千葉ロッテ・美馬が「差」を思い知ったアジア競技大会 「相当頑張らないと」

2021.1.12

2010年、中国・広州で開催された第16回アジア競技大会。当時、東京ガスでプレーしていた美馬学投手(現・千葉ロッテ)はこの時、野球人生で唯一の日本代表入りを果たし、銅メダルを手に入れた。中央大学時代に大学代表候補の合宿に参加したことはあったが、怪我をして離脱。「それ以外は縁がなかったですね」と振り返る。

写真提供=Full-Count

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ドラフト指名直後に初の代表入り、憧れのユニホームに袖を通すも感じた現実

 2010年、中国・広州で開催された第16回アジア競技大会。当時、東京ガスでプレーしていた美馬学投手(現・千葉ロッテ)はこの時、野球人生で唯一の日本代表入りを果たし、銅メダルを手に入れた。中央大学時代に大学代表候補の合宿に参加したことはあったが、怪我をして離脱。「それ以外は縁がなかったですね」と振り返る。

 大学卒業後は東京ガスに入社。同い年で同期入社の榎田大樹投手(現・埼玉西武)は先発、美馬投手は主にクローザーとして投手陣を盛り上げ、2009年から2年連続でチームを都市対抗野球本戦出場へ導いた。小柄ながら躍動感あふれるフォームで時速150キロに達する速球を繰り出す右腕をプロが見逃すはずもない。2010年のドラフト会議で東北楽天から2位指名を受け、プロの門を叩くことになった。

 アジア競技大会が開催されたのはドラフト会議の直後、11月のことだった。プロ入りが決まり、初の代表選出。景気のいい晴れ舞台になるかと思いきや、現実は様々な意味で「差」を思い知らされる場となった。

肌で感じた優勝に懸ける韓国の想い「簡単に勝てるわけはない」

 まず感じた「差」は、韓国代表との間にあった。成人男子に兵役義務のある韓国では、野球選手の場合、代表としてアジア競技大会で優勝すれば兵役が免除される恩典が得られる。そのため、アマチュア選手が大半を占める他チームとは異なり、韓国代表はプロ選手を中心に構成。この時も、後にメジャーリーグで大活躍する秋信守外野手、柳賢振投手、日本球界で名を馳せる李大浩内野手、金泰均内野手らを揃え、決勝ではチャイニーズ・タイペイを9-3と圧倒して金メダルを獲得した。

「とにかく韓国の本気度が違って、めちゃくちゃ強かったのを覚えています。野球のレベルというよりも、大会に懸ける“想い”が違いました。決勝を会場で見ましたが、チャイニーズ・タイペイが一方的に遊ばれていた感じがしましたね。さらに韓国の選手たちは金メダルを獲って、みんな泣いて喜んでいる。こんな想いでやっている人たちに簡単に勝てるわけはないなと、思い知らされました」

 前年に行われた「第2回ワールド・ベースボール・クラシック™」をはじめ日韓対決などが報じられるたび、「テレビを通して『日本に何としても勝つ!』といった韓国の意気込みは感じていました」と言うが、「自分で直接見て、感じるものは全く違っていた。初めて懸かっているものの差を感じる経験をしました」と振り返る。この大会で日本と韓国が直接対戦することはなかったが、それでも伝わる韓国の強い想いに触れたことは大きな刺激となった。

ドラフト2位でも感じた1位との差「相当頑張らなくちゃいけない」

 もう一つ感じた「差」は、ドラフト順位にあった。美馬投手自身、東北楽天から2位という上位で指名されたが、それでも「1位指名」との差を感じずにはいられなかったという。アジア競技大会での出番はほとんどなし。「杉浦(正則)さんがいらっしゃった時の、日本代表がすごく強かった時のイメージのある」グレー地に濃紺のストライプが入ったユニホームを着た嬉しさだけが記憶に残っている。

 同じく東京ガスから代表入りした榎田投手は阪神から1位指名、JFE東日本の須田幸太投手は横浜(現・横浜DeNA)から1位指名され、プロ入りを決めていた。この2人を中心に、投手陣は大まかな投球スケジュールが組まれ、先発・中継ぎともに登板する試合の見通しが立っていたが、「どの試合にも僕の名前はありませんでした」。先発も中継ぎもこなせる美馬投手に与えられた役割は、緊急時の対応役だった。

「本当に大差がついた試合で投げたくらい。練習も場所と時間が限られているので、投球スケジュールが決まっている人を優先させて、僕はなかなか練習すらできない状況でした。試合でも練習でも投げられなくて、正直、惨めな部分もありました。代表に入ってよかったのかな、と申し訳なさすら感じたほどです。だから、代表入りしたことがあります、と誇らしくは言えない自分もいるんですよ。

 ただ、この時にドラフト1位との差を感じたことで、プロ入りしてから頑張れた部分は大きいですね。1位指名とそれ以外では大きな差がある。それを越えるためには、相当頑張らなくちゃいけない、と実感した場になりました」

信頼を集める最後まで諦めずに投げ抜く姿勢、影響を与えた「差」の実感

 あれから10年。美馬投手は今、千葉ロッテが誇る先発ローテの柱として活躍する。楽天から千葉ロッテへFA移籍した昨季はチーム最多の10勝をマーク。チームを4年ぶりのクライマックスシリーズ進出へ牽引するなど、信頼の厚いベテラン投手として存在感を光らせる。

 プロ入りから貫いてきた闘志をむき出しに最後まで諦めずに投げ抜く姿勢。そこにはアジア競技大会で「差」を感じた経験が、少なからず影響を与えているようだ。

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