世代交代が進む侍ジャパン女子代表 “世界最強”チームの未来を担う選手は?

2017.5.29

侍ジャパン女子代表は、昨年9月の「第7回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(韓国・釜山)で5連覇を達成するなど、“世界最強”の座を揺るぎないものとしている。WBSC女子野球ランキングも1位を維持。今年9月には「第1回BFA女子野球アジアカップ」(香港)が開催されるが、日本は優勝候補の筆頭として大会に臨むことになる。昨年のワールドカップでは、“世界デビュー”となった多くの若手選手も活躍した。今年のアジアカップでも、新戦力の台頭に期待が集まる。

写真提供=Getty Images

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W杯5連覇中の侍ジャパン女子代表で続々と台頭、元主力選手の西さんが期待する若手有望株

 侍ジャパン女子代表は、昨年9月の「第7回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(韓国・釜山)で5連覇を達成するなど、“世界最強”の座を揺るぎないものとしている。WBSC女子野球ランキングも1位を維持。今年9月には「第1回BFA女子野球アジアカップ」(香港)が開催されるが、日本は優勝候補の筆頭として大会に臨むことになる。

 世界野球ソフトボール連盟(WBSC)は、アジアカップが来年のワールドカップの予選になるとしており、6連覇へ向けても試金石となる大会。昨年のワールドカップでは、2大会連続MVPに輝いたエース右腕の里綾実投手、5度の世界一全てに日本代表のメンバーとして貢献してきたベテランの金由紀子内野手、キャプテンでもある志村亜貴子外野手らが中心としてチームを牽引した一方、“世界デビュー”となった多くの若手選手も活躍した。今年のアジアカップでも、新戦力の台頭に期待が集まる。

 日本代表のメンバーとして第2回大会から第6回大会までワールドカップに出場した西朝美さんは、「自分が抜けたことでほとんど世代交代は進んでいると思う」と明かす。自身は、日本代表として出場したワールドカップにおいて、準優勝1回、優勝4回に貢献した日本女子野球史上最高の捕手が、昨年のワールドカップには出場しなかった。「キャッチャーをずっと譲ろう、譲ろうと思っていた」という。そして、20歳の船越千紘捕手がレギュラー捕手を務めた日本は見事に6連覇を達成した。

 最強捕手の“後継者”に重圧がかかっていたことは想像に難くないが、西さんは船越選手を称賛する。

「自分は1年目(第2回大会)はあまり出ていなかった。たまに出してもらった時は、すごく緊張するんですよ。船越選手も緊張はしていたと思うんですけど、1年目であそこまで普通に1試合、1大会を乗り越えるというのは、すごいなと思って見ていました。でも、船越選手が自分の後を継いでもそんなに不安はなかったし、むしろ自分とはタイプが違う、細くて動けるキャッチャーなので、いいのかなと。あとは、野球の楽しさをもう少し分かってきたら楽しいのかなと思います」

 船越選手はエースの里選手とも問題なくコンビを組み、自慢の強肩で何度も相手の盗塁を刺した。20歳でこれだけの経験をしたことは、間違いなく今後への大きな糧になる。

「里選手はどちらかというとキャッチャーを引っ張っていくタイプなので、もしかしたら、里選手が引っ張って、船越選手がついていっていたのかもしれません。里選手は後輩を可愛がるタイプなので、いっぱい話してコミュニケーションを取っていたと思います、ただ、ピッチャーは6人いたら6人、性格がそれぞれなので、大変だったと思います。

 あと、船越選手のあの肩はちょっと女子であまり見ない(強さ)ですね。キャッチャーは肩がないと(世界で)通用しない。日本のピッチャーには牽制のうまさがあるので、ある程度はカバーできると思います。里選手のあの球の速さと船越選手の肩があれば、まず走ってこないと思うんですけど、海外の選手は走ってくるんですよ。しかも、ヘッドスライディングしてくる。慌てなければ大丈夫なんです。でも、初めてだと慌ててしまったりして、コントロールがばらついてくるものなので。船越選手にとっては、確実にいい経験だったと思います」

日本の最大の「強み」である投手陣では、まだ代表入りしていない有望株も

 では、船越選手以外に日本に有望な捕手はいるのか。西さんは、去年のワールドカップでは捕手登録ながら主に外野手やDHとして活躍した26歳の寺部歩美も面白い存在だと指摘する。日本の将来を考えれば、船越選手と寺部選手が切磋琢磨する形が理想的だという。

「自分はずっと寺部選手を推していました。なぜかというと、あの子は経験もあって、自分が一緒にプレーしていた時に、ずっとキャッチャーについて質問してきたんです。『ピッチャーがこうしたらどうしますか』とか、『こういう時は配球どうしますか』とか。学ぶ姿勢があって、ピッチャーのことを思っているな、というのを感じていて。肩では船越選手が上ですけど、総合面では寺部選手のほうが経験があるかなと感じてました。確実にいいキャッチャーだと思います。(今後は)2人が切磋琢磨したほうが、船越選手も伸びる。自分にもライバルがいたので。やはりライバルがいて、焦る気持ちがないと、学ぶ気持ちも薄れてきてしまうので」

 いずれにしても、日本にとって大きな課題と思われてきた西さんの「後継者問題」は、解決しつつあるようだ。

 さらに、西さんが日本の最大の「強み」と語る投手陣にも、若い才能が次々と台頭してきているという。まずは、昨年のワールドカップで“世界デビュー”を果たした田中露朝投手。西さんは、スリークオーターのフォームから力のある直球を投げ込む右腕の名前を有望株として真っ先に挙げた。

「田中選手は面白いピッチャー。いつか里選手を抜くようなピッチャーだと思います。普段、マウンドにいない時はホワホワした感じなのですが、マウンドに上がるとすごい。里選手よりすごいと思う時もあります。球の速さが、ただ速いだけでなくて、2段階くらいで伸びてくる。今までジャパンで受けた中で、一番重いし、速いイメージがあります。一見、怪我しそうな投げ方ですけど、柔らかい。里選手はビュッと来る感じですけど、田中選手はスリークオーターからしなやかにビューンと投げて、2段階で伸びてくるような感じ。自分がバッターだったら嫌だなという感じのピッチャーですね」

 そして、まだ日本代表入りしていないにもかかわらず、西さんが強く推薦する投手もいる。

「この間(ワールドカップ)は(日本代表から)落ちてしまったんですけど、ゆくゆくジャパンに入るレベルの左ピッチャーが、自分の教え子にいます。今はまだ経験が足りないですが、尚美学園大学にいる山田優理という大学1年生です。身長が176センチくらいあって、左のスリークオーター気味で投げてくる。自分のチームの中で一番ジャパンに近かったので。ずっと育ててきたのですが、投手としても、打者としても面白い選手です」

 山田選手は打者としても有望だと、西さんは指摘。スラッガーとしても西さんの“後継者”になりうる存在だという。同じタイプでは、昨年のワールドカップで豪快なホームランも放った有坂友理香捕手にも大きな期待を抱いている。

「打撃だと有坂選手も負けていないと思います。有坂選手も山田選手もホームランを打てる選手。自分と同じタイプなので、ホームランを打てる選手は応援したくなりますね。海外の選手から見て怖いと思うのは有坂選手じゃないでしょうか。打席に立っているだけで怖いと思うので。ずっと自分のライバルでもありました。ジャパンとかではなく、同じチームでもプレーしたことがあるので。背が高いし、パワーもあるし、海外の選手みたいですね」

西さんがあえて挙げる女子野球界の課題、「日本が1回負けたほうが…」


ワールドカップ準優勝1回、優勝4回に貢献した西朝美さん【写真提供=Full-Count】

 世界一の座を維持しながら、確実に若い選手も台頭してきている日本の女子球界。「世代交代は進んでいる」という西さんの言葉には説得力がある。ただ、ベテランの力がまだまだ大きいことも確か。今年のアジアカップ、そして来年のワールドカップへと続いていく今後の侍ジャパン女子代表は、どのように変わっていくことになるのか。

「志村さんはあまりものを言わずに背中で引っ張っていく感じなんですけど、金さんは逆に言葉で選手に教えたり伝えたりするタイプなので、2人は真逆といえば真逆。何が起きるか分からないのが国際大会なので、志村さんたちが出ていると、自分がキャッチャーの時は安心でした。2人がいなくなると、その下で中心になるのは(25歳の)六角(彩子内野手)あたりになってくる。まだ六角選手に責任を負わせると、プレーに影響が出てしまったりするので、(昨年のワールドカップでは)2人はいい存在だったと思います。

 ただ、自分が抜けたことでほとんど世代交代は進んでいますけど、あとはキャプテンじゃないかなとも思います。世代交代を決めるのは。やはり、次のキャプテン候補は六角選手。ああ見えて、意外と責任を負うと潰れてしまうタイプなんですけど、でも、ジャパンでキャプテンをできるのは六角選手かなと。責任感が強いので、最初はちょっとプレーとうまく噛み合わなかったりするでしょうけど、多分うまく調整してやってくると思います。

 今年のアジア大会では、志村さんの体調とかも影響してくると思います。去年のワールドカップでも、ケガを引きずりながらやっていたと思うので。志村さんがいる間に六角選手が学んだ方が、そのままスムーズに行くのかなと。そのまま六角選手となるより、金さんと志村さんがいるうちに、六角選手にキャプテンの座を譲って、2人が下から支えてあげたほうがスムーズに行くのではないかなと」

 ワールドカップ5連覇を達成しつつ、世代交代も着実に進めてきた日本の未来は明るい。ただ、西さんは女子野球がさらに盛り上がるために、意外な「課題」も挙げる。

「女子野球がメジャーになるには、海外のチームが強くなってくれないと、と思います。『また日本か』となってくるので、海外のチームに日本の指導者を置いたら、ちょっと面白いのかなと。例えば、アメリカで投手陣を育ててみたりとか。今、香港のチームが日本の指導者を募集してます。こういったことで、海外のチームがけっこう強くなれば、同時に女子野球が盛り上がる。

 今の日本だと、1回ワールドカップで負けたほうが盛り上がるかもしれないです。勝ち続けることは大切なんですけど、試合になると、『勝ち負けがあって面白いな』とか『日本が必死に1-0で試合をしている』というのが必要。海外のチームに頑張ってもらうために、日本の指導者を送って、日本の野球を知ってもらう。こういうことをやってもらったら面白いのかなと思います」

 相手のレベル、ワールドカップ全体のレベルが上がれば、当然、日本のレベルアップにもつながる。そして、さらに大会が盛り上がっていく。女子野球の未来を思うからこそ、西さんはあえて、「日本の負け」というワードを口にした。世代交代を進める日本が、苦しみながら、世界をリードし続ける。そんな未来を望んでいる。

【了】

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