大倉前監督が明かす―世界5連覇中の侍ジャパン女子代表は、どのように作られたのか

2017.6.26

2年に1度開催されるワールドカップで第3回大会から前人未到の5連覇を達成している侍ジャパン女子代表。そのうち、第5回大会を除く4大会で日本を世界一に導いたのが、大倉孝一氏だ。

写真提供=Getty Images

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日本を4度優勝に導いた名将が語る日本の「強み」

 2年に1度開催されるワールドカップで第3回大会から前人未到の5連覇を達成している侍ジャパン女子代表。そのうち、第5回大会を除く4大会で日本を世界一に導いたのが、大倉孝一氏だ。2006年の第2回大会から日本の監督に就任した大倉氏は、第3回大会で初のワールドカップ制覇に導くと、その後も結果を残し続けた。

 ライバルの米国を抑え、今やWBSC女子野球ランキングでも不動の1位。女子代表監督を退任し、今年2月に母校・駒澤大学硬式野球部の監督に就任した大倉氏は、どのようにして「世界最強」のチームを作り上げていったのか。名将の胸中に迫った。

 侍ジャパン女子代表は、なぜこんなに勝てるのか。ワールドカップ5連覇という成績を知れば、誰もが同じ疑問を抱くだろう。日本の最大の「強み」について、大倉氏は自身のチームづくりの“根幹”にあったものを明かした。

「強みというか、いつも意識して支度してきたのは、失点が計算できる準備をまずはするということです。だから、打てるだけの選手というのは、1人も入っていなかった。守れるというところがまず基本でメンバー選びをしてきました。ピッチャーも自らが崩れない、ということで、球は速いけどコントロールが良くないとか、試合に出てるけどクイックが出来ないとか、そういう選手は選ぶことができませんでした。だから、まずは『失点が計算できるチームづくり』というところですね」

 実際に、女子野球のワールドカップでは、エラーや四球から崩れて大量失点を喫するチームが多い。ただ、日本はそれがない。崩れないから、負けない。これこそが強み。当然、大会前の徹底した準備があるからこそ成り立つ。

「日本はそれ(ミスによる自滅)が起こらない準備をずっとしてきて、そういう人選をしていました。なので、ワールドカップではずっとそうなのですが、プレーボールからポンポンポンと点を取った試合なんてほとんどないんです。それは相手がどこであっても。女子は7イニング制なので、3、4回というのはいつも重苦しいスタートになっていて、4、5回から相手に息切れをさせるチームになっている。そんな準備、そして、ピッチャーを中心とした守りというのは、僕の中では鉄則でした」

 守りの野球の中心となるのは、当然、ピッチャーだ。昨年9月の第7回大会では、エース右腕の里綾実が2大会連続のMVPに輝いた。どんなピッチャーが出てきてもレベルが落ちない日本の投手力を世界NO1と評価する声もある。ただ、大倉氏の考えは違う。

日本には打力も必要か?

「ヒット数を見れば分かりますが、日本が相手よりもヒットが多かったり、相手に打たれてるヒットが日本より少ないというのは、あまりないんです。結果的に点を取られてないから、ピッチャーとしてのポテンシャルが高いと見る人もいるかもしれないけど、ヒットは相手の方が打ってるというケースがあります。

 なので、ヒットを打たれても失点にならない、失点しないというところですかね。カナダ(第6回大会)でやったときも、決勝戦の米国戦では相手の方がヒットが多かった(日本は4本、米国は7本)のに、3-0で勝ちました。なので、ヒット自体は打たれる可能性はあります。ねじ伏せるだけのピッチャー陣がいるかというと、そうではない。ただ、四球連発とか、慌てたプレーとか、そういうのがないだけで」

 まさに「失点を計算できる」野球。大崩れしなければ、常にチャンスはある。それをものにしてきたのが、大倉氏が率いていた日本というわけだ。ただ、失点は計算できても、もちろん点を取らなければ勝てない。ここにも、「大倉ジャパン」の野球の強みが見える。

「攻撃では、ウェイティングなのですが、セーフティー(バント)の構えをさせるとか。走らないんだけど、牽制がきたら逆を突かれるとか。そういうことを色んな所で伝えていました。相手が、考えなくてもいいところまで考える。そして、慌てる。ミスが出る。そういうところです。四球も、もらうものではない。取るものだ、と。相手の守備も、野手が前に前に来れば、ヒットゾーンはどんどん広くなっていきます。そういうことを、ケース、ケースで伝えていました」

 自分たちがしないようなミスを相手から引き出す。それも、ただ相手が勝手に崩れていくのを待っているわけではない。緻密に、積極的に相手を崩していき、点をもぎっていく。ヒット数では劣っていても、気がつけば日本がリードしている。そして、勝利をつかむことができるというわけだ。

 実際に、打力だけを見れば、日本よりも米国などパワーのある国の方が上だと見られている。 もちろん、大倉氏も日本にも他国を圧倒するだけの打力があるに越したことはないと考えているという。ただ、勝つために何が最も必要かと考えた時に、これまで貫いてきたスタイルは理にかなっていた。それは結果が証明している。

「どんなことだって高めてくれたほうが、監督としては、それに越したことはないんです。でも、野球(の打率)は3割なんですよ。7割はいかない。これは僕の主観ではなくて、統計として出ているわけです。そう考えると、海外のピッチャーのレベルも上がっていく中で、それに合わせて3割がキープできるように打力が上がっていく、ということが大切です。もちろん、野球の監督をしてたら『みなさん打って下さい』だと思います。ただ、7割は期待していないけど、どのピッチャーが来ても3割をクリアできる打力、準備はしたいということです。

 僕は監督の時に1回、台湾(第2回大会)でアメリカに(準決勝で)負けているんです。その時は打ち合いで負けました。その前も勝ったり負けたりしていた。なので、どういう風にチームを作っていかないと勝てないかというのを僕は散々見てきている。選手がブレる。打つことだけでやっていったら、こんなゲームになる。計算ができない。その結果として、勝ったり負けたり、となる。では、どういう野球をしなければいけないのか、ということをずっと続けていったわけです」

世代交代も「ものすごく難しいな、と感じたことはない」

 大倉氏は、苦い経験を経てたどり着いた「失点の計算できる」野球で、世界でほとんど負けることのない強いチームを作り上げた。そして、その中心には絶大な信頼を寄せる選手たちがいた。経験豊富なベテランの存在は、チームの中で何よりも大きかったという。大倉氏は、第2回大会から出場を続けている金由起子内野手、志村亜貴子外野手、第6回大会を最後に代表から退いた元捕手の西朝美さん、そして里の名前を挙げた。

「本当は最初2回(第3回大会、第4回大会)が僕も一番つらかった。本当に厳しいというか、しんどかったんです。けど、それを経験した選手たちがその意図を掴んでくれて、信頼できるようになってきた。短い期間だけど、彼女たちを使うということが出来ました。志村を使う、西を使う、金を使う、里を使う。こういうことができました。『(他の選手に)こう伝えておけよ』とか、『ここを見過ごすなよ』ということが、僕一人の発信じゃなくて、彼女たちができるようになってきたというのが大きかった。一番力を入れるところは、そういうところなので」

 大倉氏は、特に5連覇をすべて経験している金、志村の存在については「大きかったですよ。色んな意味で力になりました」と表現する。「(2選手は)何をしなきゃいけない、ということも当然理解してるけども、やはり経験からくる余裕というか、だんだん調子が上がってきたりということもあるので、余計頼りになる」。そして、こういった選手を大倉監督が育て上げ、チームの中心に置いて絶大な信頼を寄せたからこそ、世代交代でつまずくこともなかった。日本が約10年間も世界で勝ち続けられた大きな要因だ。

「(世代交代が)ものすごく難しいな、と感じたことはないかな。僕の手法は、(選手を)最初は見る、少しずついじる、だんだんコミュニケーションを取る、最後は自分の周りにいる、というアプローチの仕方です。難しいというよりも、それを作っていく作業をしていって、最終的にはこういうチームにしていく、という感じです。経験者や年齢がいっている選手のところに、若い選手を入れる作業をするだけかなと。それは、(監督としての)面白さというよりも、やらなければいけないことを遂行する、ということかなという感じです」

 監督がブレないからこそ、選手はブレず、チームもブレない。安定した強さには、確かな理由があった。第8回ワールドカップは来年開催される予定だが、6連覇へ向けて、新監督を迎える侍ジャパン女子代表もブレないことが重要な要素の一つとなりそうだ。

【了】

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