侍ジャパンの正捕手争いに注目 専門家が分析「国際試合で最優先は守り」

2016.9.19

日本が世界の舞台で勝つために、誰が正捕手にふさわしいのか。キャッチャーの3枠をどのように使うべきなのか。そして、国際大会では捕手に何が求められるのか。専門家が見る、現在の日本の「捕手事情」とは…。

写真提供=Getty Images

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捕手選びは「一番難しい」、日本のキャッチャーに求められるものとは

 野球日本代表「侍ジャパン」の正捕手争いが混沌としてきた。今年のペナントレースではレギュラーを固定できないチームが多く、過去に日本代表に選出された経験を持つ選手も負傷や不振で試合に出場できない時期があった。投手陣、そしてチーム全体をリードする重要なポジションだけに、小久保裕紀監督の人選には注目が集まるところだ。

 日本が世界の舞台で勝つために、誰が正捕手にふさわしいのか。キャッチャーの3枠をどのように使うべきなのか。そして、国際大会では捕手に何が求められるのか。

 現役時代に捕手として活躍した野球解説者の野口寿浩氏は「キャッチャーというポジションは特殊」とした上で、日本代表メンバーの選出は他のポジションと比較しても「一番難しい部分」と指摘する。専門家が見る、現在の日本の「捕手事情」とは…。

――昨年11月の「世界野球WBSCプレミア12」では嶋基宏選手(東北楽天)、炭谷銀仁朗選手(埼玉西武)、中村悠平選手(東京ヤクルト)の3選手が捕手のポジションで選出されました。しかし、今季は負傷や若手の台頭、打撃不振など様々な理由で、3選手がシーズンを通してフル稼働という状況にはなっていません。

「去年、大きく成長した中村が8月に入ってから全然出られなくなってしまいましたからね。『守りを重視して』という考えをするなら、1番手は炭谷でしょう。ただ、攻撃面なども全て含めて考えると難しくなってきます。出場試合数で言えば小林誠司(読売)、田村龍弘(千葉ロッテ)あたりも候補になってきます。攻撃面も考えると、ルーキーの戸柱恭孝(横浜DeNA)もどうかな、という感じになってきますね」

――本当に混沌とした状況です。「世界野球WBSCプレミア12」のメンバー3人も、まずは日本代表に選ばれるかどうかというくらい厳しい争いになりそうです。

「嶋は去年のプレミアでもキャプテンやっていましたし、メンバーには入ってくるでしょう。あとはキャッチャーで3枠を使うとなったら、炭谷は当確としても、もう1人は誰になるかというところです。例えば、将来を見据えて若手枠にするという手もありかなと。小林、田村、戸柱の3人のうちの誰か1人が入ると面白いかな思います。もしくは、現実的に考えて、ピッチャー陣が頼りがいのあるベテラン選手を最後の1枠に、という考えもあると思います。リーグ優勝した広島東洋の石原慶幸という手もありだと思います。あとは細川亨(福岡ソフトバンク)とか。

 若手枠を使うのかベテラン枠を使うのか。ベテランならば、兼任コーチ的な立場になります。矢野(燿大)さんが今年から阪神のバッテリーコーチに就任されたので、今、侍ジャパンのコーチ陣にはキャッチャー出身者がいません。権藤(博)さん、斎藤(隆)さんと投手コーチが2人いらっしゃいます。なので、兼任コーチ的なプレーヤーがキャッチャーで1人いるといいかなと思うので、そういう役割を石原、細川あたりができるといいかもしれませんね」

ベテラン枠の適任は石原と細川? 「チームが困ったときに出ていける」

――仮にベテラン枠として最後の1人を選出するとなると、リード面やキャッチングの技術から石原選手と細川選手の2人が適任だと考えられますか?

「その2人なら、チームが困ったときに出ていけるかなという感じはしますよね。2006年には、(前中日監督の)谷繁(元信)さんがその役割をやられていました。その時は、投手陣がすごく安心感をもってやっていましたよね。キャッチャーというポジションは特殊なので、そういう枠は必要だと思うんです」

――若手では、小林誠司選手は今季すごく安定していますね。

「先日、テレビ中継の解説で巨人戦を見てきたのですが、小林は相手バッターの仕草をよく見ていました。それが出来るようになってきました。バッターを見て、どう考えていけるかというところが出てきたのではないかなと。前は『どうしよう、どうしよう』と、どちらかというと下を見ていることが多かったのですが、今年は打者を見て考えるようになった。それはすごい進歩ですね」

――戸柱選手もルーキーながらほぼレギュラーとして試合に出続けています。

「戸柱はここにきて少しリードに偏りを見せるようになってきてしまっていますね。それがいい方向にいけばいいのですが、あまりいい方向にいっていない。やられ始めたら止まらない状態ですね。例えばある試合では、『インコース中心で行く』とピッチャーとの話の中で決まったのかもしれませんが『それにしてもちょっとインコースに行き過ぎだろう』というくらい偏ってしまっていました。でも、その後の試合ではうまく散りばめてやっていましたから、そうやってどんどん勉強していけばいいと思います。それでダメだというのではなくて、そういうことも自分の血となり肉となり、となっていけばいいですね」

――田村選手はバッティングの成績が向上しています。

「千葉ロッテの伊東(勤)監督は『田村はいい勉強をしている。机の上で考えていることと、実際に起こっていることはだいぶ違うんだと分かり始めた。田村は何か言ったら食ってかかってくることが出来る。なんでダメなんですか、と聞いてこらえれる』と話されていました。それはすごく大事な部分です。すごく成長が見えますね」

各球団で「捕手に『ある程度は打て』と指導していく必要がある」

――今年の12球団の捕手事情を見てみると、現実的には、侍ジャパンもキャッチャーの完全なレギュラーがいて試合を戦っていく、ということは考えにくいかもしれません。

「確かに厳しいですね。だから、試合によって代えていかないといけない気がします。それは炭谷と嶋の2人になると思いますが、2人が代わる代わる出るとなると、故障のリスクが出てくるので、もう1枠が若手だと不安かなという気がします。今季、小林誠、戸柱、田村はものすごく頑張っています。彼らに対する今年1年の評価はすごく高いのですが、チーム全体を考えた時に、3番目の枠をどうするかということなので…」

――捕手のレギュラーを固定できているチームが少ないので、12人を超える候補者がいます。侍ジャパンの選手選考の中で、最も難しいポジションかもしれません。

「確かにキャッチャーは一番難しい部分ですよね。残りシーズンも短くなってきました。レギュラーシーズンも少ないし、クライマックスシリーズには半分のチームしか出られないので、その中から選ばないといけないとなると、小久保(裕紀)監督にとっては本当に難しいと思います」

――シーズン終盤の印象も大切になってくるかもしれません。

「仮に、もしヤクルトが逆転でクライマックスシリーズに進出して、そこで中村が復活したら『やっぱり中村だ』ということになるかもしれないですね。ただ、国際大会で第一優先は守り。MLBでプレーする投手を選出できるかは分からないので、まず投手陣の数は少ないですよね。そうなってくると、絶対にしっかり守れるキャッチャーが必要です」

――一方で、野口さんが中心と考える嶋選手、炭谷選手を含めて、どのキャッチャーもバッティングに向上の余地があるという点は同じです。

「どのキャッチャーを先発に起用しても、競った試合で終盤にピンチヒッターを使わなくてはいけなくなりそうですね。言っていることが矛盾するようですが、12球団のどのチームのバッテリーコーチも、捕手に『ある程度は打て』と指導していく必要があるのではないでしょうか。ただ、それは守備も考えてのことです。例えば、現在のNPBだと正捕手候補ナンバーワンのキャッチャーでも、途中で(代打を送られて)代えられてしまうことが多い。そうなってくると、後半のしびれた展開の中で守れなくなるから、成長ができません。今後の日本球界のことを考えると、それも大切なことだと思います」

【了】

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