勝負のカギを握る「1走の重み」 鈴木尚広氏が日本通運野球部で「走塁改革」

2021.10.11

都市対抗野球や社会人野球日本選手権の常連として知られる日本通運野球部。1994年以来、2大大会のタイトルから遠ざかっている社会人野球の名門が今シーズン打ち出したのは「走塁改革」。読売で“走塁のスペシャリスト”として活躍した鈴木尚広氏を臨時コーチに招いたところに、その本気度が表れている。

写真提供=Full-Count

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社会人野球の名門に託された使命 今年8月に臨時コーチ就任

 都市対抗野球や社会人野球日本選手権の常連として知られる日本通運野球部。1994年以来、2大大会のタイトルから遠ざかっている社会人野球の名門が今シーズン打ち出したのは「走塁改革」。読売で“走塁のスペシャリスト”として活躍した鈴木尚広氏を臨時コーチに招いたところに、その本気度が表れている。

 頂点を目指す決意と、危機感の表れといえる。日本通運は今季、「走塁改革」に乗り出した。

 OBにはメジャーでも活躍した大塚晶文氏や、北海道日本ハムでセーブ王にも輝いた武田久氏、現役では東北楽天・牧田和久投手ら数々のプロ野球選手がいる。都市対抗野球(以下、都市対抗)には45回、社会人野球日本選手権(以下、日本選手権)には21回出場。ただ、都市対抗は1964年に初優勝してから2度目の頂点が遠のき、日本選手権も1994年から優勝していない。特に、ここ数年は延長戦や1点差で競り負ける試合が続いている。

NPB通算228盗塁の韋駄天が挑む「走塁改革」

 社会人野球は負けたら終わりのトーナメント。1点の重みが増す。そこでチームが掲げたのが「走塁改革」。その思いを託されたのが鈴木氏だった。

“足のスペシャリスト”として通算228盗塁。主に試合終盤の1点を争う場面で代走に起用され、盗塁成功率82.9パーセントという驚異的な成績を残した。引退後は読売で1軍外野守備走塁コーチを務めたほか、学生野球資格を回復して高校生や大学生も指導。実績に裏打ちされた理論と、分かりやすい説明で選手たちの走塁技術や意識を変えてきた。

「社会人野球は、自分がやってきた世界とは違って短期決戦。紙一重で勝敗が決まるプレッシャーや、せめぎ合いは想像を超えるものがあると思います。選手やチームの引き出し、攻撃のバリエーションを増やせたらと考えています」

大切なのは「意識改革」 選手に伝えたい準備の重要性

 8月に日本通運の臨時コーチに就いて以来、月5日ほど練習に参加している。指導において、技術以上に重点を置いているのが「走塁に対する意識付け」だ。

「自分がどんな役割をすれば相手にプレッシャーがかかり、チームの得点力が上がるのかを考えてほしいと伝えました。自分が今できることの最大化を目指してやってほしい。それ以上をやる必要はないんです」

 技術は考え方や準備、予測が伴わないと身に付かない。「走塁改革」で大切なのは「意識改革」。足が速いか遅いかは問題ではなく、個々の選手がチームのために塁上で何をすべきなのか考え、準備するよう説いた。

 準備では試合で起こり得る状況を予測し、勝つために最も確率が高い方法を想定しておく。その準備が自分の引き出しを増やし、判断能力や先を読む力、技術の向上につながっていく。鈴木氏は「考えるのは試合が始まるまで。試合に入ったら感覚で動けるようにすると、ベストパフォーマンスを出せると思います」と語る。

日本通運の強さと可能性を最大限に発揮するために必要なもの

 日本通運の強さも可能性も感じている。チーム力は高く、試合後に選手同士で改善点を共有するなど考える力もあるという。その上で、「波に乗った時は非常にいい攻撃をしますが、流れが止まった時に間延びする印象を受けます。もう少しガツガツした執着心が出てくると、1点を争う試合をものにできるのではないかと思います」と分析する。得点する手段は本塁打や安打だけではない。鈴木氏がプロの世界で証明したように、走塁は接戦に競り勝つ武器になる。

「意識は簡単に変えられるものではありません。1人1人が地道に意識改革を進めて、ある一定のレベルに達した時に大きな爆発力を生みます。臨時コーチなので常駐しているわけではありませんが、選手の意識レベルが上がるように根気強く伝えていくつもりです」

 日本通運の今年のスローガンは「TO THE TOP~1への執念~」。頂点への強い決意がみなぎる。「1点の重み、1球の重み、1走の重みをチームで大事にしていきたいですね」と鈴木氏。頂点を目指す上で鍵になる「走塁改革」。足のスペシャリストの手腕に期待がかかる。

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