2019年初陣に臨む侍ジャパン 王貞治氏の名参謀が語る代表選手に必要な要素「上手い選手+強い選手」

2019.2.18

2020年に世界の頂点を狙う野球日本代表「侍ジャパン」。稲葉篤紀監督のもと、大舞台に向け着々と準備が進められている。まずは3月9、10日にメキシコ代表と対戦する「ENEOS 侍ジャパンシリーズ2019」が2019年の初陣となる。

写真提供=Full-Count

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昨年まで中日の1軍コーチを務めた森脇浩司氏が考える日本代表に必要なものとは?

 2020年に世界の頂点を狙う野球日本代表「侍ジャパン」。稲葉篤紀監督のもと、大舞台に向け着々と準備が進められている。まずは3月9、10日にメキシコ代表と対戦する「ENEOS 侍ジャパンシリーズ2019」が2019年の初陣となる。

 福岡ソフトバンクでは王監督の右腕としてコーチ、オリックスでは監督、そして昨年までは中日で1軍コーチを務めた森脇浩司氏は城島健司氏、川崎宗則氏、井口資仁氏(現千葉ロッテ監督)、杉内俊哉氏(現読売ファーム投手コーチ)、和田毅投手(福岡ソフトバンク)ら過去の代表選手と身近で接し、その成長を見届けてきたが、今回は日の丸を背負う選手たちのメンタリティー、育成論について語ってくれた。

「来年は日本開催となる五輪で野球が復活。素晴らしい舞台が整ったといえるでしょう。稲葉監督を含めた首脳陣は来る日に向け万全の準備を整える。一方、この時期の選手はまず自チームでの活躍に向け調整を行う。現段階では個のレベルを上げることに集中する。今シーズンで活躍しないことには代表選手に選ばれる可能性は低いのですから」

 これまで侍ジャパンが結成されてからのWBC、五輪は全て他国での開催(WBCは一部日本開催)。すべて日本開催での試合となれば、国民の期待を一身に背負い、これまで以上に大きなプレッシャーもかかることが予想されるが、森脇氏は全く逆の見解を口にした。

「誰一人として過度なプレッシャー、重圧などとは捉えていないでしょう。もし、本番がスタートして、そういった部分があるとすれば勝負をする以前に負けている。選ばれし選手たちは上手い以上に強い選手たち。この自国開催のタイミングで野球ができる喜びを感じ、起こりうる全てのことをプラスに変えて躍動してくれる個であり集団だと確信しています。野球以外のアスリートでも世界で通用するのは全てのことをポジティブに捉えられるかどうか。2020年、こんな大舞台は願ってもないチャンスと捉えている選手ばかりです」

指導者に必要なことは選手と純真に向き合うこと「指導者は支配者ではない」

 2006年の第1回WBCでは王貞治監督が指揮を執り初代王者に輝いた侍ジャパン。当時、福岡ソフトバンクの1軍内野守備走塁コーチ兼チーフコーチを務めていた森脇氏は、王監督から日本代表のメンバー編成を依頼され自らの考えた選手を1枚の紙にまとめあげたという。これまで数々の代表選手、スター選手を育て上げてきた森脇氏は大舞台で通用する選手たちの共通点を挙げる。

「日々のゲームで、自チームの選手同様に相手チームの選手のチェックも重ねました。良い変化をしているか、調子が良くないときでも貢献できるスキルとメンタルを持っているか、与えられた時間の中で立て直すことができるようになっているか、また、そのスピードが増しているか、などを自チームの選手同様に相手の選手も公平且つ客観的に見てチェックしていきました。日本一がいつも目的とされていたのでペナントは勿論ですが、来たるCS、日本シリーズで的確な分析、戦術を行うためであり、両者にとって有効なトレードに活かすものでもありました。そんなメモから上手くて強い選手をピックアップしてメンバーを編成することは素晴らしいタレントがいたお陰で、そんなに難しいことではなかったと記憶しています。

 日本シリーズ、代表戦などのビッグゲームで必要となるのは、成績を残した“上手い選手”、そこにプラスしてメンタル、フィジカルの“タフさを兼ね備えた選手”。この2つを兼ね備えた選手が必要です。当然のことですが、技術の高い選手は第1条件に入りますが、(大舞台を戦うためには)タフさが必要で、心身ともに“強い選手の集団”でないと勝てません」

「国民全員で稲葉ジャパンを純粋に応援していきたい」

 選手を指導していく上で最初の着地点を「オールスターに選ばれる選手、そして日本代表に選ばれる選手」に設定し、そこから逆算し選手個々に合わせた練習メニューを立て、コミュニケーションをはかっていく。コミュニケーションの中には、(性格診断の)エゴグラム、エニアグラムのようなものを用いて個性を知り、自発性、自主性、自立心を養い、崩れた時に自分で立て直すことができる選手をお互いで目指していく。個性を尊重し、長所を最大限に伸ばす。短所に至っては短所ではないところまで持っていく取り組みをし、変化を好み、チャレンジ精神旺盛な思考を作り上げていく――。そこにはファンあってのプロ野球という認識は既に宿っているという。

 森脇氏は「選手は伸び伸びプレーすることと他者への貢献は同類であることを知っている。勿論、自由には制限があることも。全ての選手が終着点に到達することはできないが、個性豊かな愛される選手、応援したくなる選手、いわゆる価値観の高い選手が多く存在する」と話す。そして、今でも育成で心がけていることがあるという。

「チーム作り、選手の育成には損大利小という原理原則を念頭に置いておきたい。無駄な時間が流れることは致命的ですが、短期的な利益、自身の利益を優先したり、その場しのぎの行動では、そこで得られる目先の利益よりも長期的な損大の方が大きくなるものです。実はこれこそが致命的。選手たちには様々な個性があり、得手不得手、向き不向きがあり、その先に適材適所があります。長所を伸ばし、短所の改善を行っていくが、『指導者は支配者ではない』ということ。自分の色に染めることではなく、経験を押し付けるものでもない。選手と真正面から向き合い、答えをお互いで導き出しながら能力を高めていきます。

 コミュニケーションは一番大事だと思いますし、指導者こそ向き合う選手以上に向上心に満ちた存在でなければ信頼関係も築けません。選手は我が子、チームは家族です。長きに渡りお世話になったホークス(福岡ソフトバンク)の選手たちには勿論ですが、ジャイアンツ(読売)、ドラゴンズ(中日)の選手たちにも多くのことを学ばせていただき、選手、球団には心から感謝を申し上げたいです。また、近年では当時のオリックスの選手たちの変化するスピード、進化は特筆に値するもので、沢山の感動をいただきました。その尊い変化に心から敬意を表すると共に改めて感謝をお伝えしたいです」

 3月にはメキシコ代表との強化試合が行われる。現段階で侍ジャパンに求められるものは一体、何なのか。

「現場は1年後を見据え作戦面、選手の起用法、状態を確かめることが一番で、この時期の勝敗はあまり気にしてはいないでしょう。ですが、ファンの方々、メディアは勝敗で大いに称賛、叱咤激励をし、納得いかなければ様々な意見で盛り上げていただきたい。それによって野球、侍ジャパンはより注目を浴び、新たな気付きもあるでしょう。選手はシーズンで結果を残すための調整の場でもあり、そして結果を残すことが全て2020年に繋がっていくことになります。残り約1年、私も楽しみに侍ジャパンの姿を見ていきたいですし、国民全員で稲葉ジャパンを純粋に応援していきたいと思います」

記事提供=Full-Count
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