元福岡ソフトバンク右腕・斉藤和巳氏が心に置く育成の基礎「失敗しろ、1つの成功を喜べ」

2017.9.18

パ・リーグ史上初となる2度(2003年、2006年)の沢村賞受賞を果たした元福岡ソフトバンクホークスの右腕・斉藤和巳氏。現在は解説者を務めながら、各地で開催される野球教室にも積極的に参加。U-15世代、U-12世代の育成現場に出向き、子供たちや指導者と接する機会も多い。そんな斉藤氏が、子供たちと接する時に必ず実践するのが「子供たちの声に耳を傾けること」だ。

写真提供=Full-Count

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野球教室で必ず実践するのが「子供たちの声に耳を傾けること」

 パ・リーグ史上初となる2度(2003年、2006年)の沢村賞受賞を果たした元福岡ソフトバンクホークスの右腕・斉藤和巳氏。2006年にはプロ野球史上7人目の投手5冠を達成するなど輝かしい成績を残す一方、右肩の怪我に泣かされ、2013年7月に現役を退いた。その後は解説者を務めながら、各地で開催される野球教室にも積極的に参加。U-15世代、U-12世代の育成現場に出向き、子供たちや指導者と接する機会も多い。現役時代から数多くの野球教室に参加する中で、育成の在り方や教えることの難しさについて考えさせられる場面が多々あるという。

 そんな斉藤氏が、子供たちと接する時に必ず実践するのが「子供たちの声に耳を傾けること」だ。

「現役時代から数多くの野球教室に参加させてもらってますが、ほとんどが小学生対象。僕は基本的に教えることはしません。なぜなら、子供たちを混乱させたくないので。彼らは、普段からチームの監督やコーチ、父兄に『こういう投げ方がいい』って、何かしら言われていることがあると思うんですよ。だから、僕はまず子供たちを集めて、いつも何を大事にしながらプレーしているか聞くんです。その後で『じゃあ、今日はここを気を付けてやってみよう』と、今までのやり方を否定せずに進めるようにしています。

 失敗しても否定はしません。言ったことを、そんなすぐにできるわけがない。プロ野球選手だってすぐにできないのに、子供たちがすぐできるわけがない。とにかく、野球教室の時間は、失敗してもいいから、1つのことをみんなで一生懸命やろうって言います。失敗しろ、1つの成功を喜べっていうやり方をしますね」

自信をつけるためにも結果は大事、導き方は大人の工夫次第

 野球教室の場合、子供たちと接するのは開催日当日だけ。しかも、一緒にボールを追いかけるのは1?2時間と限られている。その中で技術指導を期待されることもあるが、斉藤氏は「野球を少しでも好きになってもらうこと、好きでい続けてもらうこと」を第一に考えて、子供たちと接するという。

「教えるって難しいんですよ。単発の野球教室で、1時間や2時間で物を教えるなんて何様やって話なんで(笑)。もちろん技術指導することもできます。ただプロ野球選手の言葉はそれなりに重みを持つので、今まで教わったやり方を『違う』と言えば、子供たちが『違う』って思う可能性は十分に秘めているんですよ。でも、子供たちは次の日から通常に戻るわけですから、今までのやり方を否定して、そこで混乱させてはいけない。子供は真っ白なキャンバス。そこにそれぞれが、自由に絵が描けるように、大人が環境を整えてあげることが大切だと思います」

 一昔前と違い、最近では子供の自主性に任せる指導方法が取り入れられるようになってきた。目の前の勝利にはこだわらず、子供たちの将来を見据えた育成はあるべき姿だが、同時に野球はスポーツ。勝つ喜びは何事にも代え難い。

「難しいですけど、勝たないと面白くない。失敗してもいいというゆとりを持たせながら、勝てれば一番いいですけどね。試合に勝つことで、自分たちがやっていることは間違いじゃないっていう自信に一気に変わるんです。そこから、子供たちが『もっとこうしたい』って、自分から動いてくれれば最高。そう考えると結果は必要ですよね。試合に勝つ負けるもそうですけど、いい球を投げられたとか、ヒットが打てたとか、難しい打球が捕れたでもいい。そこへどういう形で導いてあげるのか。そこは大人が工夫しなければいけないところですね」

「親の熱が強すぎてもダメですよ。我慢することも大事」

 最初は「子供が野球を上手くなるように」という親心だったものが、徐々に熱を増して、自覚しないままに過度な期待やスパルタ指導につながることもある。野球教室でチームの監督やコーチ、父兄との質疑応答の時間が持たれると、驚かされることもあるという。

「『うちの子は体が大きくないんですけど、どうしたら大きくなりますか?』なんていう質問をよく受けるんですが、小学生のうちから体を大きくすることなんて考えなくていいです。そんな頃から『大きくなるためにあれしろ、これしろ』って押しつけたら、子供は嫌になってしまう。背も身体も時期がくれば大きくなります。子供は骨が出来上がっていないんだから、年齢に合わないトレーニングをして怪我につながったら元も子もない。

 親の熱が強すぎてもダメですよ。子供のためって思うんだったら、我慢することも大事。失敗した時に一番堪えているのは、子供自身ですから。大人だって仕事でミスした時に上司から怒鳴られたら落ち込むでしょ。子供も同じですし、もっと繊細ですから。自分の子供だと『かわいさ余って…』となってしまうことも分かります。でも、そこは堪えてほしいですね」

「育成の基本は、大人が工夫したり、視野を広げることにある」と考える斉藤氏。これからの野球教室は、子供にとっては触れあいの場、大人にとって学びの場である方が、より効率が増すのではないかという。

「子供たちにはプロ野球選手や元プロと接することで、野球を好きでい続けてもらうことが大事。いろいろな野球のあり方を学ぶべきは、子供たちを教える根本にいる指導者や父兄だと思います。大人がやり方や考え方を工夫すれば、子供は自然と変わっていきますから。そういったことを、少しでも伝えていけたらいいですね」

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