侍ジャパン唯一のベストナイン・千賀滉大が激白、好投の裏で秘めた思いとは

2017.6.5

3月に開催された第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)で、野球日本代表「侍ジャパン」は2大会連続ベスト4という成績に終わった。世界一を目指す戦いの中で選手は何を思い、何を感じたのか――。侍ジャパンで唯一、大会ベストナインに輝いた福岡ソフトバンクの千賀滉大投手が大会から2か月を経て、改めてあの激戦の日々を振り返った。

写真提供=Getty Images

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大会から2か月を経て千賀が激白、WBCの舞台裏

 3月に開催された第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)で、野球日本代表「侍ジャパン」は2大会連続ベスト4という成績に終わった。世界一奪還を期待されたが、初優勝したアメリカ代表に準決勝で1-2と惜敗。世界一の夢は叶わなかった。

 世界一を目指す戦いの中で選手は何を思い、何を感じたのか――。侍ジャパンで唯一、大会ベストナインに輝いた福岡ソフトバンクの千賀滉大投手が大会から2か月を経て、改めてあの激戦の日々を振り返った。

――WBCは悔しい準決勝敗退でした。千賀投手自身は大会ベストナインに輝きましたが、改めてWBCを振り返ると、どんな大会でしたか。

「本当に日本のメンバーもそうですし、相手チームもそうですし、あんなに凄い人たちがいる中で野球をやることが、まず第一に楽しかったですね。本当にいい刺激、いい経験になりました。今までの僕の経歴を考えたら、あり得ないところにいるっていう感じだったので、楽しかったですね」

――大会に臨むまでのことをうかがいます。春のキャンプ中にはブルペンに入る回数も少なく、ボールなどへの適応に苦労しているような印象も受けました。

「本当に、いい状態にはなかなか持っていけなくて。僕もあともう1つ、もう2つ何かが足りないというのは、記者の方々にも言っていましたし、ずっと思っていました。『大会に行きたくないな、やばい、やばい』と思っていました。でも、なんとか間に合わせることが出来たのは良かったですね」

――苦労する中で、何が見つかったのでしょうか?

「フォームが1番かな、と思いますね。フォームのことで悩んでいたので。フォームについては自分の中で納得するものをキャンプ中ずっと探していたんですけど、それが出来なかった。ようやく最後の練習試合くらいで、それを見つけることが出来ました」

――WBCの本大会が開幕した当初は、第2先発というポジションでした。どんな心づもりで大会に入りましたか。

「国を代表しているとか、そういうことを考え過ぎてもいい方向には回らないなと思っていました。とにかくマウンドに上がったら、思い切り腕を振ることだけしか考えなかった。それだけをしようと。余計なことを考えても、出来ないので。マウンドで腕を思い切り振ることだけを考えていました」

心底「嫌だった」―好投の裏に“開き直り”

――初登板となった1次ラウンド第2戦のオーストラリア戦で、2回1安打4三振無失点で勝利投手に。2次ラウンド初戦のオランダ戦でも2回3安打3三振で無失点に抑えました。

「大会前のオリックスとの練習試合(3月5日)の時に、僕の中で感覚とボールが一致した感じがあったんですね。これだったら、たぶん大丈夫だろうという感覚になりました。もちろんMAXではないですけど、今出来るベストではいけるかなという感じになった。そこでようやく、キャンプの時に比べたら、大丈夫かなと思えるようになりました。それで、オーストラリア戦に投げて、ちょっと落ち着けた自分がいました」

――オランダ戦を抑えた後、中2日で2次ラウンド第3戦のイスラエル戦に先発することになりました。

「そうですね。ちょうど夜の食事会場で石川(歩)さん、則本(昂大)さん、松井裕樹と4人でご飯食べていた時だったんです。『先発』って言われて。僕の中では『うわ~、マジか』って。『いるじゃん、則本さん』って思いましたよ」

――その場で「嫌です」と言ったとか?

「本当に『嫌です』って言いました。僕自身は『マジかよ』と思いましたね。先発だって言われたら、チームとかなら嬉しく思うんですけど、本当に嫌でした。『何で国の代表で、先発で投げなきゃいけないんだ』と。そうやって言われたことは嬉しかったですけど、現実に先発で投げたいかって言われれば、全然投げたくなかったですね。ビックリしましたけど、言われたからにはちゃんと投げなきゃなって思いました」

――相当なプレッシャーになったのでは? 2日間ちゃんと寝られましたか?

「いや全然。そんなのは無かったですよ。『僕を選んだ方が悪い』くらいの気持ちだったので。まあ、実際には、そんなことは言っていられないので、とにかく3回をゼロに抑えればいいと思っていました。4回1失点とか5回2失点とかではなく、3回をゼロでいいと。あとは後ろにいくらでもいい投手がいるので、とにかく3イニングをゼロに抑えようと思っていました」

――ただ、結果的には5回無失点と素晴らしい投球でした。

「3回をゼロに抑えて、1イニングずつ伸ばしていった感じですね。あの試合はやれるだけのことはやりました」

――舞台をロサンゼルスに移しての決勝ラウンド、アメリカ戦。2番手でマウンドに上がり、結果的には負け投手となりました。何か違いのようなものは感じましたか?

「マウンドに上がる時の気持ちは変わらなかったですね。僕の中では、マウンドで投げること以外のことは考えられなかったので。変な思いとかはなく、心地よい緊張感くらいでした。人生に1回あるかないかというチャンスでしたし、楽しもうと思っていました。ただ、雰囲気は違いましたね」

千賀が悔やむ「あの1球」とは…

――グラウンドの空気が違う。

「そうですね。後ろに全部観客がいるのが違和感だったんですけど、(小林)誠司さんのキャッチャーミットだけ見ていこうと思っていたんですけど、ただ雰囲気はやっぱり凄かったですね。ああ、こういう感じなんだ、と」

――その中でも2回で2安打5三振。結果的に決勝点となる1点は失いましたが、自分なりの投球は出来たのではないでしょうか。

「真っすぐ、フォーク、スライダーと、ショートイニングの時は全力で腕を振るということしか出来ない。それは出来たかなと思いますね」

――悔しい敗戦となりましたが、この試合で勝敗を分けたポイントはどこだったと感じていますか。

「(8回)1アウトからクロフォードにヒットを打たれて、キンズラーにツーベースを打たれたんですけど、正直、あのヒットは仕方ないなと思う部分はある。ただ、その後、キンズラーにツーベースにされたあの1球かな、と思います。インコースへの真っすぐ2つで追い込めて、配球通り、誠司さんのリード通り投げ込めて。その後のフォークでした。真ん中に入って。松田さんのプレーとかじゃなく、あのツーベースが全てかなと思っています」

――やはり責任は感じましたか。

「あの時は思いましたね。あの1球。それと、その後のアダム・ジョーンズですね。初球はインコースへのボール球だったんですけど、三振を取るような配球にしたら良かったんじゃないか、とか色々考えました(※結果、三ゴロの間に三塁走者が生還)。まあ終わったことなんで、しょうがないな、と」

――1球の怖さ、大切さをより感じさせられたのではないでしょうか。

「1球の大切さと言っても、あれが勝っていて、打たれてもいい状況だったら違いますよね。本当に状況次第で、1球の重み、大切さが違うな、と思いましたね」

――大会を通じて印象に残った打者、選手はいましたか。

「やっぱり、あの1球で負けたことを考えれば、キンズラーかなと思いますね。大会を通じても凄い選手はいろいろいましたけど、負け投手になった敗因の1球を思い出すと、キンズラーかなと思いますね」

【了】

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