なぜ山本昌氏は50歳まで投げ続けられたのか U-15、U-12世代へ贈る言葉

2016.7.11

球界の未来を担う有望株、そしてこれから侍ジャパンを目指していく若い選手たちに今、必要なこととは何なのか。野球選手として大きく育つために、そして怪我をせずに選手生命を全うするために――。一度も体にメスを入れることなく50歳まで第一線で活躍した“レジェンド”が、育成年代の選手たちに熱いメッセージを送った。

写真提供=Full-Count

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“レジェンド”が育成年代へメッセージ 「まず基本を大事に」

 プロ野球の世界で32年間、現役としてプレーした山本昌氏。昨季限りで引退するまで中日で通算581試合に登板し、219勝165敗、防御率3.45の成績を残した。NPB最年長勝利記録(49歳25日)や、NPB史上初となる50歳(57日)での公式戦出場など数々の記録を樹立。豊富な経験を生かし、引退後はスポーツコメンテーターとしても活躍している。

 世代交代が進み、若手が主力となっている現在の侍ジャパンについて「面白い」と断言する山本氏は、U-15、U-12といった育成年代の日本代表にも注目。各世代に侍ジャパンが常設されている現状について「素晴らしいこと」と評価し、日本野球の底上げに大きな期待を寄せている。

 球界の未来を担う有望株、そしてこれから侍ジャパンを目指していく若い選手たちに今、必要なこととは何なのか。野球選手として大きく育つために、そして怪我をせずに選手生命を全うするために――。一度も体にメスを入れることなく50歳まで第一線で活躍した“レジェンド”が、育成年代の選手たちに熱いメッセージを送った。

――野球選手の育成について聞かせて下さい。山本昌さんはプロ野球選手として32年間プレーされ、最大級の敬意を込めて“レジェンド”とも呼ばれました。肩や肘などの手術歴もありません。プロ野球選手、もしくは今後長く野球をプレーすることを目指していくU-12、U-15世代の選手が大切にしてほしいことは何でしょうか?

「まず基本を大事にしてほしいなと思いますね。何が基本か、と言われるかもしれないですけど、昔から色んな方たちがいいと思ってやってきて、残っていることが基本です。こういう時代ですから、携帯電話1つで色んな情報が手に入ります。でも、指導者の方には頭でっかちにならずに、今いいと思う基本のことをしっかり教えていってほしいなと。若い選手は(プロ野球の)かっこいいプレーを見ていますし、色んな練習方法もありますけど、まず基本をしっかり教え込んでほしいですね。

 野球はボールを使うことなので、まずはキャッチボールをしっかりやってほしい。打つ、守るにしても、必ず基本はあるので、その基本をしっかり教える指導者の方たちが増えてほしいと思います。私は『怪我をしづらい投げ方』があるとずっと言っていますけど、(そのコツは)『大きくしっかり肩を使って投げる』ということだけですから。そういうことを教える人が増えてほしい。そういう面で、我々のようなプロOBもアマチュアの指導者の方々にどういうことを教えていけるか、というのもやっていきたいなと思いますね」

小・中学校時代に「走っておいてよかったなと思う」

――日本では昔からピッチャーの投げ込みが重視されてきました。ただ、近年では米国流の考え方も入ってきて、肩、肘を消耗しないことが大切だという考えもあります。これについてはどう考えていますか?

「それはもちろん、今の時代にはいいこともたくさんあります。昔のものだけがいいわけではない。ただ、古いものもしっかり残してほしいですし、『もう古い』ということではなくて『新しいもの』『古いもの』『いいもの』というのをしっかり選んでやってほしいですね。

 基本というのは、やはり昔からずっと言われていることです。ただ、今みなさんが考えていることにも、いいことはあります。なので、それをうまく頭でっかちにならずにやってほしい。『そんなの古いよ』じゃなくて、古い中にもいいものがあります。逆に、『今の若い者は』というのではなくて、今の若い人たちがやることも見て、『いいものはいい』と。それをしっかりミックスした練習方法を身につけてほしい」

――山本昌さんは50歳まで現役でプレーされました。大きな故障もなく、プロだけでも32年間の現役生活を送られましたが、小・中学校の時にやっておいてよかったと思えるものは何でしょうか?

「走っておいてよかったなと思いますね。『そんなに走って何になるの?』って思うかもしれないですけど、説明しろと言われてもできない。『なんで野球選手は走るの? スポーツ選手は走るの?』と言われますけどね。でも、走っておいてよかったな、と思いますね」

――走り込みも、昔から重視されていることの1つです。やはり、スポーツ選手にとって基礎、土台の部分になるのでしょうか?

「土台をしっかりしておいてよかったなと。『最近の子』という言葉は私は嫌いなのですが、例えば、走るよりもウエイトトレーニングをする時間はかなり増えましたね。あとは、細かい動き、アジリティーの練習ですね。これも増えました。そういうのはもちろんいいのですが、走ることは走ることでしっかりやったらいいのではないかなと。

 あとは、投げる基本をしっかり教えていかないと。『あの投手の投げ方がかっこいい』とか、今はすぐ分解写真を撮って真似も出来ますけど、まずは基本の投げ方、自分の感覚を身に着けていってほしいなと思いますね。自分で『こうやって投げる』という感覚を」

山本氏が日々、チェックしていたこととは…

――『怪我をしない投げ方』について、もう少し聞かせてください。投げるときに『肩を大きく使う』というのは、毎日のキャッチボールの中で身についていくものでしょうか?

「そうですね。僕なんて毎日、キャッチボールでチェックしていましたし、チェックポイントがありました。やっぱり大きく使えているときは調子がいいので。『調子がいいから大きく使えているな。大きく使えているから調子いいな』と。そういうことは毎日思っていました。手術もしないで50(歳)まで投げられましたし、肩が痛いということはほとんどありませんでした。そう考えると、使い方は間違ってなかったかなと思いますね。

 肘の手術は非常に成功例が増えましたけど、肩はまだそんなに成功例というか、『しっかり治りました』というのは少ない。もちろん、数年たてば治る人もいますけど、肘のように1年とか半年で、というのはないので。そういう意味では、壊さない方がいいに決まっているのだから、しっかりした投げ方もアマチュアの指導者にはしっかり教えてほしいと思いますね」

――U-15やU-12の選手には、とにかく基本に時間を使ってほしいということですね?

「基本はしっかりやってほしい。色んな練習方法がありますけどね。基本というのは、なぜ基本と言われるかというと、プロ野球の歴史の中でいいと言われていることがずっと言い伝えられているわけですから。しっかり教えてほしいな。そういうことを飛ばして教えてしまうと、いびつになるんじゃないかと思いますね」

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