「成長するためのきっかけに」 U-12代表・井端弘和監督が思い描くチームの形

2022.2.21

野球日本代表「侍ジャパン」は2013年からトップチームに続き、社会人、U-23、大学、U-18、U-15、U-12、女子という全8カテゴリーを常設し、同じデザインのユニホームを着て、世界を相手に戦っている。2020年以来、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により国際大会は軒並み延期・中止。なかなか活動の機会を持つことができなかったが、主な国際大会を統括する世界野球ソフトボール連盟(WBSC)は2022年、各カテゴリーでの大会開催を目指し、準備を進めている。

写真提供=Full-Count

写真提供=Full-Count

仁志敏久前監督の後を受け、今年1月に就任「タイミングが合って、希望が叶った」

 野球日本代表「侍ジャパン」は2013年からトップチームに続き、社会人、U-23、大学、U-18、U-15、U-12、女子という全8カテゴリーを常設し、同じデザインのユニホームを着て、世界を相手に戦っている。2020年以来、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により国際大会は軒並み延期・中止。なかなか活動の機会を持つことができなかったが、主な国際大会を統括する世界野球ソフトボール連盟(WBSC)は2022年、各カテゴリーでの大会開催を目指し、準備を進めている。

 7月29日から台湾・台南市での開催を予定されているのが「第6回 WBSC U-12野球ワールドカップ」だ。侍ジャパンでは、2014年から長らく仁志敏久氏がU-12代表監督を務めていたが、2021年に横浜DeNAの2軍監督に就任して退任。今年1月、新監督となったのが元中日・読売の井端弘和氏だ。

 井端監督は現役時代には名遊撃手として鳴らし、ゴールデングラブ賞を7度受賞。2013年には日本代表として「第3回ワールド・ベースボール・クラシック™」に出場した経験を持つ。2015年限りで現役を退くと、翌年には読売の1軍内野守備走塁コーチに就任。2017年には稲葉篤紀前監督の下、侍ジャパントップチームで内野守備・走塁コーチを務め、昨夏の金メダル獲得に向けて重要な役割を果たした。

 様々な経験を持つ井端監督が、なぜU-12代表を率いることになったのか。「タイミングが合って、希望が叶った形です」と、その理由を語る。

「ずっとプロ野球で選手としてやってきて、(読売)ジャイアンツと侍ジャパンのトップチームでもコーチをやらせていただいた。次のステップを考えた時、指導者として各世代を経験することで自分の野球観が広がるのではないかと思うようになりました。侍ジャパンの強化本部編成戦略担当をしていることもあり、普段から小中学生の指導に興味があるという話をしていたところ、仁志さんが退任なさることになり、声を掛けていただきました」

 2020年には社会人のNTT東日本で臨時コーチを務め、現在は学生野球資格回復認定を受けて高校生を指導できる立場にもあるが、「原点に立ち返って、小学生野球の現状を知りたい」と希望。野球教室で各地を訪問したり、繋がりのあるチームで臨時指導をしたりしながら、小学生を巡る野球環境について理解を深めている。

代表メンバーに伝えたい、チームプレーヤーである大切さ

 これまでU-12代表は全国で希望者を募り、セレクションを経てメンバーを決定してきた。今夏も選考方法の大筋は変わらない見通しで、様々な個性を持った子どもたちからの応募が見込まれる。「楽しみですね」という井端監督が目指すのは「チームとして機能する編成」だ。

「小学生ではあっても国際大会なので、チームとして戦わないとなかなか勝てないでしょう。代表は能力の高い選手ばかりを選ぶイメージがあるかもしれません。でも、長打を打つ選手や球が速い選手ばかりではなく、足の速い選手や守備が上手い選手などバランスよく選びたいと思います。小学生なのでポテンシャルの高い選手は何でも得意かもしれませんが、その中でも適性を見極めていきたいですね」

 全国の小学生の中から選ばれる代表メンバーには、単に成績だけを気にするのではなく、ワンランク上の意識を持つように伝えたいと考えている。代表に選ばれるのであれば野球が上手いのは当たり前。他の選手と差がつくのは成績や技術ではない点にあるという。

「プロのスカウトがグラウンドで視察する時、一番よく見ているのは成績やスキルではなく、チームワークや協調性、道具の扱い方、注意を受けた時の反応などといった立ち居振る舞いの部分。自分が一番だと思ってわがままに振る舞う選手の評価は低くなります。仲間を思いやることができるチームプレーヤーであることが大切だと伝えていきたいですね」

U-12代表への選出はゴールではなく、成長するためのきっかけに

 また、U-12代表に選ばれたことで満足せず、大きな目標を達成するまでの過程として捉えるようにも導いていきたいと話す。セレクションを経て集まったメンバーの中には、自分より上手な選手に初めて出会い、戸惑いを覚える子どももいるかもしれない。だが、これから中学・高校とステージアップする時の予行練習だと捉え、前向きに乗り越えてほしいと願う。

「自分の置かれる世界が広がると、今までない経験に戸惑うこともあるでしょう。例えば、小学生の時はライバルが同級生だったけれど、中学生になれば1歳上、2歳上の先輩とも勝負をすることになるし、プロになれば10歳上の選手とも争わなければならない。ステージが上がるたびに越えなければならない壁が現れ、挫折を味わうこともある。ただ、そこで現実を受け入れ、上手くなるにはどうしたらいいか自分で考えること。そこに成長のチャンスは隠されていると思います。U-12代表に選ばれたことに自信を持ちながらも、そこがゴールではなく成長するためのきっかけだと思って、色々なことを経験し、吸収してもらいたいですね」

 侍ジャパンがU-12、U-15といったアンダー世代にも代表チームを常設した背景には、感受性が豊かな子どもの頃に国際大会を経験し、後のキャリアに生かしてほしいという願いがある。その想いは少しずつ結果として表れてきた。2020年の新人選手選択会議(ドラフト会議)で東京ヤクルトから6位指名を受けた右腕・嘉手苅浩太投手は、2014年にU-12代表の一員として「第8回 BFA 12Uアジア選手権」に出場。U-12代表が常設されて以降、初のNPB入りとなった。

 井端監督もまた、これからU-12代表に名を連ねる子どもたちが、その経験を糧として将来大きく羽ばたくことを願っている。

「高校からプロに入るのか、大学からプロに入るのか。そこまでの過程は色々あると思いますが、各カテゴリーで代表チームはありますから、全カテゴリーで代表入りしてほしいですね。そして、トップチームに入ったら、それはプロで成功したという証。そういう選手が出てきたら面白いですね」

 井端監督の下でU-12代表として戦ったメンバーが10年後、今度はトップチームの一員として躍動する。そんな日が実現するのも夢物語ではないのかもしれない。

記事提供=Full-Count
写真提供=Full-Count

NEWS新着記事