2大会ぶりのWBC制覇へ――過去2大会でコーチを務めた緒方耕一氏が見る日本の強みと課題

2017.3.13

日本は今大会で世界一まで駆け上がることが出来るのだろうか。現役時代に読売で活躍した野球評論家の緒方耕一氏は、世界一に輝いた2009年の第2回大会、準決勝で敗退した第3回大会で、日本の外野守備・走塁コーチを担当。現役時代に2度の盗塁王に輝くなど走塁のスペシャリストとして活躍した経験を生かし、一塁コーチャーズボックスで厳しい戦いに挑んできた。現時点で見えている日本の強み、課題とは――。過去2大会の経験を踏まえて、語ってもらった。

写真提供=Full-Count

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小久保ジャパンは世界一に輝けるのか、「決勝ラウンドまでは間違いなく行きます」

 2大会ぶりの世界一を目指し、第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)で1次ラウンドを1位通過した野球日本代表「侍ジャパン」。すでに2次ラウンドがスタートしたが、4大会連続の準決勝進出へ向けてここまで熱闘を繰り広げてきた。本番前の実戦では2勝3敗と負け越し、不安の声も上がっていた中、開幕後はギアを一段アップ。侍ジャパンの気迫あふれるプレーが、“本拠地”日本のファンを熱狂させている。

 日本は今大会で世界一まで駆け上がることが出来るのだろうか。現役時代に読売で活躍した野球評論家の緒方耕一氏は、世界一に輝いた2009年の第2回大会、準決勝で敗退した第3回大会で、日本の外野守備・走塁コーチを担当。現役時代に2度の盗塁王に輝くなど走塁のスペシャリストとして活躍した経験を生かし、一塁コーチャーズボックスで厳しい戦いに挑んできた。現時点で見えている日本の強み、課題とは――。過去2大会の経験を踏まえて、語ってもらった。

――日本は1次ラウンドを1位で突破し、2次ラウンドに挑んでいます。大会前の実戦では2勝3敗と負け越した侍ジャパンですが、開幕したら雰囲気がガラリと変わりました。

「開幕前から、壮行試合、強化試合で打線が心配されていました。ただ、打線というのはどんなに早く仕上げても、プロ野球はようやくオープン戦が始まるくらいの時期です。なので、WBCに招集された野手は早めに調整したとしても、実戦はそれほど出来ていない。試合勘が戻るのは大会が始まってからです。

 強化試合で打線が低調だったのは小久保裕紀監督や首脳陣、そして私たち経験者から言わせてもらえば計算済みというか、最初から打てないというのはある程度、分かっていたこと。むしろ、開幕と同時にいい感じで少しずつ打線が上向いてきたかなという印象です。試合をやればやるほど実戦感覚が戻ってくるので、(この後も)徐々に上がってくると思います。ただ、初対戦であれば絶対にバッターよりもピッチャーの方が有利なので、うまくばかりはいかない。この先は接戦も出てくるでしょう」

大谷不在の中で勇気ある決断を下した小久保監督「采配は選手起用の点で見事」

――緊張感がある中、初戦のキューバ戦は青木宣親外野手(アストロズ)が攻守両面で存在感を見せました。筒香嘉智外野手(横浜DeNA)の先制打につながる二塁打はもちろん、守備でもファインプレーを連発しました。チーム唯一のメジャーリーガーの存在はやはり大きいですね。

「WBCでは、メジャーリーガーがいないチームのほうが逆に少ないくらいです。青木が実際に見て感じた、生きた情報をくれるので、それだけでも心強い。(第1回大会、第2回大会に出場して)慣れない国際大会での過ごし方とか調整方法も彼は知っているので、それは助かりますよ。2009年は野手だけでもメジャーリーガーが4人(城島健司、岩村明憲、福留孝介、イチロー)いましたけど、彼らはそういう生きた情報を持っていた。青木は精神的支柱にもなっていて、心強いですよね。

 彼は元々、足が速いから守備範囲は広い。ただ、どちらかというとバットマンの意識が高いから、守備にそれほど興味がないというか、そういう風に見えてしまう部分はあるけど、やれば出来る。『ここ』というときにはやる。一流プレーヤーはそういうものでしょう。あの守備は本当に大きかったですね」

――キューバ戦では、初回に菊池涼介内野手(広島東洋)のファインプレーで併殺に仕留めた場面も大きなポイントになりました。

「大谷(翔平、北海道日本ハム)が負傷で出場を辞退して、小久保監督の選手起用、特にDHに関しては大きく計算が狂ったところだと思うんです。ただ、その中で菊池をセカンドに使って、山田(哲人、東京ヤクルト)もスタメンでDHで起用している。これは非常に勇気のいる決断です。もし菊池が初回にデッドボールでも食らって負傷退場したら大変なことになります。でも、起こるかもしれないことを考えるより、今が大事。ベストを尽くすことが大事。この覚悟は大したものだと思います。なかなか2人しかいないセカンドを両方とも使えないですよ。

 あと、強化試合の最終戦のスタメンが開幕スタメンかと思ったら、三塁には田中(広輔、広島東洋)ではなくて本職の松田(宣浩、福岡ソフトバンク)を入れてきたりして、その見極めも当たった(松田はキューバ戦で4安打4打点)。小久保監督の采配は選手起用の点で見事だなと思っています。『あの選手がいたら』などと考えるのではなくて、今揃っている選手が日本の中のベストなわけですからね」

走塁のスペシャリストが高く評価する機動力「今まで以上に走塁を生かしたいチーム」

――走塁のスペシャリストでいらっしゃる緒方さんですので、侍ジャパンの機動力についても聞かせてください。日本は初戦のキューバ戦は4盗塁を記録しましたが、第2戦のオーストラリア戦は走れませんでした。小久保監督は「(盗塁は)走れる確信がないとなかなか難しい」と話されていますが、今回の日本の走力についてはどのように考えられていますか?

「国際大会ではボークの定義がはっきりしていない。例えばオーストラリアのピッチャーは、日本から言わせれば(セットポジションで)制止してなかったので、なかなかスタートが切りづらかった。左ピッチャーも思い切り足がクロスしたり、ホーム側に踏み出して牽制したりしていましたが、それでもボークを取られない。なので、足を使えるときと使えない時がハッキリしてしまいます。ただ、キューバ戦のように『使える』と思ったら、それは使ったほうがいい。

 今回のメンバーは過去3大会と比べても最も機動力が使えるメンバーが揃っていると思うんです。1番(山田)、2番(菊池)、3番(青木)、6番(坂本勇人内野手、読売)、7番(鈴木誠也外野手、広島東洋)、8番(松田)と、スタメンで6人も機動力が使えるチームはなかった。今まで以上に走塁を生かしたいチームであるのは間違いないでしょうね。機動力優先ではなく、バッティングと守備、ポジションで選んだら、そこに『おまけ』と言うわけではないですけど、足を持っている選手が並んだ。これは小久保監督にとっても本当に嬉しいことだと思います。

 日本のピッチャーはしっかり教育されていて、クイックは徹底されています。それに比べたら海外(の投手)は甘く見えますよね。クイックとか牽制が一番うまいのは間違いなく日本(の投手)です。(日本の野手は)そういうところで普段やっているので、走ることについては(審判が)ボークさえしっかり取ってくれれば、機動力は使えると思います。怖いのは審判のジャッジだけで」

――韓国、チャイニーズ・タイペイが敗退し、2次ラウンド初戦はオランダと対戦しました。他にも、イスラエルなど身体能力が高い選手を擁する国が揃っています。日本としては、こういうスタイルのチームとは戦いやすいのでしょうか? それとも、戦いにくいのでしょうか?

「どの高さ、コースでもフルスイングをしてくるチームと東京ドームで戦うというのは、プレッシャーはあると思います。1番から9番まで全員が反対方向に(ホームランを)打てそうな雰囲気を持っている選手たちと対峙するわけですから、ピッチャーは相当プレッシャーを感じると思います。ちょっと間違えればオーストラリア戦の菅野(智之、読売)のようにホームランを打たれてしまうので。

 ただ、決勝ラウンドまでは間違いなく行きますよ。もちろん、簡単に勝つと言ったら、選手たちにプレッシャーをかけてしまうかもしれないけど、でも力を発揮できれば絶対に勝ちますよ。もちろん、勝負事で時の運もありますから、どうなる分かりません。繰り返しますが、『簡単に勝てる』と言ったら戦っている選手や首脳陣に失礼かもしれないけど、日本の力を出してくれれば、総合力で決勝ラウンドまでは行けますよ」

――では、決勝ラウンドに行くために現時点であえて課題を挙げるとすれば、何になるでしょうか?

「僕は野手出身ですけど、やはり野球はピッチャーだと思うし、ある程度ピッチャーがゲームを作ってくれれば、と思います。あとは、一番難しいのは継投のタイミングです。どの場面で誰を投げさせるのか、どこで代えるのか、先発にイニング終了まで投げ切らせるのか、ランナーを背負っている場面でも交代してリリーフ専門の投手に任せるか――。そういう見極めが大事になってくると思います。(首脳陣は)簡単に点は取れないとまずは考えていると思うので、いかに点を与えないか。そう考えると、やっぱりピッチャーが重要ですよ」

【了】

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