第1回WBC優勝4番・松中信彦氏が分析、侍ジャパン世界一奪還のカギとは…

2017.7.10

3月に開催された第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)。世界一を目指した野球日本代表「侍ジャパン」は2大会連続ベスト4という成績に終わった。次回大会に託された世界一奪還に向けて見えたものとは何だったのか――。2006年の第1回大会で、王貞治監督の下、侍ジャパンの4番として世界一に輝いた元福岡ソフトバンクの松中信彦氏に、自らの経験を踏まえて、収穫や課題を語ってもらった。

写真提供=Getty Images

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1つのプレーで流れが変わる短期決戦「あの菊池選手のプレーがすごく大きかった」

 3月に開催された第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)。世界一を目指した野球日本代表「侍ジャパン」は2大会連続ベスト4という成績に終わった。次回大会に託された世界一奪還に向けて見えたものとは何だったのか――。2006年の第1回大会で、王貞治監督の下、侍ジャパンの4番として世界一に輝いた元福岡ソフトバンクの松中信彦氏に、自らの経験を踏まえて、収穫や課題を語ってもらった。

――3月に行われたWBCで侍ジャパンはベスト4という結果でした。大会をご覧になられて、どんな感想をお持ちになりましたか。

「強化試合を見ていて、もしかしたら1次ラウンドで負けてしまうんじゃないかと、解説をしながら思っていました。ですが、本番になるとチームが1つになれたというか、ファンやマスコミの心配を一気に吹き飛ばすように1次ラウンドを突破してくれました。壮行試合での内容が良くなかったので、どうなのかなと心配したんですけど、うまく突破出来て良かったな、と感じました。ただ、アメリカ、プエルトリコ、ドミニカ共和国との差はあるな、と感じましたね」

――本大会に入るまでの内容が良くない中で、何が流れを変えたのでしょうか。

「初戦のキューバ戦、初回にゲッツーが取れたことでしょう(内野安打と失策で無死一、二塁のピンチとなったが、菊池涼介選手が一二塁間の打球を好捕し、併殺を完成させた)。あそこで、もし打たれていたら、ズルズルと行ってしまった可能性はある。そういう1つのプレー、特にあの菊池選手のプレーがすごく大きかった。悪い流れを良い流れに持ってこられたプレー。あれで勢いづいて、初戦を取れて、波に乗って行けたな、と思います。短期決戦は勢いだと思いますから」

――やはり、短期決戦では1つのプレーが流れを変えますか。

「日の丸をつけて戦う時は、1つのプレーでガラッと変わることもありますね。長いプロ野球のシーズンとは違って、短期決戦で、しかも日の丸を背負って戦う緊張感が全く違う中ですと、1つのプレーでガラッと流れが変わります。キューバ戦はやっぱり、そういうところが凄くあるなと感じた試合でしたね」

北中米チームとの差はどこに…「やっぱり動くボールですね」

 
――先ほど、アメリカやプエルトリコ、ドミニカ共和国とは差があるとおっしゃいました。その違いとは。

「それは、やっぱり動くボールですね。それも140キロそこそこのボールではありません。キューバに関しては、そもそも、あまり動かすタイプのボールではなく、キレで勝負する日本に近いピッチャーのイメージを受けましたね。逆に、イスラエルは2A、3Aの選手だったので、結構苦戦しましたよね、最初は。

 やっぱり日本の打者は、動くボールへの対応に苦労する、差があるところだな、と。決勝ラウンドに行ったら、150キロでボールが動くわけなので。全く手が出なかったでしょう。日本の若い選手たちは、どんどん海外に出て試合をして慣れて行く必要があると感じますね」

――逆に日本のストロングポイントはどこでしょう。

「それはピッチャーですね。日本の投手は間違いなく世界で通用します。コントロールがいいし、球の勢い、重さではなく、しっかりとコースに投げられる、緩急がつけられるのは日本の強みです。そこだけは本当にアメリカ、プエルトリコなどと対戦しても、引けは取らないと思います。ただ、やはりバッターに差があるという感じはします」

――それほどまでに、動くボールへの対応というのは難しいのでしょうか。2006年WBCの際にも感じられましたか。

「僕の場合は、アメリカに行って何試合かメジャーリーガーと対戦してみて感じました。バットに当たった時に、ズシッと手に来る重みがあるんですよ。日本や韓国の投手はボールのキレで勝負する。そういう投手は、WBC球でもキレで勝負するからボールは飛びます。ただ、アメリカとかの投手だと全く飛ばない。ズシンと来る。芯に当たっても飛ばないんですよ。本当に衝撃的でした。こんなにも違うのか、と」

――それは、打ち方も影響するのでしょうか。

「僕は打つポイントが近かったんですね。ボールをベース板のところまで呼び込んで押し込むので、余計に重さがズシンと来るんです。そこから手首を返せないんですよ。芯を食っても、外野の頭を越えるくらいにしかならない。逆に、日本人ではイチロー選手みたいに前でさばく選手の方が打球は飛ぶ印象。多村(仁志・引退)くんとか、内川(聖一・福岡ソフトバンク)選手とかの方があっちの投手には合うような気がしていました。

 松井(秀喜・引退)くんも『手前に引き付けて打つ』とは話していたんですけけど、映像を見ると結構前で打っていた。最後は、前で捉えて片手1本でホームランにもしていましたよね。そういう打撃じゃないと、なかなかボールが手元で動く、球が重いのは対応しづらいのかもしれないですね。動いてから打つのはなかなか難しいから、動く前に打ってしまえ、みたいな感覚ですかね。

 向こうの投手って緩急をそれほど使わないじゃないですか。2シーム、カットボール、チェンジアップ。必ず2シームは来るわけだから、それをいかに打つか、という方がいいのかな、とは思いますね」

松中氏が提言「将来日本代表になりそうな選手をウインターリーグに派遣する」

――それでも松中さんは、2006年のWBCで打率.433、11得点の好成績を残しています。

「まずはヒットを打ちたい、繋ぎたいという気持ちだったんです。王監督が『スモールベースボール』を掲げていたチームだったので。ホームランは4番なので打てるに越したことはないですけど、自分の中で4番として使ってもらうからには結果を残したい、勝ちたい、その両方を追い求めていくために、どうやって打てばいいいか、と考えました。ホームランよりも、ヒットを打ってチームに貢献するというのが頭にありましたね。

 それに、アメリカに行って、全く向こうのピッチャーが投げるボールの重さがね、これはとてもじゃないけどホームランは打てないなと感じて。(ヒットを打つということを)継続していくしかないなと。4番らしく1発で決めようなんていう意識は全くなくて、とにかく繋ごうという意識が強かった。それが率を残せた要因。4番なんでもっと打点を増やさないといけないのもあったけど、これでチームに貢献するしかないな、という思いがありましたね」
 
――日本が再び世界一に立つために、打者としての目線で必要となることは何でしょう。
 
「短期間で打者がアジャストするのは、正直難しいと思います。それだったら、オフにドミニカ共和国やプエルトリコ(のウインターリーグ)に行くのがいいかもしれないですね。(15年オフにドミニカ共和国に行った)筒香(嘉智・横浜DeNA)選手が一番対応出来ていましたよね。動くボールをそこで見ていたからでしょう。ああいう経験をした方がいい。

 侍ジャパンをウインターリーグに派遣するとか。それにはリスクがあるだろうから、次の世代、将来日本代表になりそうな選手をウインターリーグに派遣する。4年後に高い確率で侍ジャパンに入るだろうという有望な選手を、ですね。2週間とかでもいいんです。ボールを見る、ボールに対応する、感じるだけで違いますから」

――本大会中などの調整方法などはどうでしょう。

「日本でのラウンドを勝ち上がった後に、出来るだけ数多く、アメリカでメジャー球団と強化試合をすることでしょうね。日程はキツイかもしれないですけどね。日本での1次ラウンドの開幕を少し早めたりも出来ればいいと思います。間が空いてしまって、盛り上がった熱が少し冷めてしまうかもしれないけど、その期間をうまく作るべきだと感じます。

 日本ラウンドで対戦する国と、アメリカに行って戦う国は全くの別物です。メジャーの球団はキャンプでバンバン試合している時期だから、そこで数多く試合をした方がいい。今年はカブスとドジャースの2試合。それだけじゃ分からないと思います。少なくとも4、5試合は必要だと思います。全員がまんべんなく出るのではなく、主力が多く試合に出て、対応していくこと。動くボールを見て感じていかないと、なかなか対応しきれないでしょう」

【了】

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