侍ジャパンが世界で勝つために、育成年代から“野球IQ”を養う必要はあるのか

2017.8.7

WBSC世界ランキングで1位を守る日本。各年代が国際大会で結果を残す上で、高い「投手力」に加えて、「スモールベースボール」がキーワードの1つになってきた。チーム力を生かした野球をやるためには、当然、選手に戦術理解度の高さなどが求められることになる。“野球IQ”を養うために、U-12やU-15のような育成年代からやっておくべきことはあるのだろうか。

写真提供=Full-Count

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侍ジャパンでも外野守備・走塁コーチを務めた緒方氏が語る、育成年代で大切にすべきこととは?

 WBSC世界ランキングで1位を守る日本。各年代が国際大会で結果を残す上で、高い「投手力」に加えて、「スモールベースボール」がキーワードの1つになってきた。個々の能力に頼るだけでなく、盗塁やバントといった小技を絡めて得点をもぎ取っていくスタイルは、間違いなく侍ジャパンの強みの1つだ。

 チーム力を生かした野球をやるためには、当然、選手に戦術理解度の高さなどが求められることになる。“野球IQ”を養うために、U-12やU-15のような育成年代からやっておくべきことはあるのだろうか。

 現役時代、走塁や守備のスペシャリストとして読売で活躍した緒方耕一氏は、侍ジャパンが世界一に輝いた2009年の第2回大会、準決勝で敗退した第3回大会で、日本の外野守備・走塁コーチを担当。戦術理解度や状況判断を大切にして、厳しい世界で実績を残してきた。ただ、自身の“考える力”については、育成年代で養ってきたわけではないという。さらに、プロ入り後ですら、十分ではなかったと振り返る。

「もちろんプロですから、色々なことを考えてやらないと駄目ですけど、僕みたいな守備・走塁の選手に限らず、バッティングコーチやピッチングコーチをやっている人も、現役時代は視野がそれほど広くないと思うんです。『自分がこうだから』『自分の体がこうだから』というのは分かるけど、指導者になるとそうではない。出来る人と出来ない人がいて、その人たちに教えるには『何か違う良い形はないか』とか『違う技術はないか』というところで勉強していくと思うので。

 僕はまだまだ今も未熟ですけど、実際に野球が本当に語れるようになるのは指導者になってからだと思います。みんなそう思ってるのではないでしょうか。名球会に入る方々以外は。名球会に入るような方は、自分の考えで頂点を極めた選手ですけど、僕みたいに中途半端だった人間はいろんなことを勉強しないといけない。でも、そういう人が大半だと思いますけどね」

 緒方氏が本当に野球がわかってきたと感じたのは、現役を引退してから。考えることは大切だが、若い頃に野球を理解しようと意識しすぎる必要はないというのだ。そして、それよりも育成年代において重要なことはたくさんあると指摘する。

「上を目指すのであれば、変化を恐れては良くない」

 まずは、いろんなことにトライすべきだと緒方氏は主張する。

「時間は限られてると思いますけど『自分に合う』とか『合わない』とか、『言葉で入っていきやすい』、『いきにくい』というのもあると思いますけど、とりあえず言われたことをやってみて、『合う』『合わない』を選択してみれば、時間の無駄じゃないと思います。やらずに『出来ない』というのはもったいない。小学生や中高生は、とりあえずやってみるのがいいのかなと。特に指導者になっていい選手たちを見ていると、つくづく思いますね。

 いい選手は『お前このままでいいじゃないか』と思うのに、必ず何かしらマイナーチェンジをする。前の年に素晴らしい成績を収めていても、ちょっとマイナーチェンジをして、何かを変えて進化していくんです。逆に、伸び悩んでる選手は1つのことに固執している場合がある。ぶれないことは大事なのかもしれないけど、ぶれないというのは聞く耳を持たないということにもなるので。柔軟性とはまた別のところになる。ある意味、1つの部分で芯をしっかり持っているのはいいけど、技術の習得に関してはいろんなことを聞いて、やってみて、『取り入れる』『取り入れない』を考えたほうがいいと思います。

 もちろん、すべては取り入れられないですよ。それが出来たらどんな選手になるのか。それは絶対に無理なので、とりあえずやってみる。特に伸び悩んでいる選手とかは、全く違う視点から物事を捉えて、打撃でも守備でもやってみると、いいと思いますけどね。プロでもやっているのだから、育成年代の選手なんてまだまだ余地があるでしょう。例えば中高生であっても、日本代表になるような選手はある程度、力があって、自分がやってきたことが正解だったら今ここにいられる、という思いがどうしても強くなるんですよね。それも間違いではないですけど、もっと上を目指すのであれば、変化を恐れては良くないですね」

「変化」がなければ「進化」もない。だからこそ、変わることを恐れてはいけない。自分の可能性を積極的に探ることは、一流になるために必要。特に、育成年代には成長の余地が無限に残されている。読売や侍ジャパンで日本トップレベルの選手を見てきた緒方氏は、そう考えている。

 また、成長のために欠かせないのが、実戦を経験することだという。本当の成功、失敗は本番でしか味わうことは出来ない。1チームの人数が多くなると、どうしても選手の出場機会などに偏りが出てしまうこともあるが、それは出来るだけ減らすような仕組みを作ることが大切だというのだ。

「非常に難しいですけど、育成年代ではプロみたいにたくさん試合はできない。土曜日、日曜日にやれるくらいかもしれない。でも、試合は、たくさん勉強して、たくさん練習して、それを披露する場所です。実際にやって成功体験を得るとか、失敗体験を次に生かすとか、そういうふうにしてやっていかないと、なかなか練習だけではうまくならない。まずは試合ができる環境が理想ですよね。その中で起きたことに対して、ピッチャーだったらどうやってストライク取るのかとか、ピッチャーがこういう考えだから野手はこう考えるとか、ポジションを分けずに全員で話し合うような機会は作ってほしいですね」

「成功には喜び、失敗には悔しさが伴ってこないと、身になってこない」

 育成年代で野球を理解しようとしすぎることはないとも訴えていた緒方氏だが、試合をして、そこで実際に起きたことを振り返ることで、考える習慣は自然についていくと考えている。だからこそ、喜び、痛みを伴う「経験」は大切になってくる。

「試合で何かが起こらないと、練習でそういう場面を想定してやっても、なかなか難しい。本番の成功には喜び、失敗には悔しさが伴ってこないと、なかなか身になってこない。練習で失敗したからといって、チームに迷惑をかけたかというと、そうはならない。試合だと、チームの勝ち負けに直結するので、反省したり、喜びも倍増になったりするんですけど、なかなか練習で出来ないものが試合だと出来るということはないんです」

 若い選手が、しっかりと実戦を通して、野球を知ることが出来る。そういった環境づくりが、球界関係者、そして指導者に求められることになりそうだ。

 では、そんな育成年代のトップにあたる侍ジャパンU-12代表、U-15代表が目指すべきことは何か。世界で勝つことが全てではないと、緒方氏は考えている。海外の選手と戦うという貴重な経験を通して、成長につながる場でなくてはならない。あくまで、選手の可能性を広げる機会。代表レベルの選手であっても、野球について深く考えすぎる必要はない、と主張する。

「その年代、年代で、もちろん世界一とか大きな目標はあるかもしれない。確かに、トップチームは勝ちにこだわるところがあるかもしれない。でも、アンダー(世代)に関しては、その過程として、代表になって何かを得られる場であってほしいですね。例えば、小学生が最初から役割分担をして、1、2番はちょこちょこ当てて出塁して走る。僕は、そういうふうなジャパンだと決して良くならないと思うので。1番から9番まで役割は違うかもしれないけど、小学校からちょこちょこ当てて『走り打ち』みたいなことをして、出塁して、とか。まず大人になって通用するためには、そういうものを選手に目指させるのは間違いではないかなと。

 強く振るとか、相手のパワーに負けないようにするとか、そういうことが大事だと思います。1、2番がちょこちょこ当てて軽打とか、そんなバッターはプロ野球にいない。どのチームも強く振れることが第一。それぞれの代表で世界一を目指すことは確かですけど、その中で何を得るのか、というのが非常に大事だと思います。(型にはまらず)どういう選手になりたいのか、というのもしっかり意識してプレーしてほしいですね」

 一流の選手になるために、育成年代では恐れずにトライすること。野球を理解しようとしすぎずに、とにかくたくさん経験すること。試合で喜びや悔しさを味わうこと。選手の可能性を広げるために、指導者の役割も重要になることは確かだろう。

【了】

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