元日本代表守護神・小林雅英氏が語る、侍ジャパンのクローザーに必要なこと

2019.1.8

野球日本代表「侍ジャパン」は稲葉篤紀監督に率いられ、今年開催される「第2回WBSCプレミア12」、2020年の東京に向けて準備を続けている。昨年11月9日から15日に開催された「2018日米野球」では、MLBオールスターチームに対戦成績5勝1敗と圧勝。主力選手が期待通りの活躍を見せるなど、順調に前進している。

写真提供=Getty Images

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アテネ五輪で日本代表のクローザーを務めた小林雅英氏

 野球日本代表「侍ジャパン」は稲葉篤紀監督に率いられ、今年開催される「第2回WBSCプレミア12」、2020年の東京に向けて準備を続けている。昨年11月9日から15日に開催された「2018日米野球」では、MLBオールスターチームに対戦成績5勝1敗と圧勝。主力選手が期待通りの活躍を見せるなど、順調に前進している。

 国際大会で勝つために鍵となる要素はたくさんある。なかでも、勝ちゲームをしっかりと終わらせることができるかは重要だ。1点差でも勝てばいいのが短期決戦。必死に奪った1点、守ってきたリードを最終回にひっくり返されるようなことがあると、優勝への道はより険しいものとなる。

 現役時代に千葉ロッテ、読売、オリックスでプレーし、通算228セーブを挙げた小林雅英氏は、2004年のアテネ五輪にも出場。守護神として、アジア予選突破、そして銅メダル獲得に貢献した。2008、09年にはメジャーリーグのクリーブランド・インディアンスでもプレー。昨季まで千葉ロッテで投手コーチも務めていた。侍ジャパンのクローザーに必要なものとは何なのか、現在の日本球界に守護神に相応しい投手はいるのか。経験豊富な“右腕”が語ってくれた。

 近年の侍ジャパンは、抑えの投手を固定できずに1つの大会を戦うことが多い。2015年の「世界野球WBSCプレミア12」では準決勝の韓国戦で救援陣がリードを守りきれずに逆転負けし、2017年の第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)も継投で苦しんだ。世界一に輝いた2009年の第2回WBCも大会途中に本来は先発のダルビッシュ有投手(現シカゴ・カブス)を抑えに回し、2013年の第3回WBCでは前年に埼玉西武で先発だった牧田和久投手(現サンディエゴ・パドレス傘下)をクローザーに据えていた。

 ただ、小林氏は「本当にシーズン中にクローザーとしてしっかり結果を残して、信頼されている人間がそういう場所でも最後のアウトを取りにいけないといけない」と話す。では、国際大会を戦う上で、抑えの投手に必要なこととは……。千葉ロッテのクローザーとして結果を残し、アテネ五輪で大役を務めた小林氏はこう話す。

重要な心の準備「アウトは自分で掴むもの」

「どれだけゲームの中で情報を得られるかどうか、ですね。情報については、特にクリーンアップのものです。下位打線になると、代打が出てきたりするので必要以上に考えなくてもいいですけど、やっぱり上位打線、クリーンアップ、6番くらいまでは情報が必要です。他の投手が投げているときに、どういう反応をしているのか、どういう空振りしているのか、どういうボールでどういう凡打になっているのか、どういうボールでいい当たりをしているのか……。映像で見られれば最高です。ブルペンにいるときも、シーズン中のように100何試合もそういうことをするわけではないので、今までの過ごし方とは違うかもしれませんけど、その中でどれだけ情報を得て、自分のピッチングを考えようか、ということですね。

 あとは、いただいた点数の中でどうやって3つのアウトを取るか。最低でも同点までで止める、ということですね。もちろん、3者凡退を目指しますけど、それを最大の目標にすると、ランナーが出たときに『どうしよう』となって、どうしようもできなくなってしまうので、(打席の)結果、点差、打たれる方向、そういうところで許容範囲を自分の中で作っていくと、何かが起こったときに臨機応変に『大丈夫。これは俺の許容範囲の中だから』となれます。もしくは、許容範囲でないことが起きても『こうなっちゃったな。じゃあ、次どうしようかな』と、色々なシミュレーションができます。なので、マウンドの上で『どうしよう』というふうにならずに、ちょっと心の余裕につながります。周りはヒヤヒヤしてるんですけどね(笑)。でも、自分は走者が三塁にいてもそれほどヒヤヒヤしないですし、落ち着いて投げられる」

 日の丸を背負えば、マウンド上ではより重圧がかかる。だからこそ、走者を出した時、ピンチになった時に焦らないことが大切だというのだ。心の準備をしておくことで、マウンド上での「開き直り」「切り替え」もしやすくなるという。

「切り替えることの準備として、許容範囲を持っておくと切り替えられるんですけど、厳しくなりすぎて『まずい。どうしよう』となると切り替えるのは難しくなります。バッターの方に気持ちが向かって、視野が狭くなっていってしまう。『アウトが欲しい』という欲が出てしまうので。僕はコーチ時代に『アウトは欲しがるものじゃない』とよく(選手に)言っていたんです。『アウトは自分で掴むもの』だと。アウトを欲しがってしまうと、どうしてもピッチングが雑になってしまったり、心、気持ち、頭がバッターのことだけになってしまい、『アウトが欲しい、アウトが欲しい』となってしまう。『アウトは奪うもので、ボール球は自分で投げるもの』。ストライクを投げにいってボールになっているのはピッチャーじゃないので。この2つだけだと思うんです」

 当然、こういった気持ち、心の余裕をもたらすのは、クローザーとしての経験だ。普段からクローザーとして結果を残していれば、それだけ場数を踏んで、ピンチも乗り越えていることになる。そんな投手は現在の日本球界にいるのだろうか。

現在の日本球界でクローザーといえば…「まだ物足りない」

「一緒にやっているわけではないので、選手の性格とか考え方を知ることはありません。ただ、ここ数年、侍ジャパンの中継ぎ、抑えで入っている選手がうまくいかないということがあります。例えば、則本(昂大)投手(東北楽天)のような基本的にシーズン中は先発しかやらない投手がクローザー、中継ぎをやってうまくいかないとか。やっぱり、それ(違う役割)は難しいと思います。僕が知っている限りでは、増井(浩俊)投手(オリックス)とか山崎(康晃)投手(横浜DeNA)とか……。本当にシーズン中にクローザーとしてしっかり結果を残して信頼されている選手が、そういう場所でも最後のアウトを取りにいかないと。そういうピッチャーが失敗してアウトを取れないと、その皺寄せで『いいピッチャーを』と思われて普段は先発の投手が行くことになりますけど、結局、経験値が浅いので自分のピッチングにならない。先ほど言ったような『まずい。どうしよう』ということが先に立ったりとか……。

 試合の初めから投げていっての完投の9回のマウンドとは全然違います。全然ゲームに入っていなくて、パッとマウンドに上がって9回の1イニングを侍ジャパンのレベルの試合でやるというのは、すごく負担がかかりますし、難しいことだと思います。普段そういうことを経験している人間がやるべきポジションだと思いますし、やらなきゃいけない。今は、そういうクローザーというピッチャーはまだ出てきていないと感じます。まだ物足りないですよね。本当に抑えをやって、30、40セーブしている投手、最後の1イニング、3つのアウトを取れる投手が1人でも2人でも出てくれば、8、9回は大丈夫です。そうすると、ピッチングコーチからしたらプランが立てやすい。そこで行き当たりばったりでやっていると、難しい戦い方になります。ましてや一発勝負で世界と戦ってやるというところでは、いい結果にはつながらないと思います」

 まずはプロの世界で継続的にしっかりと成績を残すこと。その中で、侍ジャパンの最終回のマウンドを任せられる投手が出てきてほしいと、小林氏は考えている。では、1年だけでなく2年、3年、それ以上にわたってプロでクローザーとして結果を残すために必要なこととは何か。小林氏は「リセット」しながら各シーズンを過ごしていたという。

「僕は毎日を『リセット』していた人間なので、年間の成績もリセットしていたんです。そこをできるかどうか。『去年の今頃は何セーブしてたよな』とか『防御率このくらいだったよな』とかって考えながらやっていると、うまくいかないんです。去年良かったからと言って、今年は球速が上がるわけでもないですし、球種が増えるわけではないので。ある程度、経験値として頭の中での野球は変わりますけど、パフォーマンスが上がるかと言ったら難しい。逆に年齢は上がっていくので、30歳を超えて、1年上がるごとにパフォーマンスがどうしても落ちてしまう中で、『前の年と同じことをやっていて正解なのか』、ということになります。前の年を追い求めても、同じトレーニング、ランニングをしていても正解じゃないと思うので、そこを上手く比較しないで、リセットして入れるかどうか。これが、中継ぎ、抑えで成績を残した次の年にするべきことの1つかと思います」

 侍ジャパンのクローザーと言えばこの人、という投手は出てくるのか。小林氏は各球団の抑え投手たちの奮起に期待している。


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次回:1月14日20時頃公開予定

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