侍ジャパンさらなる進化へ 走塁のスペシャリスト・鈴木尚広氏が提言する「走る日本野球」

2017.4.3

第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)の4強で敗れた野球日本代表「侍ジャパン」。準決勝・米国戦は1-2で惜敗し、2大会ぶりの優勝を逃した。世界一奪回の夢は次回大会に託されたが、果たして、今後どういう道を歩んでいくべきか。走塁のスペシャリストとして読売で228盗塁をマークした野球評論家・鈴木尚広氏は「未来に光を感じるものがあった」と総括。数々の投手のクセを見抜いてきた独自の“目”で、さらなる進化への課題を分析してもらった。

写真提供=Full-Count

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WBC4強敗退も奮闘した若き侍ジャパン、元読売ジャイアンツ・鈴木氏「未来に光を感じた」

 第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)の4強で敗れた野球日本代表「侍ジャパン」。準決勝・米国戦は1-2で惜敗し、2大会ぶりの優勝を逃した。世界一奪回の夢は次回大会に託されたが、果たして、今後どういう道を歩んでいくべきか。走塁のスペシャリストとして読売で228盗塁をマークした野球評論家・鈴木尚広氏は「未来に光を感じるものがあった」と総括。数々の投手のクセを見抜いてきた独自の“目”で、さらなる進化への課題を分析してもらった。

 世界一を目指した侍ジャパンの歩みは、米ロサンゼルスの地で途絶えた。野球の母国・米国に準決勝で敗戦。それでも、メジャーリーガーをズラリと揃えた強敵と互角に渡り合った。侍ジャパンを下した米国は、悲願の初優勝を果たした。

「日本の野球ファンが、未来に光を感じるものがあったのではないか。メジャーリーガーが1人しかいない中で十分戦えるところを見せてくれたし、優勝してもおかしくなかった。前回大会に比べたら、次のWBCが今から待ち遠しい。ファンにも期待感があると思う」

 侍ジャパンのメジャーリーガーは青木宣親外野手(アストロズ)のみ。主力を担ったのは、筒香嘉智外野手(横浜DeNA)、中田翔内野手(北海道日本ハム)、山田哲人内野手(東京ヤクルト)、菅野智之投手(読売)ら、20代の若き侍たち。そんな面々に、鈴木氏は「光」を感じたという。

「若さという部分が大きい。WBCになると、ベテランが多いこともあったけど、今大会はそうではなくて若い選手が出てきた。若くて新しい『侍ジャパン』を見せてくれた」

 メンバーの多くは次回大会も主力を担っていくことだろう。では、その中でも侍ジャパンを牽引するのは、誰になるのか。「キャプテンになってほしいのは……」と、鈴木氏が指名したのは、坂本勇人内野手(読売)だった。

「彼は野球小僧で、何よりも野球が好き。彼が素晴らしいところは自分が持っている能力はあるけど、それに加えて、素直さ、吸収しようという姿勢がある。それがある限りは成長し続けるんじゃないかと思う」

米国戦、ミスと貧打で招いた小さくて大きい「1点差」…「力の差はない」

 実際に所属チームの読売ジャイアンツでも15年から主将を託されている坂本。昨季引退するまで一緒にプレーした鈴木氏は、大役を担うことで一層成長する機会になると考えている。

「彼は主将を任されたことで、すごく成長した部分がある。そういう(侍ジャパン主将という)環境の下でも成長できる人間だと思うし、伸びしろがもっと出てくる。チームでも経験しているから引っ張る力もあるし、誰もが認めてくれる。ジャイアンツ(読売)もそうだけど、日本のプロ野球を引っ張っていってほしい。もう彼はそういう存在を目指すところに来ている」

 一方、今大会は課題も残った。準決勝の米国戦。4回に二塁手の菊池涼介(広島東洋)の失策から先制点を許し、同点の8回には三塁手の松田宣浩(福岡ソフトバンク)のファンブルが決勝点につながった。

 鈴木氏は「ミスした方が負けるということ。もちろん集中しているし、イレギュラーもあるかもしれないけど、結果で物事を話すならミスが出たら負けます」と指摘しながら、こう擁護した。

「誰しもしたくないけど、ミスは出るもの。いくら素晴らしいポテンシャルで対応能力がすごいといっても、初めてプレーするアメリカで、天然芝で、雨もあって、対応できるのは容易ではないと思う」

 打線も1、2次ラウンドを引っ張ってきた4番・筒香、5番・中田が勝負所で一本が出ず、散発4安打で1得点と決め手を欠いたことが、小さくて大きい「1点差」の要因となった。

「一発勝負の試合で、いい投手が来たら打てない。紙一重だと思う。でも、日本も打てなかったし、アメリカも打っていない。どちらが勝ってもおかしくなかった。アメリカも日本を攻略していない。向こうも勝った感じは持ってないと思うけど、世界一になった。日本という存在を大きく感じたと思う。力の差はない」

 では、力の差がないとしたら、一発勝負の試合を勝ち上がるために必要となるものは何なのか。鈴木氏は、走塁のスペシャリストらしい視点で「走る日本野球」を提言した。

「一つの攻撃のバリエーションとして、それを持っているのが日本の強みだと思う」。事前のデータも少ない国際大会。必要となるのは、ある特色を持った選手だという。

走塁のスペシャリスト・鈴木氏が認める2人の若き走れる選手とは

「一発勝負で対戦したこともない投手には『感性』で走れるランナーがいいと思う」

 事前のデータを駆使し、癖を見抜いて走る選手もいれば、グラウンドで実際に対峙した時の「感性」によって走れる選手もいる、と鈴木氏は分析する。果たして、日本に「感性のランナー」はいるのか。名前を挙げたのは、セ・リーグ、パ・リーグの2人だった。

「まず、ヤクルトの山田君は感じる力があると思う。彼のリードは常に(盗塁する意識と帰塁する意識が)10対0。常に行く意識を持っている。それでいて、投手というのは同じように5球を投げても、ちょっとした違いが出る。彼はそれを塁上でわかることができる」

 2年連続30盗塁以上でセ・リーグ盗塁王の卓越した技術を称賛。もう一人挙げたのは、14年のパ・リーグ盗塁王・西川遥輝外野手(北海道日本ハム)だ。

「西川君は話を聞くと、常にどんな投手でも全球、行く意識があると言う。彼は(走ると見せかけて戻る)偽装スタートが多いけど、その意識があるからスタートを切っている。本来、全球は神経がすり減るから一番キツイ。でも、彼はスタートを切って、自分でクイックが速いと思ったら戻れる。前の球よりクイックが遅いと思ったら行ける。面白い存在になる思う」

 日本にもスペシャリストが認める若き走れる選手がいる。あとは、どう実戦に取り入れていくか。鈴木氏は「すぐに盗塁すればいいという考えでもダメ」と戦術を練り上げる必要性を説く。

「球数を投げさせて、打者有利にさせて心理的に圧迫することもできる。相手は警戒する選手が走者に出たら、逆に早く走ってもらいたいもの。一塁にいたら、バッテリーは打者と走者両方をケアしないといけないけど、早いカウントで二盗されたら打者に集中できてしまう。走らないことで本来、変化球で攻めたいところをストレートで来ることもある。チームとして考えて使い分ける必要がある」

 こう力説した鈴木氏。スモールベースボールを掲げる侍ジャパンは今大会の盗塁数は7試合で11。数字だけでなく、打撃に還元する盗塁の意識も必要だろう。若き侍ジャパンに、まだまだ伸びる余地はある。今大会、ファンが見た「光」は次回大会の世界一奪回につながっていくだろう。

【了】

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