指導者を指導する― 侍ジャパンU-15代表・鹿取監督が語る育成の取り組みとは

2017.1.2

日本の野球をよりクオリティの高いものにするために、侍ジャパンとして取り組む強化育成プランがある。それが2014年12月から始まった小中学生の指導者を対象とする侍ジャパン「野球指導者スキルアップ講習会」だ。侍ジャパンU-15代表監督であり、侍ジャパンのテクニカル・ディレクターを務める鹿取義隆氏に、指導者を育成することの大切さを語ってもらった。

写真提供=Full-Count

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指導者を指導することも育成の一環

 野球日本代表「侍ジャパン」のアンダー世代が大躍進した2016年。さらには、トップチームが11月にメキシコ代表とオランダ代表と対戦した強化試合では、2年前に侍ジャパンU-21代表だった田口麗斗(読売)と鈴木誠也(広島東洋)が侍ジャパン入りを果たした。11月にメキシコで行われた「第1回 WBSC U-23ワールドカップ」の出場メンバーの中にも、侍ジャパンU-15代表や同U-18代表を経て、再び侍ジャパンのユニフォームに袖を通した選手も多い。代表を経験し、意識を高く持つことの大切さを学んだ選手が、着実に成長している証とも言える。

 日本の野球をよりクオリティの高いものにするために、侍ジャパンとして取り組む強化育成プランがある。それが2014年12月から始まった小中学生の指導者を対象とする侍ジャパン「野球指導者スキルアップ講習会」だ。侍ジャパンU-15代表監督であり、侍ジャパンのテクニカル・ディレクターを務める鹿取義隆氏に、指導者を育成することの大切さを語ってもらった。

――日本の野球界をさらに発展させるために、子供たちの育成は大きな課題の1つだと思います。

「子供を直接指導することも大切ですが、侍ジャパンとして、2014年12月から小中学生の指導者の講習会をやっています。講習会を受講した指導者の教えた子供たちが代表に入れば、直接指導した子供たちが代表入りするのと同じだと思っています。講習を受けた100人の指導者が、それぞれ50人教えているとすれば、5000人の子供が同じ理念を持った指導を受けることができるというわけです」

――指導者を指導することも、育成活動の一環ということですね。

「そうですね。指導者がレベルアップ、スキルアップして、子供たちに正しい知識と情報を与えられれば、子供たちを直接指導するのと同じことだと思うんです。

 指導者によっては、自分の経験やクセが入ってきたり、情報がアップデートされていない場合がある。『昔はこうだった』というやり方を続けている人もいる。もちろん、昔のいいところもたくさんありますが、ダメなこともたくさんある。そういった指導者が持つべき情報やスキルを一本化すると、指導も効率よくなり、子供たちの技術の向上率がアップしたり、怪我をしづらい身体作りにつながったりするんじゃないかと考えています」

「15人の選手が2人ずつに教えれば30人に伝わる」

――大人本意の指導ではなく、子供たちが怪我をせずにプレーできるような基本的な指導方法を統一させていこう、という流れですね。

「教える側の指導者に、本当の基本中の基本を知ってもらうということです。講習会では、指導者に実際に動いてもらって、我々が伝えたい技術を体感してもらっています。投げ方であれば『怪我をしないためには、こうした方がいい』『こういう風に投げると、こういうリスクが生まれますよ』ということを伝える。次に『こうやってみて下さい。さっきとは違うでしょ』と実演してもらうと、違いがわかる。教えられたことを体験して理解した方が、子供たちの指導により生きてきます。

 もちろん、出てきた質問には、その都度、我々講師が答えていきながら、疑問点をなくしていく。野球の基本を確認する作業ですね。講師として参加するのは、これまで日本代表のユニフォームを着たことがある人物。投手は私が担当したり、捕手は矢野(燿大)くんや里崎(智也)くん、内野は仁志(敏久)監督、外野は稲葉(篤紀)コーチや弘田(澄男)さんといった面々で、侍ジャパンとして、ある程度こういう流れでやっていきましょうというガイドラインを作って、それに基づいた形で指導しています」

――ガイドラインを作られているんですか。

「子供たちが誤った指導を受け、怪我をして辞めていくということだけは避けたい。楽しく野球を続けてもらうためには、指導者たちがクレバーな動きをするべきだと思うんです。その取っかかりとして、怪我をしない技術指導の基準になるようなものを制作しています。投手だったら、もちろん右投げの人の意見も、左投げの人の意見も聞き、打者でも左右両打者の意見を聞く。捕手、内野、外野、それぞれ守備の意見を一冊の本にまとめると、ものすごく厚くなってしまいそうで(笑)。これは読むのも大変だから、教本を作るとしたら大事なところだけを手軽な薄さにまとめたいんですけどね」

――技術だけではなく、怪我防止、食事や栄養といった知識も伝えていると聞きました。

「トレーニングや食事、栄養といった知識は、なかなか技術指導ほど浸透していません。U-15代表でもU-12代表でも、食事や栄養、トレーニングの指導をするんだけど、代表入りした子供たちが自分のチームに戻っても、そこで学んだことを続けてくれることを願っています。それで身体が大きくなったり、技術が上がれば、周りの子供たちが『どうしたの? どんなことをしてるの?』って聞いてくるから。そうしたら『実は侍でこんなことを学んだんだよ』と教えてくれればいい。実際にやって結果を出している人が伝えることだから、広がるのは早いと思うんですよ。15人の選手が2人ずつに教えれば30人に伝わる。その輪がどんどん広がっていけば、身体に対する意識は高まっていきますよね」

――育成の結果はすぐ目に見える形で現れるわけではないので、地道に続けていくことが大切ですね。

「まだ始まったばかりの活動だから、引き継いでいきたいですね。第1回講習会が2014年12月だったので足掛け3年。3年じゃ、まだ変わりません。ただ、これまで教えた指導者の選手たちが、この先に代表入りしたり、プロ入りする可能性はある。それが楽しみですね」

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