2020年に予定されていた第9回大会は新型コロナウイルスの影響で2度の延期の末、まだ正式な開催時期は発表されていない。2010年の第4回大会から5大会連続出場、3大会連続MVPという成績を収めた埼玉西武ライオンズ・レディースの里綾実投手は、先が見えない今をチャンスだと捉え、練習に精を出す。

 昨年12月に「一般社団法人 野球はみんなのスポーツ」を立ち上げ、今年11月には野球イベントを主催するなど、女子野球の普及活動にも取り組んでいる。現役選手と法人代表として2足の草鞋を履き、多忙な日々を送っているが、選手としての成長を止めることはない。

「現役である以上、勝ちにこだわり、うまくなりたいという想いがあって、その先に日本代表がある。W杯がないからと言って、やる気が起きない、気持ちが乗らないということはありません」

 里投手にとって、W杯は憧れの場所であり、目標となる場所だった。思い出すのは2008年。日本代表が初の世界一になった時、その歓喜の輪を観客席から眺めた。トライアウト最終選考で代表入りを逃していた。「次は絶対に優勝する瞬間を選手として見届けたい。そう自分を奮い立たせてくれました」。努力を重ね、2年後に念願の代表入りを果たすと、2014年の第6回大会では決勝で先発。米国を完封し、初の大会MVPを獲得した。

「2012年に磯崎(由加里投手・はつかいちサンブレイズ)が決勝戦で先発してMVPを獲ったのを見て『監督に信頼され、先発を任せてもらえるような選手でありたい』という気持ちになりました。2年後に目標を達成するためにどうするか。W杯がいい指針になっていました」

2018年の第8回大会で最年長に、次世代に目を向ける機会に

 選手として転機になったのは、2018年の第8回大会。それまで6大会連続で出場、そのうち3度主将を務めた志村亜貴子外野手(埼玉西武ライオンズ・レディース)がコーチに就任した。川端友紀内野手(九州ハニーズ)と並んで、最年長になった里投手。「新しい選手たちも多く入ってきて、いかにいつも通りのプレーができるか。その雰囲気作りをしていかないといけなかったので」。チームは6連覇、自身は前人未到の3大会連続MVPを成し遂げただけではなく、下の世代へ目を向けるいいきっかけになった。

 2020年11月に予定されていた第9回大会の延期には、さらに奮い立たされた。2019年限りで女子プロ野球リーグを退団し、「どこで野球をやろうか」と頭を悩ませたこともある。縁あって翌年から埼玉西武ライオンズ・レディースに加入したが、コロナ禍の影響でW杯は開催延期。そんな苦しい日々の中でも変わらなかったのが、現役への想い、W杯への想い、そして野球を愛する気持ちだった。

 大好きな野球のために何かしたい、と一念発起し、2021年に「一般社団法人 野球はみんなのスポーツ」を立ち上げた。現役選手としてのキャリアを続ける一方で、「プロも日本代表も経験した自分だからこそ伝えられることもある」と女子野球が“世の中の当たり前”になることを願い、普及活動を行う。

 11月には埼玉県で「未来を創る! 女子野球イベント」を開催。主催者として多忙ながら、午前中に行われた埼玉西武ライオンズ・レディースとZENKO BEAMSとのエキシビションマッチ(5回制)に先発し、持ち前の縦カーブと直球で5回1失点、完投勝利を収めた。「女子野球のトップでやっている選手たちのプレーは凄いんだと思ってもらいたい。そういった投球が見せられてよかった」。午後には、子どもたちとの意見交換会も行い、「自分も野球がしたくてもできないこともあった」と、次世代の“女子野球”を担う子どもたちの悩みに心を寄せた。

10月の選考合宿に参加「選ばれたらそこがスタート地点」

 選手としても、まだまだ若手には負けられない。10月には「第3回BFA女子野球アジアカップ」の出場に向け、広島で行われた侍ジャパン女子代表候補合宿に参加。大会の開催時期は未定だが、3連覇を目指すチームの強化に加え、メンバー選考も兼ねており、27人の候補から最終的には20人に絞られる。

「選ばれることが当たり前だとは思っていません。代表に選ばれて、初めてスタート地点に立てる。7連覇に挑戦できるのは日本しかいないし、個人的にも4大会連続(MVP)を目指すことができるのは私しかいない。(そこを)目標にしつつ、一番はチームの勝利に貢献できればいいなと。あとは、誰よりも楽しみたいと思っています」

 2021年からは全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝が“聖地”甲子園球場で開催されるようになり、今年はシアトル・マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏が高校野球女子選抜とエキシビションマッチを行うなど、女子野球はますます盛り上がりを見せている。

「女子野球が世間に広がっているので、W杯で1つ1つ勝ち上がって、サッカーのように少しでも盛り上がりを見せてくれたら嬉しいです」

 女子野球のために、次の世代のために――。会社を立ち上げても、現役トップの座は譲らない。

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