「慎重さ」と「開き直り」のバランス 元侍ジャパン戦略コーチが語る国際大会のカギ

2020.3.16

世界の頂点を目指すためには、チームを支える“裏方”の力は欠かせない。特に戦略コーチやスコアラーによる対戦チームのデータ分析は、首脳陣や選手たちにとって心強い味方となる。2013年に行われた「第3回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」で野球日本代表「侍ジャパン」の戦略コーチを務めた橋上秀樹氏は、有益なデータを選手たちに提供し、迷いを断たせて打席に送った。大会中は選手個々で状態の良し悪しに違いがあったが、最終的にカギを握ったのは「慎重さ」と「開き直り」のバランスだったと振り返る。

写真提供=Full-Count

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2013年の第3回WBCで戦略コーチを務めた橋上秀樹氏が明かす「責任の重さ」

 世界の頂点を目指すためには、チームを支える“裏方”の力は欠かせない。特に戦略コーチやスコアラーによる対戦チームのデータ分析は、首脳陣や選手たちにとって心強い味方となる。2013年に行われた「第3回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」で野球日本代表「侍ジャパン」の戦略コーチを務めた橋上秀樹氏は、有益なデータを選手たちに提供し、迷いを断たせて打席に送った。大会中は選手個々で状態の良し悪しに違いがあったが、最終的にカギを握ったのは「慎重さ」と「開き直り」のバランスだったと振り返る。

 昨年11月に開催された「第2回 WBSC プレミア12」。侍ジャパンは見事、優勝を飾り、2009年の第2回WBC以来となる10年ぶりの世界一に輝いた。この時、稲葉篤紀監督が流した涙を見て、橋上氏は自身が侍ジャパンのユニホームを着た2013年当時のことを思い出したという。

「あの涙が背負った責任の重さの表れなんです。緊張感、責任感、そういったもの全てが解き放たれた。喜びというよりは、安心。責任を果たせて良かったという思いが(涙の意味として)割合的には多かったんじゃないかと思います」

 第3回WBCでも想像以上の重圧を感じたという。それは監督や選手だけでなく、コーチやスタッフも同じ。これまで感じたことのない日の丸の重みがあった。第2ラウンドのチャイニーズタイペイ戦は9回2死までリードされたが、井端弘和内野手(現侍ジャパン内野守備・走塁コーチ)がセンター前へ起死回生の同点打。延長10回には1死二、三塁から中田翔内野手(北海道日本ハム)がレフトに犠飛を放ち、逆転勝利。簡単には勝たせてもらえなかったが、決勝トーナメントへ駒を進めた。

「大会が始まるまでは、それほど責任を重く感じることはなかったけれど、練習試合などメディアでの報じられ方を見て、注目の高さを感じ始めました。第1、第2ラウンドは思った以上に苦戦をして、非常に焦りました。なので、東京ラウンドを勝ち抜けた時点で、優勝したかのように喜んだことを覚えています。(第2ラウンド最終戦の舞台)東京ドームから羽田空港に直行して、チャーター機でアリゾナへ行ったんですが、機内は(緊張から)解放されて非常に明るいムードでした」

WBCで感じた日本人の傾向「他のチームと比べて、真面目で慎重」

 サンフランシスコで行われた準決勝では、プエルトリコと手に汗握る試合を戦いながら惜敗。侍ジャパンは大会3連覇を逃した。ただでさえコンディション調整が難しい短期決戦。普段は感じることのない独特のプレッシャーを感じる中で、うまく実力を発揮できた選手もいれば、発揮できずに終わってしまった選手もいる。その差を分けた要因はどこにあるのか。大きな緊張感や責任感を共有した橋上氏は、こう語る。

「自分としても戦略コーチの立場から、効果的なデータを提供できたかどうかは疑問が残ります。ただ、日本人というのは他のチームの選手と比べて、真面目で慎重。一発勝負では“開き直り”ができないということに繋がってくるのかなと感じました。慎重に、慎重に……とやって、自分が確認したかったことができるようになった頃には、もう大会が終わってしまう。(期間の長い)リーグ戦だったら全然、大丈夫なんですが」

 例えば、初めて対戦する投手の傾向を掴もうと、打者がボールを“観察”するために数打席を費やすとする。長いリーグ戦では正攻法かもしれないが、短期決戦には向かないだろう。ここで開き直り、別のアプローチを取ることができるか否か。そこは選手の性格による部分も大きいという。

「緊張は全員します。その中で、普段よりも集中して良い結果が得られる選手と、逆に普段のパフォーマンスが出せない選手と、タイプはこの2つに分かれるのではないかと思います。緊張をプラスの要素に持っていけるかどうかは、性格的なもの。最初のプレーで良い結果が出る選手は、その後も継続して良い結果が続いていくと思います。逆に、最初につまずいてしまうと、短期決戦の間に立ち直ることなく終わってしまう。思うような結果が出ず、大きな責任を感じてしまう選手もいます」

代表入りが予想される選手がすべき準備とは… まず「ペナントレースを一生懸命、戦う」

 大会期間中、首脳陣は選手の好不調を見極めて、どうやって起用していくか判断していかなければならない。戦略コーチだった橋上氏は、当時チームを率いた山本浩二監督と密にコミュニケーションを図ったという。

「山本監督とは、特にバッティングの面で、選手の起用について話をすることが多かったです。例えば、千葉ロッテの角中(勝也)選手の状態が良かったので1番打者で使おうとか、鳥谷(敬)選手(現千葉ロッテ)、井端選手もプラスの要素がだんだんと出てきていました。一方で長野久義選手(広島東洋)がうまく波に乗れていないと感じたのでスタメンを外すかどうかなど、意見は結構、出ていましたね」

 こうしてチームは試行錯誤を繰り返しながらも1つにまとまり、迎えた準決勝。プエルトリコに敗れ、3大会連続優勝は逃したが、この時にチーム内で生まれた絆や経験は、それぞれの野球人生において大きな財産となった。

 2017年に就任して以来、チームを率いる稲葉監督の下、プレミア12初優勝という結果を残した侍ジャパン。指揮官は、この時のメンバーを軸にチームを編成する方針だというが、昨年世界一を経験した選手たちは、これから臨む国際大会に向けてどのような準備を進めたらいいのか。橋上氏は「特別やっておくべきことは何もない」と言い切る。

「侍ジャパンに選ばれる前に、まずはNPBの公式戦がある。そこを疎かにするわけにはいきません。準備しておかなければいけないことも、特にないと思います。プロ野球選手はペナントレースを一生懸命、戦う。もしも代表に選ばれたら、そこから気持ちを切り替えてやる。それしかないんじゃないですかね」

 今年は新型コロナウイルス感染拡大のためNPBの開幕が延期されるなど、選手にとっては調整が難しいシーズンが予想される。だが、高いパフォーマンスを発揮するために日々の準備を積み重ねることこそが、侍ジャパンのレベルアップや好結果にも繋がることになりそうだ。

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