最も「難しい」世代――アジア制覇を目指す侍ジャパンU-15代表に求められるもの

2017.5.15

今年11月には国内で「第9回BFA U-15アジア選手権」の開催が予定されており、侍ジャパンU-15代表は2008年の第5回大会以来、4大会ぶりの優勝を目指す。来年は世界大会も開催される見込みで、初の頂点を目指す日本としては、今年アジアでもしっかりと結果を残しておきたいところだ。U-15代表が海外で勝つために必要なこと、そしてこの世代を指導する上で大切なこととは何なのか。

写真提供=Getty Images

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専門家が説明するU-15世代の重要性「結果のために何かを捨てていないか」

 WBSCの世界ランキングで1位をキープし続ける日本。野球日本代表「侍ジャパン」は2012年に常設化されたが、トップチームはもちろん、育成年代や女子代表が結果を残し、世界トップ維持に大きく貢献している。

 昨年の世界大会では、U-23代表や女子代表がW杯を制覇。8月に行われた「第3回 WBSC U-15 ベースボールワールドカップ in いわき」では、U-15代表が決勝まで進んだものの、決勝ではキューバに4-9で敗れ、惜しくも世界一に輝くことはできなかった。それでも、日本が若い世代も世界トップクラスの実力を誇ることをあらためて証明した形だ。

 今年11月には国内で「第9回BFA U-15アジア選手権」の開催が予定されており、侍ジャパンU-15代表は2008年の第5回大会以来、4大会ぶりの優勝を目指す。来年は世界大会も開催される見込みで、初の頂点を目指す日本としては、今年アジアでもしっかりと結果を残しておきたいところだ。

 名将・野村克也氏の“右腕”として東京ヤクルト、阪神、東北楽天でヘッドコーチや2軍監督を務めた松井優典氏は、中学生やプロ入りすぐの高卒ルーキーなど、いわゆる「育成年代」でも豊富な指導経験を誇る。そんな同氏にとってU-15は「難しい世代」だという。U-15代表が海外で勝つために必要なこと、そしてこの世代を指導する上で大切なこととは何なのか。

 松井氏は、侍ジャパンの常設化は、頂点にいるトップチームの世界一という結果に結びつかなければいけない、と訴える。つまり、「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」や「世界野球WBSCプレミア12」で優勝することで、常設化の成果が出てくるというのだ。そして、その最大の目標を達成するために育成年代の代表チームがあるべきだと主張する。つまり、育成年代では結果を残すだけでなく、その先につながる野球をするべきだと考えている。今年「第9回BFA U-15アジア選手権」に挑むU-15代表も、それを頭に入れて取り組んでいってほしいという。

「日本の世界ランキング1位は大いに評価されていいこと。ただ、その順位がWBCなどにイコールになるかが一番重要です。WBCに勝とうと思った時に果たしてそれでいいのか。その自問は常に持っておくべきです。アンダー世代が世界大会で勝ってきている。ただ、『勝つための野球をやってないか?』と。そういう見方も必要です。もちろん、やっている方は勝つためにやっていると思いますが、結果のために何かを捨ててないか、という考えを常に課題として持っておいてほしい。せっかく育成年代まで代表チームを作ったのだから、上につながらないと意味がない。トップチームが世界で勝つための組織のはずなので、それを考えながらいくといいと思いますね」

 侍ジャパンU-15代表には、結果に加えて、あえて内容も求めたいというのだ。

U-15世代が大切にすべき技術、状況判断

 松井氏は、U-12世代で最も重要なこととして「基本的に『楽しい』。これだけです。小学生は(指導者が)見極めてあげる世代です。『ああしろ、こうしろ』はない」と説明していた。それが、U-15世代になると、「考え方も大人になる。大人になった時に勝つためにどうするか。そこに『楽しい』から移り変わっていく時期がある。そこのバランスが非常に大事」と言う。

「見極めてあげる世代」である小学生に、あえて技術的な部分で教えるべきこととして、松井氏は「両手で捕れ」という言葉を挙げていた。

「例えば守備の時に、作業として『捕球』と『送球』の2つがあります。捕球する前によく『ボールに入れ』『前に出ろ』といわれますが、それが自然と出るためにはどうすればいいのかを考えると『両手で捕れ』ということになる。これ1つだけです。両手で捕ろうとすれば、自然に『ボールに入る』『前に出る』という作業をするからです」

 これが、中学生になると「そこから次の段階」になるという。「例えば、両手で捕ったボールをどう処理するか。小学生と中学生の違いが出てくる。フットワークをどうするか。『こうやったらフットワークを踏める』と具体的に教えないといけない。『足を使え!』というけど、どうしたら使えるかを教えるのが中学生です」

 さらに、成長すれば、自分で判断するという作業の重要度も増してくる。松井氏は、意外な例を挙げて「状況判断」の大切さを説いた。

「中学校に入ると、『礼儀正しくしなさい』とより教わるようになります。ただ、『こんにちは』の中にも自覚が必要。それは周囲の環境、状況を考えるということです。例えば、電車に乗って、同じ車両の反対側の端に上級生がいると、『こんにちは!』と元気に挨拶する。そこで挨拶をしないと、後で上級生に怒られる。こんなことがよくあります。

 でも、大事なことは、例えば礼というのは、最敬礼とか目礼とか会釈というものもある。それを状況に応じて使い分ける選手を育てるべきだと私は思います。今の電車の例で言えば、周囲に多くの乗客がいることを考えたら会釈が妥当です。最終的にそういう部分を育てないと、例えばプロに入って1軍のマウンドに立った時に、状況判断が出来ない。力を出せない。こういうことを、プロに入ってきたばかりの選手を指導して感じていました。

 怒られて育った選手は、その選手を怒れる人が近くにいないと気を抜く。プロに入っても、そういう選手はそこからスタートになります。だから、育成年代の選手が日本代表に行った時に、その選手は普段教わっている監督がいない時にどういう行動をするか。それを見る必要があります。内面的には、自分の自主性の中で野球をうまくなる努力ができるか、ということです。その元になるのが、U-12やU-15の世代になってきます」

U-15世代の選手には「『1』を明確にして徹底させることが大事」

 もちろん、中学生になるとそれぞれの体つきも変わり、当然、選手によって成長のスピードにも違いがある。だからこそ、指導者の教えが重要だと松井氏は強調する。

「私は中学校にも指導に行っていますが、本当に難しい。十人十色といって、10通りの指導法を見つけないといけませんが、代表チームのように20人集まったら、10通りでは間に合わない。そうすると『1』を明確にして徹底させることが大事です。心も体も成長する世代なので。

 指導者はリーダーです。考え方も大事ですが、それよりもリードしないといけない。そして、リードする距離感が大事です。距離感が絶対に縮まらないようにして、選手によって(指導や接し方を)変えていくというのは、そこが一番難しい。ただ、教えてないのに、できなかったことに対して怒る。これは最悪です。一方で、育てるのであれば、自主性を持った選手を育てる必要がある。そのためには、その選手の現在の状況、立場、立ち位置を知らないと駄目です。そこがU-15のような世代を教える指導者としては大事になります」

 最も「難しい」世代の選手を育てながら、世界で勝つ。そして、将来的にトップチームへと繋がっていく結果を残す。侍ジャパンU-15代表は大きなテーマを抱えながら、まずは11月にアジア制覇を目指していく。


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