2大会ぶりのWBC制覇へ――過去2大会でコーチの緒方耕一氏が語る、決勝Rでの戦い方

2017.3.20

日本はこのまま世界一まで駆け上がることが出来るのか。現役時代に読売で活躍した野球評論家の緒方耕一氏は、世界一に輝いた2009年の第2回大会、準決勝で敗退した第3回大会で、日本の外野守備・走塁コーチを担当。現役時代に走塁のスペシャリストとして活躍した経験を生かし、一塁コーチャーズボックスで厳しい戦いに挑んできた。緒方氏が見る、小久保ジャパンの強み、課題とは。そして、“ホーム”の東京ドームでの6試合から、“アウェー”のロサンゼルス(ドジャースタジアム)に舞台を移す準決勝以降で気をつけるべきことは何なのか。過去2大会の経験を踏まえて語ってもらった。

写真提供=Full-Count

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無傷の6連勝で決勝R進出、侍ジャパンは「相手に合わせることはない」

 第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)で2大会ぶりの世界一を目指す野球日本代表「侍ジャパン」は、2次ラウンドを1位で通過。開幕から無傷の6連勝で4大会連続の準決勝進出を決めた。ここまでは激しい試合の連続ながら、気迫十分のプレーでことごとく競り勝ち、快進撃を続けている。

 日本はこのまま世界一まで駆け上がることが出来るのか。現役時代に読売で活躍した野球評論家の緒方耕一氏は、世界一に輝いた2009年の第2回大会、準決勝で敗退した第3回大会で、日本の外野守備・走塁コーチを担当。現役時代に走塁のスペシャリストとして活躍した経験を生かし、一塁コーチャーズボックスで厳しい戦いに挑んできた。緒方氏が見る、小久保ジャパンの強み、課題とは。そして、“ホーム”の東京ドームでの6試合から、“アウェー”のロサンゼルス(ドジャースタジアム)に舞台を移す準決勝以降で気をつけるべきことは何なのか。過去2大会の経験を踏まえて語ってもらった。

――日本は激戦の連続で決勝ラウンド進出を決めました。この先は、対戦相手もメジャーリーガーをずらりと揃える強豪ばかり。日本の戦い方を考えていく必要はあるのでしょうか?

「もちろん、相手がどうというのはあるんですけど、まずはいかに日本がいいパフォーマンスを発揮できるか、ということになると思うんですよね。こういう時代ですから、情報はあります。スコアラーの方とかが頑張ってデータをくれるんですけど、紙の上で(数字を)見たり映像などで見るのと、生で見るのとでは、ちょっと違うのも当然あります。だから初対戦で、特に決勝ラウンドは1回しか対戦がない一発勝負なのに、『イメージと違った』では遅い。ある程度、頭に置きながらも『思ったのと違ったな』と思えるくらいの覚悟は必要です。

 相手どうこうよりも、まずは『こういう野球がしたい』と打ち出すのが大事。相手もあることですけど、まずはどういう野球をしたいか。相手に合わせることはないですからね」

――米国に行けば当然、環境の変化も出てきます。日本にとっては不安材料になるのでしょうか?

「2次ラウンドまで日本でしたし、体調管理とか生活もしやすいと思います。ロサンゼルスは乾燥してますし、この時期は寒い。思いもよらぬことも起きたりすると思うので、そこで対応できるか。勝負事で時の運もありますからどうなるか分かりません。僕は第2回大会も経験させてもらいましたが、東京ラウンドが終わったらサンディエゴ、ロサンゼルスと移動した。アリゾナも挟みました。かなり長い期間だったので、初めて経験する選手はちょっと戸惑いもあるかもしれない。そう考えれば、今回は2次ラウンドまで東京なので、それ(米国滞在が短いこと)は有利かなと思います。

 僕が行ったときは、向こうでは(運営サイドから)ミールマネーが出ていた。『ここまでアメリカにいるからこれだけのお金』とカードを渡されて、選手は銀行に行って引き落とさないといけない。朝・昼・夜を自分たちで準備しないといけなかったんです。当然、外食になりますね。もちろん、通訳さんとか色んな人たちにお店をコーデイネートしてもらうんですけど、そういうのも大変です。朝は外に行ってハンバーガーを買ったりしないといけない。それが短ければ短いほどいいわけですから。2次ラウンドまで東京でやって、(渡米後は)練習試合もありますけど、『さあ、あと2試合だ』って思うと、気持ちの入り方、入れやすさもあるんじゃないでしょうか。『もう、やっても2試合だ』と思えば」

日本にとっては過酷な米国での決勝R、「すべては理想通りいかない」

――過去の大会で米国に行かれてから苦労したことはあったのでしょうか?

「寒かったり、ボール(WBC公式球)がさらに滑るとかあるので、投手も野手も大変です。(第2回大会の)サンディエゴでは薄暮ゲームがあったんですけど、ナイターで寒いことと、デーゲームとどっちを選ぶかといったら、僕はまだ寒いほうがいいと思うんです。向こうの球場は、一番いい席がバックネット裏で、そこに座るお客さんが一番見やすいように、眩しくないように、センターが太陽という作りになっています。日本では、同じ作りは広島のマツダスタジアムだけ。だから、選手は(渡米すると)全て逆光で眩しい。日本の選手はそれに慣れてないから、デーゲームでやると本当に大変なんです。それだったらナイターが少々寒くても、太陽がない方がまだいいかなと思いますね」

――投手陣は大体それぞれの役割がはっきりしてきました。ただ、米国に行くと気候が変わり、滑るとされるWBC公式球がさらに滑るようになるとも言われます。

「基本的にピッチャーはWBC球に対応できない、操れないピッチャーは招集されていないと思います。完璧とは言わなくても、7、8割は操れるピッチャーが集まっていると思うので、その中で打たれている選手は逆に心配ですよね。ただ、トータルで日本のピッチャーのスピード、変化球の切れ、コントロールを考えれば、世界トップクラスには間違いないです。

 そんな中で、先発、中継ぎ、セットアッパー、抑えとか、選手がある程度、自分の役割をはっきり自覚できるような扱いにしたほうが、力は発揮しやすいと思います。野手だって、ある程度『レギュラーはこの選手』とやったほうが控えの人も『自分はこのへんで出番だ』と分かりやすい。ただ短期決戦とは言え、国内での合宿から考えると1か月あるから、長丁場でもある。力を発揮できない人がかならず何人か出てくるので、その中でどう監督が見極めて臨機応変に選手を起用していくか。それは第2回も第3回も大変でしたよ。

 やっぱり理想通りの布陣はなかなか組めない。風邪を引く選手もいるかもしれませんし、花粉が大変な人もいると思います。あれだけの慣れないボールを1か月も投げてると、肩肘に違和感を覚える人も出てくるでしょうから。あんなに滑るボールをずっと投げていると、色んな所に張りが出てきたりと、すべては理想通りいかないので」

――走塁面ではある程度、盗塁を仕掛けないといけない場面なども出てくると思います。2009年は大事なところで片岡治大選手(現読売)が二盗を決めました。

「塁に出たら、走ろうとする意欲を持つことが大事です。安全に、安全に、というよりは『スキあらば』という選手の方がやっぱりいいですよね。(打線が)なかなか打てない試合も出てくるので、どうやって試合を動かすか。そういうときはやっぱり『よし、次の塁』と思ってくれる選手がいた方が得点は当然入りやすい」

「選手には『勝ちたい』と思って戦ってほしい」

――前回大会では、2次ラウンドでしたが、鳥谷敬選手(阪神)がチャイニーズ・タイペイ戦で9回に決めた盗塁も印象的でした。かなり勇気がいる場面でしたが、一塁コーチだった緒方さんには成功するという確信があったと伺いました。

「100%という言葉を使っていいのか分からないですけど、相手のクイックとキャッチャーの肩と鳥谷のスピードを考えた時に、僕は絶対セーフになると思いました」

――もちろん事前のデータもあったと思います。

「ありますね。多くはないけど、少なくても1、2球はそのピッチャーの映像はあります」

――さらに実際に見て、『これは大丈夫だ』と。

「そうですね」

――それでも不安はあるものでしょうか?

「もちろんああいう場面なので、普段の鳥谷の力が出せずに、プレッシャーで硬くなっていつもより足が進まないなど、あるかもしれません。そういうことまで考えてしまうと、なかなか難しいです。でも、相手バッテリーはピッチャーのクイックもそうだし、ストレートであったこと、キャッチャーが投げやすいところに投球がいったこと、キャッチャーも二塁にほぼストライクを投げたこと、などを考えると、鳥谷は最高の仕事をしたと思います。だから、クロスプレーではありましたけど、それでもセーフなんだから、多分、100回走っても100回セーフだと私は思ってますよ」

――冒頭で緒方さんがおっしゃったように、しっかり日本の野球をやれば優勝も見えてきますか?

「1次ラウンドも2次ラウンドも、何度も対戦しているチームが多かったので、力量の差が分かった。なので、トータルで考えて計算しやすかったのですが、向こうの(ラウンドの)国は対戦自体が少ないので、決勝に行くと時の運もあるし、分からない部分があります。アメリカでやりますし、決勝まで行くとメジャーリーガーが多いチームになるのかなと思ったりもします。だけど、ロサンゼルスが『完全アウェー』かといったら、現地在住の日本人の方とか、日本から行かれるファンの方がたくさん応援に来てくれるんですよ。本当に心強いです。『こういうところで日本人が頑張っているんだ。よし、俺らもいいところ見せて、この人たちを勇気づけよう』という気持ちも新たに出てます。もちろん、『ここまできたら勝ちたい』という気持ちと、また別のモチベーションも出てくるので。選手には頑張ってほしいですよ。『負けられない』と思うのはしょうがないですけど、『勝ちたい』と思って戦ってほしいですね」

【了】

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