世界一奪回へどう戦うべきか 名将・岡田彰布氏が見る「小久保ジャパン」(野手編)

2017.2.27

第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)の開幕が迫ってきた。現役時代に阪神、オリックスで通算247本塁打を放ち、引退後は監督としてこの2球団を指揮した岡田彰布氏は、「今大会が今までで最も厳しい戦いになる」と予想する。2005年に阪神をリーグ優勝に導いた名将は小久保ジャパンをどう見ているのか。第2回は野手編。

写真提供=Full-Count

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ほぼベストメンバーが揃った打線、「やはり4番は筒香だと思う」

 3月に開幕する第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)で、2大会ぶり3度目の優勝を目指す野球日本代表「侍ジャパン」。28人の最終メンバーが決定し、プールBに入った1次ラウンドでは、キューバ、オーストラリア、中国と対戦する。2位以内に入れば、2次ラウンド進出となる。

 今大会、投手陣ではメジャーリーガーの招集はならず、エース候補と見られていた大谷翔平(北海道日本ハム)も右足首痛で欠場が決まった。一方、打線では、青木宣親外野手(アストロズ)がメンバー入りし、日本代表としてメジャーリーガーが2大会ぶりに参戦。4番候補の中田翔内野手(北海道日本ハム)、筒香嘉智外野手(横浜DeNA)らを中心に、ほぼベストのメンバーが揃ったと言えるだろう。

 現役時代に阪神、オリックスで通算247本塁打を放ち、引退後は監督としてこの2球団を指揮した岡田彰布氏は、注目される4番に筒香を指名。また、青木を1番で起用できることはポジティブな要素だとした。一方で、初対戦の投手と対峙することが多くなる国際大会の難しさも指摘。「今回が一番厳しい戦いになる」と分析する。2005年に阪神をリーグ優勝に導いた名将は、小久保ジャパンをどう見ているのか。第2回は野手編。

――打線に目を移しますと、なかなか長打がポンポンと出る形にならないだろうと小久保監督も話しています。そんな中で4番は中田選手か筒香選手が有力候補となっています。

「どちらかというと、筒香かなと。力的にも筒香だと思いますね」

――岡田さんが阪神の監督時代には、金本知憲氏(現阪神監督)を4番に固定しました。やはり4番は固定したほうがいいのでしょうか?

「やっぱり固定したほうがいいと思います。(相手の先発投手の)右・左は関係なしで。得点源になりますから、4、5番を筒香、中田でいいのではないかと。3番までは塁に出て、色々と動ける選手を置いて、4、5番のあの2人で点を取るという形かな」

――筒香選手は昨年セ・リーグで本塁打と打点の2冠王に輝きました。この2年くらいの成長をどう見ていらっしゃいますか?

「良くなりましたね。本当に良くなった。私がオリックスの監督の(2010~2012年)の時に出始めて、最初は穴が多かったですけどね。反対方向に打てるし、元々パワーがあるから、本当にこの2年で一番持っているものを開花させたのが筒香じゃないでしょうか」

――以前は穴が多いという印象でしたか?

「多かったですね。今は(打率)3割打てますからね。筒香は素直にバットが出るようになった。反対方向に打ってもホームランになるという感覚を掴んだんでしょうね、自分の中で。長打力は最初から持ってるから、『飛ぶようになった』というわけではない。最初から飛んでいたわけだから。(相手は)厳しいボールを投げてくるわけですけど、アウトコースのボールでも反対方向に普通に自分のスイングをしたらホームランになる。そういう感触を掴んだんでしょうね。だから、あんまり強引さがなくなって、打率も残せる。一昨年くらいに『良くなりそうだな』というのがあって、去年で開花した」

岡田氏も認める筒香の進化、「今なら4番でいい」

――今、日本で最も3冠王に近い存在でしょうか?

「そうでしょうね。近い近い。打率も3割打てますからね」

――日本の4番にふさわしい選手になったという印象でしょうか?

「今なら4番でいいでしょうね。間違いなく。長打力とか、いろんなことを考えても、やはり4番は筒香と思いますね。4番には一番いいバッターを置かないと」

――中田選手は2015年11月の「世界野球WBSCプレミア12」では、主にクリーンアップではなくて6番に入り、結果を残しました。

「勝負強いことは勝負強いですからね。5、6番を打たせるのがいいのではないかと。ただ、中田が6番になるとクリーンアップをどうするか。そうなると、大谷が抜けたのは打つ方でも大きい」

――もし大谷選手が辞退していなければ、クリーンアップを打たせたかったですか?

「DHが使えますからね。投球の方も、球数制限があるからそんなに疲れませんし」

――もう1つの注目は二塁のレギュラー争いです。現役時代に、岡田さんは打てる二塁手として活躍されました。

「それはチーム編成上の問題になると思います。自然に考えたら、山田には3番を打たせたい。そうしたら、クリーンアップも右(山田)、左(筒香)、右(中田)とジグザグになる。でも、菊池を使う時には3番ではなくなる。菊池を使うなら2番に入れたい。だから、そこは他の打者との兼ね合いで変わってくる。1人の選手によって2、3人の打順が変わってしまう」

――確かに、山田選手を3番に据えた結果、調子が上がらずに途中で外すとなれば、クリーンアップを変えることになるので、チームに大きな影響があります。

「他にクリーンアップを誰にするのかという問題になります。ただ、大谷が辞退したことで、逆にDHが使えるようになったので、菊池と山田を2人とも使えるという面も出てきました」

――日本代表で唯一のメジャーリーガーとなる青木選手の起用法もポイントになりそうです。

「青木に1番を任せられるのはいいですね。向こうが右ピッチャーで、左打者を多く使いたいなら、3番でもいい。ただ、これ(右投手に対して左打者を使うこと)も確率の問題なので。短期決戦だから、スタメンで右ピッチャーに対して右打者を使って、打てなかったから(途中から)左打者でいこう、では遅い。最初から確率の問題で(右投手に対しては)左打者となるだけだから」

「一番大事なのは初戦のキューバ戦」

――短期決戦では、相手投手の調子や相性次第では本当に打てないこともあります。2004年のアテネ五輪では準決勝でオーストラリアのピッチャーに完封リレーを許して、0-1で敗れました。

「あの試合は(当時阪神の)ウィリアムズと(後に阪神が獲得した)オクスプリングにやられた。初対戦だと、打つ方は『何(の球種)を投げてるんだ』というのがあるので、ベンチに戻ってきた選手に『何(の球種)やった? ストレートはどうだった?』と聞くのですが、打席に立ったら感覚がまた違います。今の日本のメンバーは、プロに入った時くらいからデータがものすごくある中でやってきている。先乗りスコアラーとかがしっかりしているので。普段の公式戦だったら、ミーテイングで『初球はランナーがいたらこういう形で入ってくる』とか、ある程度の読みが出来る。

 でも、自分が現役の時は自然体でやっていた。まだそんなにデータとかはなかったので。だから、初めて対戦するピッチャーだったら、1球目、2球目は打ちませんでした。ボールを見るために。ただ、今の若い選手は初球からどんどん振っていく。今回のWBCでは、対戦相手の国内リーグでの勝敗数とか、防御率とかのデータはあるし、映像もあるかもしれない。でも、実際に打席に立ってないから、難しさはあると思います」

――確かにメジャーリーグやマイナーリーグの選手もデータはあるかもしれませんが、対戦相手によっては映像がない選手もいるかもしれません。

「実際の対戦では、ピッチャーの球数制限もあるので、7、8番あたりの打者は1回しか当たらないかもしれない。上位打線は2回くらい当たる可能性はありますけど、下位打線の打者は1打席で終わり。次の打席では違うピッチャーが出てくる。また初めて当たるピッチャーになります」

――調子が上がらないバッターはいつまでも低調のままになってしまいそうです。

「『あ、こんな球投げるんだ』で終わってしまいますからね。次にそのピッチャーがいつ当たるか分かりませんし、そのあたりは本当に難しい」

――難しい状況の中で、2大会ぶりに優勝を目指します。

「一番大事なのは初戦のキューバ戦だと思います。初戦が違う相手であれば、みんなを打席に立たせて、大会に慣れればいいですが、キューバが相手となると、そういうゲームにはならないでしょう。最初のゲームで、どんなピッチャーが出てくるか分からない中、ハマってしまったら打てない。しかも、キューバあたりだと、すごい“隠し玉”がいるかもしれない。もし、いきなり160キロを投げるようなピッチャーが出てきたら、打てないと思います。そんな簡単なものではない。(対戦が)1打席や2打席で終わりだったら、慣れる間もない。

 しかも、2試合目のオーストラリアは初戦に中国に勝てば勢いがつくでしょう。オーストラリアが中国に負けるというのは、まず考えられない。もし日本がキューバに負けて、勢いがついたオーストラリアと対戦するとなると、厳しくなる。日本は絶対に負けられない。オーストラリアは中国に1つ勝って勢いがつく。これはかなりプレッシャーがきつくなります。だから、初戦のキューバ戦が本当に重要になる」

――世界一の可能性はあるでしょうか?

「可能性はある。それはどこにもあると思います。日本はメジャーリーガーの辞退や大谷の欠場もありましたけど、今いるメンバーでどういう風に戦っていって、ものにしていくかということしかない。ただ、1次ラウンドを抜けても、次はキューバ、オランダ、韓国あたりと戦うことになります。なかなか厳しい。反対側のグループも、アメリカ、ドミニカ共和国、ベネズエラは強い。他国のメンバーを見ても、今回はこれまでで一番厳しい戦いになるかもしれない」

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