他競技の選手から衝撃受けた“一流の準備” 元中日内野手の意識を変えたアジア大会

2021.2.15

他競技の選手との交流は、新鮮というより衝撃だった。2014年に韓国・仁川で開催された「第17回 アジア競技大会」。侍ジャパン社会人代表の一員だった石川駿氏にとって、野球人生初の日の丸。国際大会でしか味わえない経験とともに、グラウンド外での学びも多い日々だった。

写真提供=Full-Count

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もともと尻込みしていた日の丸「選ばれし者が背負うもの」

 他競技の選手との交流は、新鮮というより衝撃だった。2014年に韓国・仁川で開催された「第17回 アジア競技大会」。侍ジャパン社会人代表の一員だった石川駿氏にとって、野球人生初の日の丸。国際大会でしか味わえない経験とともに、グラウンド外での学びも多い日々だった。

 もともと“国を代表する”重責には、尻込みしていた。明治大学から社会人のJX-ENEOS(現ENEOS)に入社して2年目。アジア大会の代表候補に入り、選考合宿が進んでも、その思いは抱えていた。

「自分の中で日の丸というのは、選ばれし者が背負うもの、だと。決して思い出作りじゃないし、そもそも引け目を感じている自分が入る場所でもないなと……」

他競技のトップ選手から受けた刺激「これが世界を舞台に戦っている人たちの意識」

 そんな思いとは裏腹に代表入り。しのぎを削る他の社会人選手たちとチームメートとなり、隣国へ飛んだ。宿舎や食堂では、他競技の選手たちの姿も。競泳の瀬戸大也選手やバドミントンの桃田賢斗選手、卓球の福原愛選手ら、世界でもトップを争う選手たちと同じ空間にいることもあった。

 日本の“お家芸”である柔道やレスリングの選手たちは、栄養管理された日本食を口にし、疲労回復を促す炭酸風呂を利用するなど試合への準備に余念がなかった。翻って自分たちはどうか――。その日の気分次第で外食しているだけだった。

「文字通りアマチュアというか、劣っているんだなと痛感しました。これが世界を舞台に戦っている人たちの意識なんだなと。凄いなというレベルを超えて、カルチャーショックでした」

16打数6安打、1本塁打、5打点、打率.375も「力のなさを痛感」

 一流の意識を持ってこそ、日の丸を背負えるのだとも思った。「自分の中で“当たり前”のレベルがグッと上がりました」。その年のドラフト会議で中日から4位指名を受けて入団。「おかげで、プロに入ってからの第一歩が違いました」。相次ぐ故障でレギュラーに定着することはできなかったが、プロの世界に気後れせずやれたのは、侍ジャパンでの経験があったからだと確信する。

 アジア競技大会では全5試合にスタメン出場。チームは準決勝でチャイニーズ・タイペイに敗れ、中国との3位決定戦に勝利した。個人としては、16打数6安打、1本塁打、5打点、打率.375をマーク。「数字だけ見たらそこそこやったんじゃないかと言われます。ただ、勝負の場面で打てなかった打席もありましたし、力のなさを痛感しました」と自己採点は辛い。

代打を送られ、初めて抱いた感情「心から、そういう気持ちになった」

 結果よりも、野球をやってきて初めての感情を抱いたことが収穫だった。試合で代打を送られた時のこと。「心から、僕の代わりに立つバッターを応援しようという気持ちになったんです」。上手くなるため、ライバルに勝つため、プロにいくために臨んできた試合の数々。それまでは代打なんて悔しさしかなかったが、芽生えたチーム意識こそ、侍ジャパンの真髄だった。

 2020年限りでユニホームを脱いだ今、7年前の秋を懐かしんで言う。

「めちゃくちゃいい経験をさせてもらいました」

 最初で最後の日本代表。刺激的な思い出を胸に留め、第2の人生へと歩みを進めていく。

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