元侍ジャパンU-18代表監督の小枝守氏が示した、育成世代が世界一に立つための手がかり

2019.2.12

侍ジャパンは今年もU-12代表、U-18代表といった育成世代が世界一を目指し、WBSCワールドカップを戦う。日本はこの世代でまだ世界の頂点に立っていない。一昨年の「第28回WBSC U-18ベースボールワールドカップ」では米国や開催国のカナダらに屈し銅メダル。昨年、宮崎で行われた第12回BFAアジア選手権では韓国、台湾に敗れ、アジアの頂点も逃した。メジャーリーガーの卵たちがいる北米、パワーだけでなく機動力などをつけてきたアジアのチームに勝ち、日本が世界一になるためにはどうすればいいか。1月21日に逝去した小枝守・前高校日本代表監督が提唱した野球に、その鍵は隠されている。

写真提供=Getty Images

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パワーを誇る北米国などに対抗するために目指すべき日本の野球スタイルとは…

 侍ジャパンは今年もU-12代表、U-18代表といった育成世代が世界一を目指し、WBSCワールドカップを戦う。日本はこの世代でまだ世界の頂点に立っていない。一昨年の「第28回WBSC U-18ベースボールワールドカップ」では米国や開催国のカナダらに屈し銅メダル。昨年、宮崎で行われた第12回BFAアジア選手権では韓国、台湾に敗れ、アジアの頂点も逃した。メジャーリーガーの卵たちがいる北米、パワーだけでなく機動力などをつけてきたアジアのチームに勝ち、日本が世界一になるためにはどうすればいいか。1月21日に逝去した小枝守・前高校日本代表監督が提唱した野球に、その鍵は隠されている。

 小枝氏は日大三(東京)、拓大紅陵(千葉)を合わせて10度の甲子園出場に導き、2016年に高校日本代表監督に就任。2016年のBFAアジア選手権では今井達也投手(埼玉西武)、寺島成輝投手(東京ヤクルト)、堀瑞輝投手(北海道日本ハム)、高橋昂也投手(広島東洋)、藤平尚真投手(東北楽天)ら強力な投手陣を従え、優勝した。着実に1点を奪い、それを守り切る。決して派手さはないが、堅実な野球を徹底していた。

 代表監督に就任する前から、日本高野連の技術・振興委員として、前年の2015年で準優勝したワールドカップなどを見ていた小枝氏。夏の地方大会、甲子園を戦い終えたばかりの生徒たちが金属バットから木製バットに短い期間で対応するのは難しいと考え、長打を狙い、大量得点で打ち勝つ野球を選択肢から外した。

「長打は少ないし、木製バットはきちんとしたスイングを身につけないと金属バットで打つような打球は出ません。望めないものを追いかけるよりも、望める単打で、塁打を増やしていきたい、という思いでした」

 長年、海外のチームを見ていた経験から、対戦相手には日本よりも守備が緩慢な選手もいると分析していた。データや練習の時から自分の目で守備力を見極め、次の塁を狙わせた。シングルヒットを二塁打にする意識を持つことを徹底させた。木製バットではチャンスもそう多くはないと考え、残塁を少なくすることを掲げ、送りバント、進塁打のサインを出した。少ないチャンスを生かすように、とミーティングからこれらのことを口酸っぱく言ってきた。

 相手のミスがあれば、そこも突いた。「打ち勝つ野球よりも負けない野球を目指したいのです。一見、弱そうに見えますが、力の差があれば、相手をねじ伏せることもできます」。2016年のアジア選手権では、事実上の決勝戦と言われた2次ラウンドの宿敵・韓国戦で1点を先取されたものの、安打と敵失で逆転。3-1で勝利した。決勝のチャイニーズ・タイペイ戦も1-0で勝利。継投もはまり、少ない得点を守りきり、優勝した。

 一方で、日本の選手の守備での緩慢なプレーは許さなかった。韓国戦で遊撃手が一塁へ悪送球した際、正捕手だった九鬼隆平捕手(福岡ソフトバンク)が一塁へのベースカバーを怠ったシーンがあった。試合後、小枝氏は「横着をするんじゃない」「地味なことだけどきちんとやろう」と九鬼捕手だけでなく、全選手に伝えた。その後、1点差で勝利した決勝戦後には、小枝氏は嬉しそうに「九鬼が一塁へバックアップしに行って、失点を防げたシーンがありました」と記録に表れないファインプレーを高く評価していた。

得点力アップのため木製バットの対応が急務も、待ち受ける課題

 アジア一から世界一を目指した2017年のワールドカップでも戦い方は同様だった。しかし、結果は3位に終わった。小枝氏は堅実なスタイルを徹底したが、選手たちは木製バットの対応に苦しみ、指導者たちも選手らに木製バットの攻略までは導けなかった。「(招集から大会まで)期間は短いですが、子供たちの考え方、取り組み方を否定するわけにはいかないのです。子供の感覚の中に早く入っていってあげなくてはいけませんでした」。一部の選手たちはうまく対応でき、試合でもスムーズにバットが出ていたが、チーム全体としての得点力は生まれなかったことが敗因のひとつだった。

 世界で勝つために最も重要なのはこの木製バットへの対応。本来ならば各学校で木製バットを練習から導入してほしいところだが、正しいバットのスイング軌道をしなくては簡単に折れてしまう。部内の予算も限られているため、その度に買い替えるわけにはいかない。当然、各学校の目標は日本代表で勝つことではなく、甲子園に出場することであるため、木製バットの練習導入の義務も難しい。

 この問題をクリアするためにはメンバー選考から、木製バットに持ち替えても正しいスイング軌道ができるであろう選手を見極めるしかない。金属バットで飛距離が出るホームランバッターであっても、対応力に難がありそうな選手は選考しないといった判断の目が求められる。

 またU-12代表やU-15代表などでも共通しているのが、生徒の所属する学校、チームの“カラー”を把握することが重要だということ。「エンドランのサインを出しても、自分の意図が伝わらないこともある。自分の野球観を押し付けずに、どう切り替えていくかも重要だと感じました」。自分が時間をかけて指導してきた教え子ならば、簡単に順応できるかもしれない。だが、集合してから約2週間では考え方の共有も難しくなる。生徒個人のプレースタイルだけなく、どのような指導を受け、どのような野球環境で育ったのかも確認すべきだったと小枝氏は振り返っていた。

 国際大会ではストライクゾーンの違いや大会期間中の食事のストレスを減らすなどといった文化の違いだけでも悩みの種となるが、頂点に立つためには、さらに対戦国の分析や甲子園大会でピークだった生徒たちの疲れをどうやって取り除き、万全の態勢を敷くことができるかなど、他にも課題は山積みだ。高校野球界の発展に尽力をした小枝氏は志半ばで、この世を去ったが、監督を退いた後も一スタッフとして、意見を残してきた。功績を無駄にせず、世界一への提言として次世代へとつないでいくことが、求められている。

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