「そこが最終地点ではない」―山崎武司氏が侍ジャパンU-12代表、U-15代表の選手に贈る言葉

2018.3.12

NPBで通算403本塁打を放った強打者は、野球少年の育成の現状をどのように見ているのか。野球解説者の山崎武司氏は、自らの名前を冠した「山崎武司杯学童軟式野球大会」を開催するなど、野球の普及や育成にも力を入れている。だからこそ、文字通り日本を代表する野球少年が集まり、世界へと飛び出していく侍ジャパンU-12代表、U-15代表の選手たちに伝えたいメッセージがあるという。

写真提供=Getty Images

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通算403本塁打の強打者が考える育成論、侍ジャパンの存在は「素晴らしいこと」

 NPBで通算403本塁打を放った強打者は、野球少年の育成の現状をどのように見ているのか。中日、オリックス、東北楽天でプレーした野球解説者の山崎武司氏は、自らの名前を冠した「山崎武司杯学童軟式野球大会」を開催するなど、野球の普及や育成にも力を入れている。だからこそ、文字通り日本を代表する野球少年が集まり、世界へと飛び出していく侍ジャパンU-12代表、U-15代表の選手たちに伝えたいメッセージがあるという。

 まずは、素晴らしい能力を持っている選手だからこそ、謙虚になってほしいと、山崎氏は訴える。

「そういう年代で日本代表になる。素晴らしいポテンシャル、素質を持った子どもがたくさんいると思います。ただ、私が野球教室などで教えていると、上手い選手ほど謙虚ではない、と感じることもよくあります。そのまま持ち上がっていけば、どこかで挫折を味わうこともあります。なので、日の丸を背負う選手たちには、代表に選ばれる意味を小さいときから分かってほしい。まずは、指導者もそこを考えて指導してほしいですね。みんなの代表として日の丸を背負ってやる意味をわかってほしいな、と」

 日本代表としての勝利は、もちろん大切だ。ただ、その前に選手たちが考えるべきこと、そして指導者が教えるべきことがある。プロ入りして、1軍定着までに10年以上を要した史上稀に見る“遅咲き”の山崎氏だからこそ、壁にあたり挫折を味わうことの苦しさを知っている。

 ただ、そんな厳しい言葉を投げかけるのも、侍ジャパンが整備されたことで育成年代から日の丸を背負い、世界で戦うことができるという経験が、素晴らしいと感じているからこそだ。

「それ(育成年代から日本代表があること)は絶対にいいことです。いろいろなカテゴリーで代表として、メンバーを集めてやっていくのは素晴らしいこと。日本代表ではなくても、今は小学生の低学年と高学年で分けて試合をしたりしますが、私が子供の頃はそんなものはありませんでした。小学生では、1度しか大会に出られなかった。だから、いろいろな年代で試合に出るチャンスがあるというのは素晴らしいことです」

若い才能を伸ばすために、指導者に対しては厳しい言葉も

 「日本代表に入って海外の選手を相手に試合をするということは、昔はありえませんでした。でも、今はそこに選ばれれば、自分の力試しがいろいろなところで出来る。特に小学生や中学生は1学年違うだけで体格がだいぶ違いますし、外国の選手はもっと体が大きいでしょう。だから、パワーでは勝てないかもしれない。体が大きければ、スピードも違います。でも、そこが最終地点ではないですから」

 何よりも、いろいろな経験を積むことが大切。だから、今の小学生や中学生は恵まれていると、山崎氏は考えている。

 では、「野球」の部分でU-12、U15世代の選手に必要なことは何か。時代とともに教育は変わり、選手も変わってきた。ただ、根本的な部分は変わらないと、山崎氏は言う。「基礎」だ。その上で、指導者にも厳しいメッセージを贈る。

「侍ジャパンの選手たちは素晴らしいポテンシャルを持っていて、技術のある子たちもいて、うまい。ただ、技術的にはどんなカテゴリーでも(やるべきことは)一緒です。トップチームもそうですが、基本的な、地味なことをやらないといけない。基礎です。あとは、時代に応じての指導は必要ですが、少なくとも野球は団体競技なので、自分が駄目でも次の人につなげる『犠牲心』というものがないといけない。そこをどう思うかは大切になってきます」

「(昔と比較して)間違いなく子どもたちのレベルは上がっている。プロに入ってすぐに活躍できる選手も多くなった。それは間違いなくあります。いい素材を持っている子どもはたくさんいますが、駄目にしているのは大人。そういう部分では、いい指導者、野球を知っている人、また指導者を教える仕組み、ということを考えていけば、レベルはもっと上がると思います。そういうところを変えていかないといけない」

 育成年代の選手の将来を何よりも大切に考えるからこそ、こう訴える。

 プロ野球では1軍に定着するまでに10年以上かかったものの、45歳になるシーズンで引退するまで、長い現役生活を送った。2007年には39歳での本塁打王、打点王にも輝いている。それだけ長く野球を続けられたのは、丈夫な体があったからこそ。山崎氏は「それはもう体が一番。それが大事」とした上で、自分で自分の体を知ることも重要だと話した。これも育成年代から考えるべきことの1つかもしれない。

 日本の野球界の未来を担う才能をしっかりと伸ばさなければいけない。山崎氏はそう願っている。

【了】

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