「大きく成長してほしい」― 惜しくもW杯連覇を逃した侍ジャパンU-23代表が手にしたもの

2018.11.12

10月19日から28日にかけてコロンビアで行われた「第2回 WBSC U-23ワールドカップ」。メキシコの初優勝という形で幕を閉じた大会で、稲葉篤紀監督率いるU-23日本代表は決勝で延長10回、タイブレークの末に1-2でメキシコに敗れ、惜しくも連覇を逃した。

写真提供=Getty Images

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全勝で迎えた決勝でメキシコに敗戦も…選手たちが成長を遂げた10日間に

 10月19日から28日にかけてコロンビアで行われた「第2回 WBSC U-23ワールドカップ」。メキシコの初優勝という形で幕を閉じた大会で、稲葉篤紀監督率いるU-23日本代表は決勝で延長10回、タイブレークの末に1-2でメキシコに敗れ、惜しくも連覇を逃した。

 プロ19人、社会人5人の計24人で構成された侍ジャパンU-23代表は、バランキージャで行われたA組のオープニングラウンド5試合、そしてA、B各組上位3チームが進めるスーパーラウンド3試合の計8試合で全勝し、スーパーラウンド1位で決勝に進出。だが、バランキージャの地元ファンの多くが同じスペイン語圏のメキシコを応援するアウェーの雰囲気の中、最後の最後で力尽きた。

 それでも、選手たちが成長を遂げた10日間だった。オープニングラウンド初戦で南アフリカを7回コールドで13-0で下すと、チャイニーズ・タイペイに3-1、メキシコに7-2、オランダにも5-0で勝利。オープニングラウンド最終戦を待たずして、スーパーラウンド進出を決めた。地元コロンビアとの対戦となった第5戦も7-2で勝利。ほぼ満席となったスタンドからコロンビアの選手たちに熱い声援が送られたが、日本の選手たちはアウェーの雰囲気も物ともせず、力の差を見せつけた。

 オープニングラウンドをともに通過した同組の2チームとの対戦成績も加え、計5試合の結果で決勝、3位決定戦進出チームを決めるスーパーラウンドでは、メキシコ、チャイニーズ・タイペイ戦に勝利している日本は2勝0敗からスタート。初戦の韓国に3-2で競り勝つと、オープニングラウンド全勝対決となったベネズエラ戦も6-3で勝利。ドミニカ共和国も4-0で下し、スーパーラウンド5勝0敗の1位で決勝に駒を進めた。

 決勝は緊迫した展開が続いた。日本は先発の近藤弘樹投手(東北楽天)が8回までメキシコ打線に7安打を許しながらも、粘りの投球で得点を与えず。だが、打線が苦しんだ。メキシコ先発モラレスに5回まで無安打に抑えられ、初ヒットが出た6回も得点圏に走者を進めることができず。試合は緊迫した展開のまま終盤を迎え、無死一、二塁から始まるタイブレークの延長戦に突入した。

 10回のマウンドを託されたのは、9回から登板していた左腕、成田翔投手(千葉ロッテ)。だが成田は犠打で1死二、三塁とされた後、メキシコ打線に連打を許し、2点を献上。日本はその裏、4番・内田靖人内野手(東北楽天)が犠打で走者を進め、1死二、三塁から安田尚憲内野手(千葉ロッテ)の二ゴロの間に1点を返し、さらに連続四球で2死満塁と一打サヨナラのチャンスを迎えた。だが、続く西巻賢二内野手(東北楽天)が右飛に終わり、万事休す。選手たちは湧き上がるメキシコベンチをただ呆然と見つめるしかなかった。

選手を称えた稲葉監督「我々は1敗しかしていないので、そこは胸を張っていい」

 決して満足いく準備期間があった訳ではない。事前の練習は日本で5日、コロンビア入り後、2日の計7日間。それでもチームは日ごとに結束力を高め、白星を重ねていった。稲葉篤紀監督は若い選手たちに試合の流れや攻守での切り替えの大切さを伝えるとともに、選手の調子を見極めて打順を組んだ。スーパーラウンドまでは連日、功を奏し、日替わりでヒーローが飛び出した。先発を任された山崎颯一郎投手(オリックス)、種市篤暉投手(千葉ロッテ)、阪口皓亮投手(横浜DeNA)、近藤投手、寺島成輝投手(東京ヤクルト)の5人もいずれも試合を作り、リリーフ陣も全員が大崩れせず。守備でもグラウンドが荒れている悪条件の中、12カ国で唯一の無失策と、それぞれが役割を全うした。

 チーム防御率は出場12か国中トップの1.29。被打率もトップの.179で、四球も最少タイの23個。甘いところに投げればパワーで簡単に外野を越えられる外国人選手相手に、日本の投手陣のレベルの高さを見せつけた。稲葉篤紀監督は今回、海外の打者相手に直球で空振りやファウルが取れる選手を選出した。そんな国際大会で通用する選手の選択は間違っていなかった。一方、打線のチーム打率は同5位の.279。それでも盗塁は同2位の13個と、足を絡めた攻撃で効率良く得点を重ねた。指揮官は各選手に対し、積極的に次の塁を狙うように指示しており、それに選手たちが応えた結果の数字でもあった。

 10日間の大会を終えた指揮官は「選手はとにかく目一杯やってくれたし、我々は1敗しかしていないので、そこは胸を張っていい」と、開幕から8連勝で決勝の舞台に進んだ選手たちを称え「この経験を経験だけで終わらせず、自分には何が足りないか分かったと思うので、ステップアップとしてまた次に生かし、大きく成長していってほしい」と、若き侍たちの今後の飛躍を願った。

 大会MVPに選ばれたのは、主に5番を務めたプロ1年目の安田尚憲内野手(千葉ロッテ)だった。全出場選手中、打率は4位タイとなる.458。出塁率は同3位の.531で、1本塁打、7打点。決勝でメキシコに敗れた後の受賞だったため「優勝を目指してやってきたので、こういう(準優勝という)結果になって悔しい。(延長10回の)あそこで1本打てるか打てないかで選手の実力が出る。バッティングは最後の勝負強さ、直球に負けないスイングはまだまだだと思った。本当は監督を胴上げしたかった。選んでいただいたことは光栄なことだが、負けた悔しさのほうが強い。コロンビアでやってきたことを今後の成長に生かせるようにやっていきたい」と、喜びはなかったが、それでも、効果的にチームに得点を運んだ打撃が評価されての、準優勝チームからのMVP選出だった。

稲葉監督も五輪へ向けての糧に「このいろんな経験を生かしていきたい」

 また、最優秀防御率賞には防御率0.00だった山崎、最高勝率賞には2勝0敗の種市、最多得点には12得点の島田海吏外野手(阪神)が選出された。ベストナインには救援投手として成田翔投手(千葉ロッテ)、一塁手として安田が選ばれた。今大会5試合に登板し、大会後半からリリーフ陣の柱となった成田は、その投球内容が評価され、日米野球に出場する侍ジャパンの“フル代表”メンバーにも追加招集された。

 大会を通じて4番を務めたのは、今季1軍で12本塁打を放ち、成長を遂げた内田靖人内野手(東北楽天)だ。チーム最多の3本塁打を放ち、ホットコーナーから声でもチームを引っ張った。所属する楽天の平石洋介監督からは「プロ5年目で、お前にはこれからリーダーシップがどんどん必要になってくる。今回がちょうどいい機会だぞ」と背中を押されてU-23日本代表に送り出されたといい「この大会をいいきっかけにしたい」と、主将として、4番として打線の中心を担った。

 2020年の東京五輪で侍ジャパンを指揮する稲葉監督にとっても、今大会は本番を想定しての貴重な経験を積む場ともなった。コーチ陣は五輪を想定し、石井章夫、仁志敏久、建山義紀各コーチの3人体制を選択。時に監督自ら打撃投手を務め、チーム宿舎で相手チームのスカウティングも行うなど、1人何役もこなした。

「五輪を見据えて首脳陣4人、選手24人でやれたのは大きかった。私自身もやるべきことが非常によく分かったし、タイブレークも最後に経験できた。選手をまとめる時にどういう声の掛け方をしたらいいか、コミュニケーションをしっかりとっていこうと思ってやってきたが、選手は本当に1つになってやってくれた。いいチームに仕上がっていったのは分かった。このいろんな経験を生かしていきたい」と話した指揮官。結果は準優勝となり、惜しくも目標だった大会連覇は逃したが、短期決戦でのチームの作り方や戦い方を五輪を想定して行えたことは、2年後に控える東京五輪に向けて、大きな礎となった。

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