独立Lから侍ジャパン女子代表候補に 「ナックル姫」吉田えりが男子とプレーする理由

2016.5.23

2009年12月に関西独立リーグの神戸9クルーズと契約を結び、日本で初めて男子と同じチームでプレーする女子プロ野球選手となった吉田えり選手。以来、ナックルボールを武器に、女子プロ野球選手として前人未踏の道を切り拓き続けている。日米両国の独立リーグで経験を積んできたナックルボーラーに、女子プロ野球リーグではなく、あえて男子と一緒にプレーし続ける理由を聞いた。

写真提供=Full-Count

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「女の子が野球を続けるには難しい環境」から、前人未踏の道を切り拓く吉田えり

 2009年12月に関西独立リーグの神戸9クルーズと契約を結び、日本で初めて男子と同じチームでプレーする女子プロ野球選手となった吉田えり選手。以来、ナックルボールを武器に、女子プロ野球選手として前人未踏の道を切り拓き続けている。

 現在BCリーグ石川ミリオンスターズで活躍する吉田選手は、9月に韓国・釜山で開催される「第7回WBSC女子野球ワールドカップ」で5連覇を狙う侍ジャパン女子代表「マドンナジャパン」の候補選手に名を連ねている。目標は「(女子)代表入りして日の丸を背負うこと」と公言。日米両国の独立リーグで経験を積んできたナックルボーラーに、女子プロ野球リーグではなく、あえて男子と一緒にプレーし続ける理由を聞いた。

――2009年に関西独立リーグの神戸と契約を結び、プロ生活がスタートしました。今でこそ女子プロ野球がありますが、当時は女子選手に与えられた選択肢は少なかったのでは。

「独立リーグに入ったのは高校3年生の時だったんですけど、その時はまだ女子プロ野球はなくて、女の子が野球を続けるには難しい環境でした。それこそバイトをしながら遊び感覚で野球をするくらいしか選択肢がなくて。高校生になっても女の子は甲子園に出られないし、いくら野球が好きでも、思い切って熱く戦える野球ができないなっていうのを強く感じました」

――中学では野球部で男子と一緒にプレーしていたんですよね。

「中学生の時は野球部でした。でも、学年が上がるに連れて、みんなと同じ練習をしていても、どんどん差がつき始めた。そういう体力やパワーの差をすごく感じるようになったんです。それでも、勝てる、負けたくないっていう気持ちはもちろんあって(笑)。高校に入ってからの選択肢が少なくて、野球を辞めるべきか、ソフトボールに転向するべきか、いろいろ考えたんですけど、やっぱり野球を続けたいっていう思いがありました」

――やりたいことが続けられないのは辛いですよね。

「そうなんです。そうやって悩んでいる時に、ナックルボールと出会いました。メジャーで投げるウェイクフィールド(元レッドソックス)選手の姿を見た時、テレビでは正直スローボールにしか見えないんですけど、大きなバッターが空振りするし、しまいにはキャッチャーもボールを取れない。なんだ、このボールは?!と(笑)。時速100キロちょっとのナックルボールで200勝しているんです。このボールを見た時、『これだったら、自分ももっと野球を続けられるかもしれない』って思えたんです。そこから、ナックルボールを使ってNPBかメジャーリーグでプレーしたいっていう夢ができて、そのために今こうして独立リーグでプレーしています」

男子と一緒にプレーすることに厳しい声も…「全部受け入れて、それを変えたい」

――ナックルボールは対戦する打者には非常に難しい球ですが、投げる方にとっても奥が深い球ですか?

「そうですね。『あ、今のボールだ』って思っても、それがまた投げられるかっていうと難しい。試行錯誤の連続です。テレビでウェイクフィールド選手があんなに簡単に投げているのはなんでだろう、っていうくらい難しいボールですね」

――同時に独立リーグで男子と一緒にプレーすることも大変なことだと思います。

「独立リーグなのでレベルは低くないですし、みんなNPBを目指して厳しい環境でやっています。厳しくて当たり前なのかなって思いますね。やっぱり男子の中でやるには、男子と同じことをしていてもだめ。それ以上の何かを磨いていかないと、独立リーグでプレーするのは難しいですね」

――『女子が男子と一緒にプレーするのは無理なのでは?』という声もある中でも、一緒にプレーし続けるには、本当に野球が好きな気持ちがないと続かないのでは?

「そうですね、野球が好きですね。17歳で独立リーグに入った時は、全然周りが見えていなくて、自分でも分かるくらいに子供でした。独立リーグはプロ扱いで、NPBを目指して野球をやる場所。それが自分は『やったー、毎日野球ができる!』って感じで入っちゃった。独立リーグがどういう場所かっていうことや、それがプロ扱いになるっていうこと、入ったら女子で初めて男子と一緒にプレーするプロ野球選手っていう名前がつくっていうことを、全然知らなかったんです。高校生の時に野球部ではなくてクラブチームに入って、平日はバイトしてっていう日々だったので、毎日野球ができてお金がもらえるなんて幸せだなって思いながら入ったんですけど、全然違いましたね」

――入団当初はギャップに戸惑いましたか?

「プロは厳しいし、いろいろな人に注目される。見られる立場になったので、すごく変わりましたね。『野球は男のスポーツだ、女は危ないからやるもんじゃない』みたいな、今まで入ってこなかったような声も入るようになって。最初はそういう声に対して『なんで?』とか『どうしてそう思うんだろう?』って反発心が大きかったんですけど、いろいろ考えて、月日も経つうちに、そういう声を全部受け入れて、それを変えたいなって思えるようになりました。だからこそ、今でも続けられています」

女子の中でやるからこその野球の楽しさも分かる」

――高校生には決して簡単なことではないですよね。そこでの成長が、独立リーグでプレーしつつ、侍ジャパン女子代表を目指す今につながっている。

「どうしても女の子には野球をする選択肢は少ないんですけど、それでも野球を好きでやりたい人っていっぱいいるので、そういう人には続けてほしいっていう思いもあります。自分が野球を続けていいんだって思えたことの1つに、片岡安祐美(現・茨城ゴールデンゴールズ)さんの存在があるんです。自分よりも5つ上かな? 安祐美さんが萩本欽一さんの球団で野球をする姿を初めて見た時、『ああ女子でも、ああやって大人になって野球を続けられるんだ』って思えた。そういう人が実際いたから、安心したっていうんじゃないんですけど、自分もあんな風にずっと野球をしていたいなって思わせてくれた人だったんです」

――片岡さんも萩本欽一さんが運営する茨城ゴールデンゴールズでプレーしながら、女子日本代表としてワールドカップ優勝に輝きました。同じように野球を続けている女子の存在は大きかったんですね。

「大きかったですね。自分も頑張ろう!って思いました。自分がそう思ったから、逆にそう思ってもらえる存在にもなりたいんです。まだまだ男子の中で野球をやっている女の子もいっぱいいるんですよ。石川県には女子野球の高校はないですし、クラブチームも軟式だったら1チーム、でも硬式はない。少年野球や学童野球を見に行くと、男の子の中でプレーしている女の子が多いので、その女の子たちのためにも、自分はできるなら男子の中でずっと野球を続けていくべきかなって。

 自分がここで諦めて、女子のチームに入ったら、女子は女子のチームじゃないとだめなんじゃないかって思われたり、男子と一緒にプレーする女の子が勇気をもらえる人がいなくなっちゃう気がするんです。だから、その子たちのためにも頑張りたいし、できる限りやっていたい。『なんで女子野球に行かないの?』って聞かれるんですけど、もちろん女子野球の魅力も知っているし、女子の中でやるからこその野球の楽しさも分かる。でも、それ以上に自分の中でやりたいことがあるんです」

――小さな女子野球選手たちのためにも頑張れるんですね。

「はい。やっぱり好きなら野球を諦めてほしくない。負けずに頑張ってほしいです。好きなことを辞めるのは辛いことですから。それだけは、絶対にしてほしくないなって思います」

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