初代アジア王者に輝いた侍ジャパン女子代表 18歳以下の選手たちが掴んだ大切なもの

2017.9.11

2日から香港で始まった「第1回 BFA 女子野球アジアカップ」。侍ジャパン女子代表は5戦全勝の優勝で戦いを終えた。橘田恵監督が初の女性監督として指揮を執り、フル代表が出場する先の大会を見据えて高校生年代で挑んだ日本。目標としていた初代女王の座についたが、それは通過点に過ぎない。

写真提供=Getty Images

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18歳以下のメンバー構成で5戦全勝、橘田監督「国際大会に対応できる選手だった」

 2日から香港で始まった「第1回 BFA 女子野球アジアカップ」。侍ジャパン女子代表は5戦全勝の優勝で戦いを終えた。橘田恵監督が初の女性監督として指揮を執り、フル代表が出場する先の大会を見据えて高校生年代で挑んだ日本。目標としていた初代女王の座についたが、それは通過点に過ぎない。

 快勝した試合もあれば、ハラハラした試合もあった。日の丸の重圧を感じながら、20人の高校生たちは国際大会を戦い抜いた。無傷の全勝で目指してきた初代チャンピオンとなり、橘田監督は「とにかく、ホッとしています」と息をついた。

「国際大会の経験がない高校生の選手ばかりで挑み、現地に入る前も入ってからも体調不良者が続出してしまった。今までこういうことはなかったと過去のことも伺い、高校生の難しさがあるなと最初に感じました。体調がどう回復していってくれるかと、とにかく不安なスタートでしたが、日に日に順応していってくれた。そこもさすが高校生だなと思いました」

 選手の体調だけでなく、雨による試合時間の変更や試合の運行など、様々な場面でハプニングが起こった。

 結局は金属バットで試合が行われたが、監督会議では「木製バットのみ使用」と言われた。1試合目の前にはキャッチボールを行うスペースで問題が発生。選手は外野と外野フェンスの奥を行ったり来たりし、満足にキャッチボールができないまま試合に入った。大会3日目、日本は第1試合だったが、天気は雨。球場に向かうよう指示があったが、現場に役員はおらず、ひたすら待機した。一度、中止との連絡があり、宿舎に戻ったが、その日の第3試合で試合が行われることになった。

 橘田監督はオーストラリアでのプレー経験がある。2012、14年のワールドカップでは技術委員、昨年のワールドカップでは日本人女性初の大会技術委員長を務めた。そんな国際経験豊富な指揮官だが、国際大会初開催の香港では予想を遥かに超える出来事ばかりだった。

「国際大会はアクシデントがあると選手たちに伝えてきましたが、想像以上でしたね。ただ、それに対応できる選手たちでした」

勝利を義務付けられた選手たちが触れた世界の野球事情

 日本では経験しないようなハプニングを乗り越えて戦った選手たち。大会に帯同した全日本女子野球連盟の長谷川一雄会長はこの経験をしてほしかったと話す。

「日本は力からいって、勝つことには勝つだろうと思っていました。ただ、この子たちには、外国での国際大会を経験してほしかったんです。この前の雨が降った状態やお昼が出てきても食べられないとかね。今、ワールドカップで6連覇していますが、女子の硬式野球の認知度を上げるためには勝ち続けるしかありません。そのためにも、あとに続く選手に国際大会の経験があり、外国でプレーすることに戸惑いがないようになってほしいと思いました。」

 日本国内では高校の女子硬式野球部が年々増え、女性選手も増加傾向にある。その中で、世界で勝ち続けることは、世間への認知度アップやさらなる選手増につながる。そのために求められるのは国際舞台に強い選手だ。

 橘田監督もこう話す。

「フル代表への準備として若手の育成ができるというのはいいことだなと思います。国際経験を積んだ若手世代がいるということは強みになります。海外に強い、弱いというのはありますから、順応性がある子が適していますからね。今回、海外が苦手だなと感じた子はどうしていくべきか発見にもなったでしょう。日の丸を背負ってプレッシャーの中で野球をしたことはいい経験になったと思います。高校生世代にとっても1つのいい目標ができました」

 若い世代の国際経験は、日本のレベルアップにはもちろん、世界の女子野球の向上にもつながる。今大会中には、他国の選手との交流もあった。パキスタンの選手たちには試合後にトスバッティングを教え、クールダウンを一緒に行った。インドとは試合前にウォーミングアップをともにし、交流を図った。「国際協力をしていきたい」という日本代表の思いから実現した。選手たちは情報不足や道具の質の違いを体感。「いくら言葉で伝えていても、日本がこれほどまでに恵まれているということは初めて感じたと思います」と橘田監督。選手たちは勝利を義務付けられた中で世界の野球事情にも触れた。

来年はワールドカップ6連覇へ「チームを早く編成し、スタートしたい」

 今大会、日本の内野手は無失策で大会を終えた。外野はグラウンドの傾斜や芝生の質で打球判断が難しい場面もあったが、「連続したミスはなかったのでよく適応してくれた」と橘田監督は合格点を与える。投手も硬くて傾斜のあるマウンドだったが、力を発揮し、「申し分ない」と指揮官は言う。守りは素晴らしかった。

 一方で攻撃には反省が残ったという。大会中、橘田監督からは「やっぱり、高校生だなと感じました」という声がよく聞かれた。攻撃面で意思疎通ができない場面が目立ったからだ。例えば、4戦目の香港戦。橘田監督は「私が『初球からいけよ』と言ってしまいましたが、ストライクゾーンが広かっただけに打ちやすいボールを打たせてあげるべきだったなと思います」と省みる。

「初球から打ちにいっていいところと、自分が打ちやすいボールをしっかりと打つところの指示ですね。また、走者が出なかった時にどうやって出るか。速い打球を打たないといけないところでフライアウトが多かったのでまだまだ未熟でした。(大会を通じて)試合の中での準備が足りず、攻撃のバリエーションも少なかったです」

 初の代表監督として指揮を執り、感じた急造チームの難しさは次回に生かす。橘田監督はゲームセットの瞬間にワールドカップを見据えていた。

「ワールドカップに向けてチームを早く編成し、スタートをしたいと思っています。守備は良いのですが、攻撃のバリエーションと考え方ですよね。考えられる選手たちがたくさんいるのなら自分で状況判断をして工夫ができると思うんです。ただ、一発勝負でプレッシャーのある中で戦うのでサインの数がないといけない。ここでこうするんだと伝えるツールとしてサインは必要なので、早めの準備をしていかないといけません」

 優勝2回のアメリカ、昨年の準優勝など6度の4強入りがあるカナダ、昨年銅メダルのベネズエラ、さらにはオーストラリアやチャイニーズ・タイペイとワールドカップはアジア大会以上に神経をすり減らす戦いになる。来年の詳細は決まっていないが、過去の大会期間を参照するとチームとしての策を整える準備期間は1年もない。アジア大会初代女王となった瞬間から侍ジャパン女子代表はワールドカップ6連覇に向けて動き出した。

【了】

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