「自分で考えて行動しよう」侍ジャパンテクニカルディレクターが子どもたちに贈るアドバイス

2020.7.20

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスは、スポーツ界に大きな影響を与えた。野球界もまた例外ではなく、NPBでは開幕が約3か月延期され、甲子園は春夏ともに開催中止。自粛期間中は、野球がいかに日本の風物詩として人々の生活に浸透していたか、その存在の大きさに気付かされた人も多かっただろう。

写真提供=Getty Images

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昨年はU-15代表監督を努めるなどアンダー世代の育成に尽力する鹿取義隆氏

 世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスは、スポーツ界に大きな影響を与えた。野球界もまた例外ではなく、NPBでは開幕が約3か月延期され、甲子園は春夏ともに開催中止。自粛期間中は、野球がいかに日本の風物詩として人々の生活に浸透していたか、その存在の大きさに気付かされた人も多かっただろう。

 現役時代は読売、西武(現埼玉西武)で守護神として活躍した鹿取義隆氏も、その一人だ。2月は通常どおり、NPB各球団のキャンプ地を訪問していたが、オープン戦が無観客で開催されるようになり、視察を自粛。「現役時代を含めても、これだけ野球と接しなかった経験は初めてなので、何をしていいか分かりませんでした」と自粛期間を振り返る。

 現在は野球日本代表「侍ジャパン」テクニカルディレクターを務める鹿取氏は、トップチーム・稲葉篤紀監督のサポートはもちろん、U-23代表以下のアンダー世代の育成・強化にも尽力している。特に、U-15世代では2011年以来たびたび代表監督を務め、昨年も「U-15アジアチャレンジマッチ2019」に出場。子どもたちの野球に懸ける熱い思いを知るからこそ、こう語る。

「高校野球における甲子園のように、U-15、U-12世代でも子どもたちが一番大きな目標として、照準を合わせて頑張ってきた大会があるわけです。それが軒並み中止となってしまい、どうすればいいんだろう、と途方に暮れる子どもたちもいると思います。技術も体も一番伸び盛りの子どもたちは難しい時間を過ごしているかもしれません」

プロ野球中継も子どもたちには学びの材料「自分がプレーしていると想像して」

 緊急事態宣言が解除され、段階的にかつての日常を取り戻しつつあるが、3密を避けて健康を守るために、しばらく練習に制約がかかる状況は続くだろう。今までどおりの練習はできないかもしれないが、こんな時だからこそ、普段とは違う練習を取り入れるのも一つの手だ。

「実技練習が多くできないなら、代わりに座学で野球を深く学べばいい。野球の知識を深める努力をするといいと思います。例えば、監督が言う『エンドラン』という言葉の意味を、改めて理解するように努める。頭の中でしっかり理解し、体も動く状態になるといいと思います。

 プロ野球中継を見ても、学ぶことはたくさんあります。まずは、自分ならどうするか考えながら見る。ピッチャーだったら『ここでどういう配球をしよう』とか、バッターなら『どんな配球でくるのだろう』とか。自分がその試合でプレーしていると想像して、頭の中で一緒に野球をする。実際にプレーしているのは超一流の選手ですから、彼らの動きは参考になります」

 開幕当初、無観客で行われていたNPBは、7月10日から有観客試合をスタートさせた。だが、応援歌の合唱や応援団の演奏はなく、プレーそのものが発する音がしっかりと耳に届く。この音もまた、子どもたちは聞き逃さず、上達のヒントにしてほしいという。

「打球の響きから、打った瞬間に飛距離が想像できると思います。守備でも、内野手のグラブにボールが入った時のパーンッという音がありますよね。あれはグラブの芯で取らなければ出ない音なんだと、見ているうちに分かるわけです。自分もあんな音を出してみたいと思えば、試合を見ながらグラブを持ってハンドリングの練習ができる。野球にしても勉強にしても、子どもたちが自分で考えて行動しないと身につきません。今は見て考える環境としては非常にいい時間であると思います」

保護者や指導者に気を配ってほしい「故障のリスク」

 この時、大切になってくるのは保護者や指導者の関わり方だ。子どもたちに答えを教えるのではなく、「少しアドバイスする」ことが大事。ヒントをもらった子どもたちは「自分でしっかり考えますよ」と話す。同時に、保護者や指導者といった大人たちには、子どもたちの故障に十分気を付けてほしいと願う。

「野球が上手くなることも大事ですが、そのためには、まず体を作らないといけない。ご家庭では栄養バランスをしっかり考えた食事に気を遣ってもらいたい。そして、指導者の皆さんは練習強度を上げる時に、野球ができる体になっているかどうか見ていただきたい。リモートで練習をしていた子どもたちは特に、体作りが十分ではない可能性もあります。そこを見極めずに練習をすれば、故障に繋がってしまう。そこは気を付けてほしい」

 コロナ禍にある今に限らず、U-15世代、そしてU-12世代の子どもたちの故障には、普段から十分過ぎるほどの注意を払ってほしいという。

「気を付けてもらいたいのは、無理に使い過ぎることによる怪我のリスクです。アンダー世代で故障している選手は、プロに入ってからも故障しやすい。ただ上手いから伸ばしていこうというだけではなく、怪我のリスクも考えながら育成してほしい。野球人口が少なくなる中で、非常に貴重な選手たちです。何も怪我がないように育てることも大人の役目だと思います」

U-15代表は「通過点」、一人でも多くの選手がプロで活躍する流れに

 監督としてU-15代表を率いる時、鹿取氏は必ず伝えることがある。それは「U-15代表がキャリアハイではない」ということだ。

「子どもたちには、まだ先があります。U-15世代で目一杯投げて体を壊したら意味がない。代表では正しい投げ方や打ち方、基本的なことを教えるから、ここをベースとして伸びなさい、と伝えます。まだ15歳。通過点ですからね。ご父兄も過度の期待を持たずに、見守ってほしいと思います」

 初めてU-15代表監督として指揮を執ったのは、2011年の「第15回AA世界野球選手権大会」。この時、代表チームに選ばれた20人のメンバーのうち、淺間大基外野手(北海道日本ハム)、田嶋大樹投手、中川圭太内野手(ともにオリックス)、立田将太投手(元北海道日本ハム)の4人がプロの門を叩いた。今後もU-15代表をはじめアンダー世代の代表を経験した子どもたちが、一人でも多くプロで活躍する流れを作っていきたいという。

「U-15代表としてプレーしたことで、プロになりたいという想いを強くしてくれたなら、非常にうれしいですね。もちろん子どもたちには、頑張ればプロにいけるんじゃないか、とは言います。ただ同時に、慢心せずにやらないとだめだよ、とも言います。その中から頑張って何人かプロ入りする姿を見ると、やっていて良かったと思いますよ。こういう流れはこれからも続けていきたいと思います」

 U-15代表を足掛かりに、プロでキャリアハイを迎える選手が一人でも多く誕生するよう、今後もアンダー世代の育成・強化に力を注ぐ。

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