U-12代表・井端監督が伝えたい「急がない」指導 「促し、導くだけでいい」

2022.2.28

今年1月に野球日本代表「侍ジャパン」U-12代表監督に就任した井端弘和氏。現役時代は中日、読売で名遊撃手として活躍し、2015年に引退した後は読売や侍ジャパンのトップチームで指導者としてのキャリアを重ねた。

写真提供=Full-Count

写真提供=Full-Count

様々な指導法の中で守っていきたい「これは絶対にやってはいけない」ライン

 今年1月に野球日本代表「侍ジャパン」U-12代表監督に就任した井端弘和氏。現役時代は中日、読売で名遊撃手として活躍し、2015年に引退した後は読売や侍ジャパンのトップチームで指導者としてのキャリアを重ねた。

 井端監督は日本野球界の現状を自分の目で確かめるために、小学生からプロ野球まで全世代の指導者を経験してみたいという。以前から野球教室などで全国各地を訪れた時には、それぞれのチームでどういう指導をしているのか、興味深く見てきた。そこで感じたのが「野球への入口とも言える小学生年代で、指導者によって教え方がこうもバラバラなのか」ということだった。

「教え方がチームによって違いますし、時にはAチームとBチームでは真逆のことを言っていると感じることもあります。でも、プロ野球では球団によってスキルや考え方の根本が大きく変わることはないし、社会人や大学生もほぼありません。どうして小学生は大きく違うのか。果たしてバラバラなことはいいことなのか、悪いことなのか。それも含めて、もう少し現状を勉強していきたいと思います」

 色々な指導法がある中でも、共通認識として持っておきたいのが「これは絶対にやってはいけない」というラインだ。スキルアップやトレーニングに関する情報が溢れる今は、誰もが簡単に野球を学べる環境にある。だが、技術論や体のメカニズムを理解せず、見たままを真似するだけでは大きな怪我に繋がりかねない。

 例えば、プロ野球選手は通常より少し重いバットを使った練習をすることもあるが、小学生が重いバットを振り続けたら手首や腰を痛めかねない。井端監督は「これは絶対にやってはいけないというラインがある。指導者がそれを分かっているかいないか。そこを間違えないようにすることが大切だと思います」と話す。未来ある子どもたちに正しい情報を提供するためにも、指導者は学びを止めてはいけない。

小学生で焦らず進めたい基礎作り「6年生で完成する必要はまったくない」

 小学生の指導者にアドバイスを求められた時、井端監督は「急がずにいきましょう」と伝えるという。それというのも、小学生のうちから才能を開花させる必要はないからだ。

「6年生で選手として完成する必要はまったくない。高校くらいで完成形に近づけばプロへの道が見えてきますが、そこでも完成している必要はありません。小学生は可能性が無限大に広がる年代。焦らず急がず、基礎をしっかりと積み上げることが大切です」

 例えば、守備でゴロを捕る練習であれば、まずは動かずに転がってきたボールをグラブで捕る。上手く捕れるようになったら、1歩前進してボールを捕る。上手く捕れるようになったら2歩前進……。「小学生にプロのような守備を求めても無理な話。普通のゴロが捕れないのに、試合では『前に出て捕るように』『捕ったらすぐに送球』という指示を出してもできるわけがない。段階を踏みながら急がず練習した方が早く上達するでしょう」と説明する。

 基礎が固まらないままに成長を急がせると、結局は高校、大学、プロと進んだ時に歪みが生じ、大幅修正をしなければならなくなる。だからこそ、特に「守備と走塁は、小学生で基本に忠実な練習をしておいた方がいい」と話す。

「プロに行っても守備や走塁の基本は変わらないので、体が柔軟で可動域が広い小中学生のうちにしっかり学んでおけば覚えも早いし、大人になってからズレが生じることも少ない。大人になってから守備を修正しようとしても、なかなか体が言うことを聞きません。小学生は練習すればすぐに上手くなるし、一度覚えた動きは簡単には忘れませんから」

大人は意見を押しつけず、子どもが自ら決める環境を整えて

 ただし、こういった練習も「無理矢理怒鳴りつけてやらせても意味はありませんよ。子どもたちが自分から練習したくなるように促し、導くだけでいいと思います」と続ける。

「練習メニューを当日ではなく、前日に伝えるだけでも子どもは『前回これができたから、明日はあれができるといいな』と考える。『今日はここが上手くできなかったから、明日はこうやってみよう』と寝る前に思うだけでも、次の日の練習はまったく違った意味を持ちますし、その積み重ねが成長なんだと思います」

 中学や高校に進学する時、子どもたちは様々な選択の場面に立たされる。こうした時も指導者や保護者ら大人は意見を押しつけるのではなく、子どもが自ら決める環境を整えてあげてほしいともいう。

「中学生になって野球をやるかやらないかの選択は自分でしてほしいと思います。野球を選択してもらうために、大人たちは楽しさを伝えていかなければならない。もし違うことがやりたいのであれば、それでいいと思うんです。自分の意志で野球を続けることを選んだら、簡単には辞めずに覚悟を持って3年間やり通すでしょう。僕は中学、高校、大学と上がるたびに壁にぶち当たり『この道を選んだのは失敗だったな』と思いました。でも、自分で選んだ道なので辞めずに踏みとどまった結果、今になって振り返ると『選んでよかった、正解だった』と思えている。誰かに勧められた道を選んでいたら、失敗のまま終わっていたかもしれません」

 U-12代表監督に就任し、これまで以上に小学生の指導者と接する機会が増えるであろう井端監督。無限大の可能性を秘めた子どもたちが未来に大きく羽ばたけるよう、そして野球が愛されるスポーツであり続けるよう、互いに学びを深め合いながら、子どもの成長を促す環境を整えていきたい。

記事提供=Full-Count
写真提供=Full-Count

NEWS新着記事