W杯5連覇中の侍ジャパン女子代表 かつての中心選手が語る強さの理由と課題

2017.5.22

昨年9月の「第7回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(韓国・釜山)で前人未到の5連覇を達成した侍ジャパン女子代表。日本代表のメンバーとして第2回大会から第6回大会までワールドカップに出場し、準優勝1回、優勝4回に貢献した西朝美さんは、日本の最大の強みを「投手力」と分析する。日本女子野球史上最高の捕手にして、主砲としても他国から恐れられたスラッガーから見た日本投手陣の凄さとは…。「第1回BFA女子野球アジアカップ」への見通しも含めて、語ってもらった。

写真提供=Full-Count

写真提供=Full-Count

世界ランキング1位を維持、日本の最大の強みは「投手力」

 昨年9月の「第7回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(韓国・釜山)で前人未到の5連覇を達成した侍ジャパン女子代表。今年9月には、初開催となる「第1回BFA女子野球アジアカップ」(香港)が予定されており、日本、チャイニーズ・タイペイ、韓国、香港、インド、パキスタンの6か国が参加する見通し。世界野球ソフトボール連盟(WBSC)は、この大会が来年のワールドカップの予選になるとしており、6連覇を目指す日本は、まずはアジアで圧倒的な力を見せつけたいところだ。

 2年に一度開催される女子野球ワールドカップは、最初の2大会は米国が連覇。日本は準優勝だった。その後も両国のライバル関係は続いているが、結果を見れば第3回大会からは日本が5連覇中と米国を圧倒している。WBSC女子野球ランキングも首位をキープしているが、日本はなぜこんなに世界で勝てるのだろうか。

 日本代表のメンバーとして第2回大会から第6回大会までワールドカップに出場し、準優勝1回、優勝4回に貢献した西朝美さんは、日本の最大の強みを「投手力」と分析する。日本女子野球史上最高の捕手にして、主砲としても他国から恐れられたスラッガーから見た日本投手陣の凄さとは…。「第1回BFA女子野球アジアカップ」への見通しも含めて、語ってもらった。

 日本が「世界最強」を維持できる要因について、西さんは「日本が強いのは、投手陣(のおかげ)じゃないでしょうか。そこの差は(他国と比べ)確実に出てると思うので。投手力が高いので、点も取られない。投手力はずば抜けてます」と言い切る。その中心にいるのが、第6回大会と第7回大会で2大会連続MVPに輝いたエース右腕・里綾実(兵庫ディオーネ)だ。

「里選手とは高校、大学が一緒で何回かバッテリーを組んでるんですけど、誰よりも負けず嫌い。あの子が焦ってるのを見たことがないんですよ。満塁になって『やばい』という顔をするのも見たことない。いつでも攻める姿勢をバッターに向けているので。球のキレとか速さとかで言うと、他の女子野球の投手陣も持っているんですけど、里選手のマウンド上の顔つきですよね。ピッチャーというのは、『オン』と『オフ』を使って試合をしていくんです。『ここは気持ちを入れて投げるところ』、『ここは気持ちを抜いて投げる回』とあるんですけど、里選手はそれをうまく使ってメリハリをつけて抑える。

 自分も1度打席に立ったことがあるんですけど、里選手に見られているだけで、攻められてるような気持ちになる。その時は自分も負けずに向かっていったんですけど、『絶対に抑えられる』という自信が見えてきちゃって。何かを企んでるというか、何の球種で抑えようと考えているというか。実際に、三振を取りたいと思ったら三振を取れちゃうピッチャーなので。その辺がすごいです。相手チームが『この1試合で打てる時があるのかな』と感じてくると思うんですけど、そうなると打てないと思います」

里だけではない日本投手陣の実力、「他の国の投手より全員が(実力が)上」

 西さんは、世界一のエース右腕の本当の凄さをこう表現する。そして、この里に続く投手も遜色ないレベルにあることこそが、日本の最大の強みだという。

「全員が出ても、他の国の投手より全員が(実力が)上なので。他の国からすると、日本の投手はみんなエースみたいな感じだと思います。海外の投手は、やはりフォアボールが多いんですよ。日本の投手力が高いのは、技術的な部分なので、基本的に指導者がいいのだと思います。コントロールとか変化球が多いので、それが決め手だと思うんですけど」

 W杯では、捕手として海外の打者の反応を間近で感じ、日本の投手力の高さを感じてきたという。

「ストレートの速さだけだと打たれるんですけど、変化球のキレが良いので、変化球はいくら投げても打たれる気はしなかったです。日本の中での試合よりは、海外の選手とやるほうが変化球がぐんと増えるので、やはりいいのは変化球ですかね。アメリカとかは、詰まってもパワーでもっていってしまうので、ストレートはどんなに速くても使う時は怖かったです。もし投手が逆になってアメリカと戦ったら、確実に日本は負けます。打撃では向こうが優れているので。」

 多彩な変化球に、確実にストライクを取れるコントロール。全ての投手が安定しているからこそ、日本は世界一を守っていられる。もちろん、投手陣を支える守備力、そしてチーム全体の集中力も他国にまさる部分だ。

「日本の場合は、どっちかというと打って勝つより守備で守って勝つイメージのほうが強い。ヒット数では海外の選手が上なんですけど、日本は四球とかバントで1点、2点を取っていく『守りのチーム』。海外選手同士の試合だと、運であるとか、『行き当たりばったり』の感じはするんです。例えば、日本はミスがあまりつながらない。でも、海外の選手は1個のミスが出ると、そこから大量失点になったりする。諦めが早いというか、気持ちが切れるのが早い。

 日本は逆にそういうことがあまりないようにしてます。黙っていれば海外のチームと同じようになると思うんですけど、ならないようにチームで動いてるので。ジャパンにはプライドがある選手が来ます。打てなかったり、エラーしたりすると、プライドが高いから落ち込んでしまうので、そこは声かけをしながら、負の連鎖じゃないですけど、それを止めるように意識してやっていました」

課題は「アメリカと打ち合っても勝てるくらいのパワー」


ワールドカップ準優勝1回、優勝4回に貢献した西朝美さん【写真提供=Getty Images】

 では、逆に日本の課題とは何なのか。「第1回BFA女子野球アジアカップ」優勝、そして来年ワールドカップ6連覇を達成するために、打撃力の強化を図るべきだと西さんは指摘する。

「少しはアメリカと打ち合っても勝てるくらいのパワーがあったら、見てる人も面白いのかなと思います。ホームランを打って、打たれて、いつか女子野球でも柵越えがあって、というのがあったほうが面白いのかなと。色んな面でアメリカ、カナダ、オーストラリアのようなチームよりも上なんですけど、バッティングだけは欠けてるというか、足りないなと。

 そんな中で、(監督を努めていた)大倉さんは勝ちの確率の高い試合をしていく。(大会前の)短い合宿でも、ファウルの打ち方、カットの仕方、ボールの見極めとか、そういうのをやるんです。それが大会に生きてきて、確実に1試合で4、5点取れてる、という結果になる。そのために動ける選手がいるからすごいなと思います」

 世界の中で、独自の野球を貫き、頂点に立ち続けてきた日本。ただ、新たな“ライバル候補”も出てきており、安心は出来ない。だからこそ、これまでのスタイルに「打力」も加えていくことが必要だと、西さんは訴える。その“ライバル候補“はアジアにいるだけに、今年の「第1回BFA女子野球アジアカップ」は重要な大会となりそうだ。

「今、チャイニーズ・タイペイが日本に近い野球をしてきてるんです。強いんですよ。ああいうチームが上に来た時に『日本対日本』みたいな試合になる。そうなってくると、日本はどう戦っていくのか楽しみにはしてるんです。チャイニーズ・タイペイが上に来る日が来ると思うので、同じような投手力のチームが来たら、どう戦っていくのか見ものだなと。アメリカと日本も見ものなんですけど、日本の野球同士がやったときどうなるのかなと」

 世界一の日本の野球をさらに進化させていくのか、それとも、西さんが訴えるように課題の打力も強化して弱点をなくしていくのか。まずは今年のアジアでの戦いに注目が集まる。

【了】

記事提供=Full-Count
写真提供=Getty Images / Full-Count

NEWS新着記事