育成年代が世界で勝つために―名打者・篠塚氏が訴える「体感」と「キャッチボール」の大切さ

2017.12.4

U-12、U-15世代では外国勢との体格差が大きく、身体能力の違いを見せつけられることが多い。球史に名を残す名打者として知られる篠塚和典氏は、この世代の日本代表選手が世界に飛び出しても打撃で力を発揮できるように、「体感」することが大切だと指摘。また、現在も育成年代を指導する経験から、小中学生が守備力を伸ばすために最も重視すべきは「キャッチボール」だと説いている。

写真提供=Full-Count

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日本の若い力を伸ばすために、通算打率.304の名打者が重視するもの

 2017年も各カテゴリーで好結果を残した野球日本代表「侍ジャパン」。社会人代表、女子代表がアジアを制覇し、大学代表はユニバーシアードで世界一に輝いた。そして、U-15代表も「第9回 BFA U-15アジア選手権」で4大会ぶりに優勝を果たした。

 ただ、このU-15代表も昨年の「WBSC U-15ワールドカップ」では決勝でキューバに敗れて初優勝はならず。今年はU-12代表が「第4回 WBSC U-12 ワールドカップ」で4位、U-18代表が「第28回 WBSC U-18 ベースボールワールドカップ」で3位に終わっている。この3つの世代はまだワールドカップを制したことがないのだ。

 特に、U-12、U-15世代では外国勢との体格差が大きく、身体能力の違いを見せつけられることが多い。現役時代に首位打者2度(1984年、1987年)、通算打率.304の実績を誇り、球史に名を残す名打者として知られる篠塚和典氏は、この世代の日本代表選手が世界に飛び出しても打撃で力を発揮できるように、「体感」することが大切だと指摘。また、現在も育成年代を指導する経験から、小中学生が守備力を伸ばすために最も重視すべきは「キャッチボール」だと説いている。

 日本が身体能力の高い相手と対戦する世界大会で勝つために、大切にすべきこと。それはやはり「スモールベースボール」だと、篠塚氏は言う。

「(日本がやるべきは)スモールベースボール。小技、技術ですね。そういうものは早い時期に選手に植え込んでいくことが大事です。この(小中学生の)時期から、技術を早く植え込むことは当然、悪いことではない。早く意識させることが絶対に大事だと思います。ちゃんとした構え方、振り方を教えること。そういう技術ができれば、速いボールにも対応はできるようになる」

 日本では対戦することのないような剛速球を投げてくるピッチャーが出てきても、基本的な技術がしっかりしていれば、まずは対応できる。だからこそ、選手はその技術を自分で磨かなければいけない。「このくらいの年代で技術を身につければ、高校、大学、社会人でも、すごくプラスになると思います。幼稚園児だろうが、小学生だろうが、教えることは一緒なんですよ。年齢が変わったからって、野球が変わってしまうわけではないので。それだけ時間を割いてやるかどうか。あとは、選手が自分で自主的にやるかどうか。選手が自分でやるように、指導者も教えていかないといけない」。技術練習では、反復、繰り返しが大切になる。それがいかに重要なことであるかを選手に理解させるべきだというのだ。

打力向上へ「速い球を体感することが大切」

 その上で、「体感」することがいかに大切かを篠塚氏は訴える。

「速いボールに対する経験が少ないことも(世界一になれない理由として)あると思います。それに対してはどう対応していくか。中学生なら中学生のピッチャーの球速ではなく、高校生くらいのスピードを体験しておくというのも、1つバッターとしては大事なことです。例えば、小学生なら70キロから90キロの間くらいのスピードですが、選手はそれしか打たない。でも、そこで野球が終わりではない。どんどん上のレベルに行けば、球の速さだって上がっていきます。ならば小さいうちに、打てる打てないは別としても、体で感じることが大切です。その方法としては、バッティングセンターというものがあります。コーチでも、そんなに速い球を投げられる人はそうはいませんから。マシンでもあれば別ですけど、なかなか小学校で用意できるチームはないので。

 だから、選手は時間がある時にバッティングセンターに行って、打てるところに入ることも必要かもしれませんが、速い球を体感することも大切です。バッターとして、最初に対戦した時に『速い』と感じたらそこで負けです。いい結果は出ない。ただ、『速い』と感じないでバッターボックスに出ていれば、絶対に対応能力が出てきます。バッティングセンターに行って、10回打つのであれば、7回は(普段対戦する投手よりも)速いところに入ったほうがいい。それを体験してみればいい。最初に遅い球を見て、次に速い球を見たら、どう感じるか。逆に、速い球から遅い球となったら、どう感じるか。そういうものを小さいときから経験して、感じないようなバッティングをできるようになったら、大したものだと思います」

 世界に出ていき、体の大きな相手と対峙して、普段対戦しているピッチャーとのスピードの違いに驚いていたら、その時点で気持ちが引いて負けてしまう。しかし、日頃から「体感」していれば、驚くことはない。例えばバッティングセンターなどで球が速すぎてなかなか打てないとしても、対応力という意味で、そのスピードを見ておくことは重要だという。

「遅いボールだと、どうしても分かっているから、体も遅いタイミングで打ってしまう。しかし、速いボールに対しては初めから力が入って、負けないように、となる。それも必要なんです。遅いボールの時にもそういう風に打席に入れということです。速いボールが来るというイメージで打席に入っていかないと、いざ速いボールになった時に、体が対応しないからです。

 やはりスピードに負けないようにスイングをすることで、ヘッドスピードも絶対に上がってきます。何とか当てようとする。とりあえず速い球を体感することが大切です。育成年代の選手はどんどんカテゴリーが上がっていくのだから、その時に合わせるのではなくて、早いうちに体験してスピードを分かった上で、次の段階に行った方がいいと思います」

 U-12代表、U-15代表が世界で勝つために、打撃面での“打開策”となるだろうか。

「キャッチボールの中には、守備力を上げるための要素がたくさんある」

 また、4度のゴールデングラブ賞に輝く名手でもあった篠塚氏は、小中学生が守備面で力を身につけるために重要なのは「自信を持つこと」だと指摘する。その上で、野球の基本中の基本であるキャッチボールの大切さを強調する。

「キャッチボールが出来ない選手は、守備をやっても厳しい。まずはキャッチボールで、どんなに近くても相手の胸に自信を持って投げられるようにする。野球教室などで、10球投げて何球が相手の胸に行くかというと、だいたい3球くらいまでです。でも、それでは駄目です。10球投げて3球なんて、バッティングではないのに、確率が悪すぎる。

 キャッチボールの中には、守備力を上げるための要素がたくさんあります。例えば小学生だと、投げたらそこで止まってしまっていて、相手のボールが逸れたら捕れないということが多い。それは自分の中で『ここに来る』と思っているから。だから、逸れたら捕れないのです。正面のボールは、そこにいれば捕れる。だから、野球教室などでは『まずは両サイド、上下を捕れる準備をしなさい』と言うんです。しかも、なるべく胸の近くで捕れるように動きなさい、と。そのために、自然とボールが来たら足を動かすという捕り方になってくる。足を使って、キャッチボールから自然に体が動いてくれているので。

 キャッチボールは野球の基本ですが、指導者がそれをやらせないというケースが多くあります。もしくは、指導者が(選手の)キャッチボールを見ていない。でも、もっと投げ方、捕り方を選手に教えていけば、選手は意識すると思います。意識しないとうまくならないのですから。例えば、野球教室などでキャッチボール中に球を後ろに逸してしまい、取りに行っている選手がよくいます。投げる方もそうですが、捕るほうがダメなときもある。そこでうまく捕れば、また投げる回数が増える。隣で上手い選手がやっていたら、後ろに逸したボールを取りに行っている間に3、4球は投げていると思います。そうやってどんどん差が開いていってしまう。キャッチボールは大切にしてもらいたい。守備にはスランプがないのですから、やはり教える方々も守りはもっともっと、小・中学校のうちに時間を割いてもらいたい」

 育成年代が技術を伸ばし、成長しながら、世界で勝つ。難しいテーマの答えが、名プレーヤーだった篠塚氏の言葉には込められている。

【了】

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