「時代を動かすような存在が…」 藤川球児氏が期待する侍ジャパンが果たす役割

2021.2.1

昨季を限りに22年の現役生活に幕を下ろした藤川球児氏。日米通算245セーブという大記録を残したピッチャーは、2006年と2009年には日本代表メンバーとして「ワールド・ベースボール・クラシック™」の連覇を経験した。

写真提供=Full-Count

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第1、2回WBC優勝戦士の藤川氏が語る「侍ジャパン」の在り方

 昨季を限りに22年の現役生活に幕を下ろした藤川球児氏。日米通算245セーブという大記録を残したピッチャーは、2006年と2009年には日本代表メンバーとして「ワールド・ベースボール・クラシック™」(以下WBC)の連覇を経験した。

 野球日本代表「侍ジャパン」は2012年から常設化。以来、トップチームからU-12代表、女子代表まで8つのカテゴリーを持つ、系統立った組織としての地位を確立し、日本における野球振興の中心的役割を担う。今では子どもの頃から侍ジャパンに憧れ、縦縞のユニホームを目指すプロ選手も多いが、彼らを魅了したのが藤川氏ら第1回、第2回WBC優勝戦士の面々だった。

 自身に憧れた子どもたちがプロとなり、今度は侍ジャパンのメンバーとして戦っていく。感慨深いものがあるかと思いきや、藤川氏は「もちろん嬉しいことだけど、みんな、そういう感情はないんじゃないんですかね」と話す。

「当時は、今のような侍ジャパンというコンセプトはなかったので、純粋に勝つことだけを考えて戦っていた。戦う上で、あまり野球振興ということは考えていませんでしたよね。その中で第1回大会に優勝し、第2回で連覇を果たし、侍ジャパンというものが確立された。この価値を高めたのは、自分たちだという自負はあります。ただ、僕たちが代表だった当時と、今の侍ジャパンとでは少し存在意義は違ってきますよね」

各カテゴリーの代表を「侍ジャパン」で統一 「同じルートを歩めている」

 以前もアンダー世代からトップまで日本代表チームは存在したが、現在のように「侍ジャパン」という統一したコンセプトは存在しなかった。子どもたちの野球離れが進む中、侍ジャパンが目指すのは競技力向上と同時に、野球の振興と普及だ。大会で優勝することだけが求められるのではなく、野球という文化を絶やさず、次世代にも繋いでいく役割も期待されている。

 その一環として、毎年オフにトップチームが参加する国際試合を日本で開催したり、侍ジャパンは全カテゴリーで同じデザインのユニホームを着用したりするなど、子どもたちの興味を掻き立てる努力を惜しまない。こうした取り組みは、野球振興という点で大きな意味があると藤川氏は言う。

「今は少年野球も高校野球も、日本代表を『侍ジャパン』と呼んでいる。これはNPBや高校野球連盟も含めて、野球振興という点に関して野球界全体で考え、同じルートを歩めているということだと思います。トップチームと同じユニホームが着られるのは、子どもたちにとっての憧れになりますよね」

 実際、各カテゴリーで侍ジャパン入りした選手たちが、その経験を生かしてプロの門を叩いている。今年のルーキーを見てみると、東京ヤクルトのドラフト6位ルーキー、嘉手苅浩太投手(日本航空石川高)はU-12代表を経験。千葉ロッテのドラフト1位・鈴木昭汰投手(法政大)、北海道日本ハムのドラフト2位・五十幡亮汰外野手(中央大)らはU-15代表として戦った。アンダー世代からトップリーグまで、侍ジャパンとして貴重な人材を育成していく意味について、藤川氏はこう話す。

「僕らはWBCで自分がそれまで出会ったことのない新たなハードル、チャレンジを知ることができた。それと同じように、若いうちから世界のトップと戦って、いろいろな経験を積むことは大事でしょうね。今ある環境のもう1つ、いや、2つ3つと上のレベルを経験することで、高校、大学、その上と進んだ時にハードルを高く感じずに済むし、世界は広がるはずです」

トップチームの選手に期待することとは… 「次世代を育てる意味でも…」

 侍ジャパンが野球振興という目的を持つ以上、トップチームに選ばれる選手には勝つことはもちろんだが、子どもたちに憧れられる存在であることも常に意識してほしいと願う。

「今、トップチームで戦う選手たちが第1回WBC優勝に憧れた世代だったら、今度は彼らが憧れられる存在であるべき。侍ジャパンという組織として、アンダー世代までカテゴリーがある以上、トップチームはそういう姿を見せていく義務があると思います。

 野球がするスポーツから見るスポーツに変わってきてしまっている中で、今の選手たちには次世代を育てる意味でも、夢のあるプレーヤーになっていってほしいですね。二刀流で人気の大谷翔平選手を超えるような、子どもたちが野球を始めるきっかけとなる、時代を動かすような存在が現れることが待ち遠しいですよ」

 日本が誇る野球という文化を次世代に継承し、発展させていくためにも、日本球史に残る屈指のクローザーが侍ジャパンにかける期待は大きい。

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